前作『オン・サンセット』からわずか10ヶ月でリリースされる通算16枚目。プロデュースは前作同様、ウェラーとジャン・カイバートで、ベン・ゴードリエ(ドラムス)、アンディ・クロフツ(ベース)、スティーヴ・クラドック(ギター)というツアー・メンバーを中心とした布陣も前作と変わりない。
基本的に多作なウェラーだが、とりわけ今作のリリース・タームが短いのは、コロナの余波でツアーがなくなったことも大きい。レコーディングとツアーがウェラーの活動の両輪だとすれば、その片方がなくなったことによる心理的な影響は少なからずあったはずだ。ぽっかり空いた時間を埋めるように曲を作り、自宅スタジオで宅録したデモ音源をメンバーに送って各パートの音を重ねてアレンジを固め、ロックダウンが緩和された段階でメンバーが集合し、一気に録り進めた。ゲストは盟友アンディ・フェアウェザー・ロウやウェラーの娘リアなどが参加するも、いつもに比べればその数は少ない。
内容はと言えば、前作同様に「なんでもアリ」だ。前作はアコースティック主体のアルバムだった前々作『トゥルー・ミーニングス』の反動という面もあったが、本作はロックダウン下での孤独な密室作業が主だったことが関係していそうだ。
「(制作作業が)全員一緒でなかったのはちょっと変な感じだったが、少なくとも仕事を途切れず続けられた。そうでなければ、気が変になってしまっただろうから」とウェラーは語っているが、とにかく溜まりに溜まったストレスを吐き出すように、アルバムのコンセプト云々よりもまず、自分の中にあるなにもかもを曲にせずにはいられなかったのだろう。
1曲目のウェラー流エレクトロ“コズミック・フリンジズ”や最近のエレクトロニックR&Bに共振したようなタイトル曲“ファット・ポップ”といった変化球が、“トゥルー”、“テスティファイ”といった王道ウェラー節とうまくバランスしている。相変わらずウェラーの実験精神と冒険心は健在である。明確なギター・リフが楽曲を引っ張っていくような攻撃的なロックンロールはないが、その代わり変わらぬウェラーの黒人音楽への情熱を感じさせるソウルフルで滋味深い楽曲が揃った。終曲のバラード“スティル・グライズ・ザ・ストリーム”のように、内省的で静かな情熱を感じさせる曲がとりわけ際立つ。
そしてこれらの曲がライブで披露されれば、また違った表情を見せることは間違いない。ウェラーの楽曲は、すべてライブで演奏することを前提として作られているはずだからだ。その日が楽しみ。(小野島大)
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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