
ポール・ウェラー
新ベスト盤『モア・モダン・クラシックス』収録全曲を語る!
ブリットポップ以降に登場したおおよそすべてのUKバンドなら、今も昔も変わらず多大な影響を受けている元祖のひとり、ポール・ウェラー。これまでにもいくつか編集盤をリリースしているポール・ウェラーが、最新となる『モア・モダン・クラシックス』を発売した。2004年のソロ・アルバム『スタジオ150』以来、ウェラーが試みてきたポスト・パンクやファンクの新解釈をはじめとしたソロ・キャリアを包括する内容になっている。つねに前進し続け、ミュージシャンから音楽ファンまで幅広く、今なお新たなロック・リスナーを惹きつけてやまないポール・ウェラー。疾走し続ける15年のキャリアを総括したベスト盤『モア・モダン・クラシックス』収録曲を御大自らが語る全曲解説をお届けする。
(文=羽鳥麻美)
01
He’s The Keeperヒーズ・ザ・キーパー
「“ヒーズ・ザ・キーパー”を書いたのは、ロニーが死んだというニュースのすぐ後だった。ケニー・ジョーンズから電話がかかってきて『ロニーが逝ってしまった』と言ったんだ。俺はこのことにかなり大きく影響された。彼はある意味できちんと評価されてないヒーローだと思うんだ。俺はロニー・レーンのファンで、彼の姿勢が好きだったというか、彼はフェイセズで登りつめたスターダムを蹴って“The Passing Show”ツアーをはじめ自分のやりたいことをやった。さらに俺は、彼がソングライターとしてすごく過小評価されてると思ってる。本当は作詞家としても素晴らしかったし、メロディも素晴らしかった。だからこの曲は、彼に対するトリビュートのようなものだね。どちらかと言うと錆びた甲冑をつけた騎士みたいな、ドン・キホーテのようなキャラクターとして描いてるんだ」
02
Sweet Pea My Sweet Peaスウィート・ピー、マイ・スウィート・ピー
「まあ子供全員のことと言ってもいいけど、実際は娘のリアについて書いた曲なんだ。彼女がいつも笑っていて、いかに俺を幸せな気持ちにしてくれたかっていう……本当にただそれだけの、父親のラヴソングだね」
03
It’s Written In The Starsイッツ・リトゥン・イン・ザ・スターズ
「確かに過去にも似たようなことをやったことはあったけど、でもこの曲はサイモン・ダインが参加してるという点が違う。彼はすごく独特なサウンドを生み出すんだ。彼と一緒にやったのはこの曲が初めてだったから、そういう意味でもちょっと違う感じの曲だよ」
『スタジオ150』の頃、ある意味ヴォーカルのアプローチを変えたんだ
『スタジオ150』の頃、ある意味ヴォーカルのアプローチを変えたんだ
04
Wishing On A Starウィッシング・オン・ア・スター
「まったく曲を書いてない時期があって、その時にカヴァー・アルバムをやったんだよ。当時は誰かに曲を書けと言われることもなかったんだ。それでも俺はレコードが作りたかった。カヴァー・アルバムはそれまで一度も作ったことがなかったから、いいと思ったんだ。最初はごく普通に自分が大好きな曲を選ぼうとしたんだけど、でもアプローチを変えて、一番好きというわけではない、むしろ自分がよく知らない曲を選んでみようと考えた。そしてその曲で自分に何ができるのかを考える方がアーティスティックなことができるんじゃないかと思ったわけさ。そういう基準で選曲をしたんだけど、この“ウィッシング・オン・ア・スター”の出来はすごくいいと思うね。実はそれほど気に入ってない曲も入ってるけど(苦笑)。でも何より、俺はあのレコードを作っていてすごく楽しかったんだ。さらにこの作品では歌い方を学んだと思う。この時ある意味ヴォーカルのアプローチを変えたんだ。自分の曲ではないからプレッシャーを感じていなかったというか、より柔軟になれたというか。とにかくカヴァーするにしても“ウォータールー・サンセット”やビートルズ曲の別ヴァージョンを自分がやるのはまったく無意味だと思ったから、違うアプローチを考えたわけさ」
05
From The Floorboards Upフロム・ザ・フロアボーズ・アップ
「たとえばツアー中の或る晩のライヴが最高だった時、すごく特別で、ステージの足元からパワーが噴き出してきてそれが観客全体に広がっていくような感覚になることがある。エネルギーが床から湧き出てくるような……つまりライヴについての曲だよ。それからたとえばニューカッスル・シティ・ホールといった古い会場は、昔から多くのバンドがやっているわけだけど、バンドや観客や音楽から発せられたエネルギーがきれいさっぱり消えてしまうわけじゃない。壁や椅子やその空間全体がそれを吸い込んでるんだということ。この曲ができたのは、カヴァー・アルバムを作っていた時期で、当時は曲をまったく書いてなくて、確か18ヶ月ほど書かない時期が続いていたんだけど、でも突如として次々と曲が湧き出てきて、結局19曲だったか、そのくらいレコーディングしたんだよ。ある意味、新たな創作人生の始まりだったね。新しい力を見つけたような……そう、グラスゴーでギグをやり終えてホテルの部屋へ戻ってからこの曲を書いて、翌日楽屋でデモを録ったんだ。みんなでジャム的に演奏してさ。それで確かその2日後にはセットリストに入れていたんじゃなかったかな」
06
Come On Let’s Goカモン/レッツ・ゴー
「たとえば彼女か誰かと話してて、とにかくどこかへ行きたいといった逃避願望、場所は決まってない、どこでもいい、きっと楽しいよっていう。まあそういう感じの曲だね。あのアルバム全体がライヴ収録だったんだ。1週間ほどリハーサルやって、かなりタイトに仕上っていた。バンドを組んで、結構な人数で、ライヴで演奏してさ」
07
Wild Blue Yonderワイルド・ブルー・ヨンダ—
「この曲については、語るべきことが本当にたくさんあるけどね。アムステルダムでレコーディングしたんだ。愛とセックスについての曲。実はアムステルダムで3〜4日遊ぶ口実で、そりゃもうどんだけ楽しんだかっていう話なんだけどさ。それが事の真相(笑)」
08
Have you Made Up Your Mindハヴ・ユー・メイド・アップ・ユア・マインド
「この曲は『22ドリームス』の収録曲のうち、最も早い段階でできた曲のひとつ。俺がベースとギター、スティーヴがドラム、ギターで……たぶんほぼ俺とスティーヴだけでやったんじゃなかったかな。それまでとは違ったやり方で、というのも明確なバンドという形でそれぞれが自分の仕事をこなすということではなくてさ。きっちり決めずに、直感に従って作りながら、何が起こるかやってみようという。この曲には古いソウル・レコード的な雰囲気があると思う。少なくとも俺はそういうものを目ざしてたんだよ。演奏することの喜びがあったし、作るのも楽しかったね」
ノエルが自分で作ったすごくいいドラム・ループがあって、それがこの曲の基礎となったんだ
ノエルが自分で作ったすごくいいドラム・ループがあって、それがこの曲の基礎となったんだ
09
Echoes Round The Sunエコーズ・ラウンド・ザ・サン
「ノエルが自分で作ったすごくいいドラム・ループがあって、それがこの曲の基礎となったんだ。ノエルとゲムの2人がスタジオに来て、ノエルはベースとキーボードを弾いて、ゲムがギター弾いて、スティーヴ・クラドックがドラムで……いや、この曲は本当に好きだね。確か1日やそこらで、すんなりとまとまったんだ。出色の出来だと思うよ」
10
All I Wanna Do (Is Be With You)オール・アイ・ウォナ・ドゥ(イズ・ビー・ウィズ・ユー)
「この曲は、かなり長いこと転がってたね。俺とスティーヴ・クラドックが2人で全楽器を分担したんだ。なかなかいいラヴソングだよね。そもそもあの曲を書いたのは俺だけど、でもアレンジ面ではスティーヴの方が全然アイデアをたくさん持ってたんだよ。テクスチャーだとかギター・パートだとか、最後にチェロも入ってるしさ」
11
Push It Alongプッシュ・イット・アロング
「自分自身をプッシュしようとしてたことは間違いない。『22ドリームス』というレコードの制作が進むほどに、さらなる可能性が開けていったんだ。この作品で、自分がミュージシャンであること、シンガーであることを自覚したというか、確固たるアイデアを持たずに、ただスタジオに入って歌ってみて作ってみてそこで何が起こるかっていうことだったんだ。単純に、新たな作り方、新たな取り組み方だったんだよ。俺はそこで、何事にもオープンな状態で臨むべきだってことを学んだね。変化し続けていかなければ、自分自身のパロディに成り果ててしまうんだって。それに関しては、はっきりと意識していたよ」
12
22 Dreams22ドリームス
「“22ドリームス”はリトル・バーリーの連中が参加してる曲。ある日バッキング・トラックを作ってて、いい感じでタイトに仕上ってきた。でも決め手に欠けていて、一旦パブ行って飲んで、戻ってきてやったら決まった(笑)。彼らと一緒にライヴで歌うのは楽しかったよね、バンドもライヴで演奏してさ。しかも普段一緒にやっているバンドじゃないから、すごくエキサイティングだったし、バンドの力学が変われば、アプローチの仕方も変わる。うん、あの日は楽しかった」
13
No Tears To Cryノー・ティアーズ・トゥ・クライ
「この曲は、クレム・カッティーニに参加してもらっていて、彼はドラムの達人、おそらく誰よりも多くのNo.1レコードで叩いてる人だよ。ダスティやウォーカー・ブラザースのレコードでもやってるし、この曲にもってこいの人だと思ったんだ。ある意味この曲は、ああいったスタイルの音楽に対する会釈、挨拶のようなもの。最高のテイクを2回やって、それで終わり、帰り支度をして去って行ったよ」
『22ドリームス』は怒りのレコードだと言われるけど、道を開くレコードなんじゃないかと感じてた
『22ドリームス』は怒りのレコードだと言われるけど、道を開くレコードなんじゃないかと感じてた
14
Wake Up The Nationウェイク・アップ・ザ・ネイション
「その時期に他の誰もやってないことをやるというのは意識的だった。再びストリートへと戻る、クラブに立ち返るような音楽。別に俺のこのレコードのおかげってわけじゃないけど、ここ数年はそういう意味でいい感じの音楽が出てきてると思う。エネルギーが感じられない音楽ばかりの時期があったけどね。これは怒りのレコードだと言われるけど、実際自分達に怒りがあったかどうか分からない。道を開くレコードなんじゃないかと感じてたんだ。サウンドという意味でも、意図という意味でもね。そういうことをやっている人があまりいなかったと思う。でも妙な話というか、作った当時の自分が50何歳だったか分からないけど、これは18歳の連中が言ったりやったりすべきことだよな。まあでも今は昔よりずっと企業が支配してる時代だから難しいのかもしれないね」
15
Fast Car/Slow Trafficファスト・カー/スロウ・トラフィック
「ブルースとは前から話してたんだけど、とにかくまず“ファスト・カー/スロウ・トラフィック”のバッキング・トラックがあって、彼のベース・スタイルがすごく合うと思ったし、実際すごくよかった。この曲も早かったね、数テイクで終わったよ。アルバム自体もすごく気に入っていて、すごく独特で、ある意味ザ・ジャムがこだましている気がするんだよな。と同時に、音的に少々アヴァンギャルドな傾向もある。それが2分ちょっとの曲に詰まってるわけさ」
16
Starliteスターライト
「これはシングル曲で、12インチのアナログ盤も出たよ。80年代の終わりから90年代初期の頃に聴いていたディープ・ハウスとか、そういうものに遡るような感覚があったね。これを作ってた時に思い出していたのが、たとえばフィンガーズ・インクといった自分がすごく好きだったレコード。すごくメロディックで、ディープ・ハウス的なさ。だから他の曲と違いすぎてアルバムに入れないことにしたんだよ(『ソニック・キックス』デラックス・エディションのボーナストラックとして収録されている)。今でもああいったスタイルの音楽は好きだね。つまりスタイル・カウンシルの未発売レコード、あの却下されたやつみたいな(笑)。俺だって別にああいった種類の音楽に疎かったわけじゃないってことさ」
40代、50代でこんなことやってていいんだろうかって? そんなもん、当然やっていい
40代、50代でこんなことやってていいんだろうかって? そんなもん、当然やっていい
17
That Dangerous Ageザット・デンジャラス・エイジ
「“ザット・デンジャラス・エイジ”は要するに、人々が抱いている先入観に対する俺の怒りというか、つまりある一定の年齢になったらこういう振る舞い、こういう格好をすべきだ、こう考えるべきだっていうような先入観。ある男が仕事で行き詰まって、本当に好きでやってるわけじゃないけど収入がいいからやってる仕事で……それで、中年になって精神的な崩壊が起こるわけだよ。でも俺自身には全然当てはまらないけどね。決まりなんてないんだ。たまにギグで俺と同年代の人を見かけるとさ、本当は思いっきり羽目を外したそうなのに、ちょっと周りを意識してる感じがあるわけ。40代、50代でこんなことやってていいんだろうかっていう。そんなもん、当然やっていい。好きにすりゃいいんだよ。他人がどう思うかなんて気にする必要はない、そんなもんクソ食らえだ。まあ、曲の意図はそんなところかな」
18
When Your Garden’s Overgrownホエン・ユア・ガーデンズ・オーヴァーグローン
「俺はシド・バレットのファンなんだ。曲の題材としていいと思ったんだよね。もし彼が音楽の道に進まずに画家のまま生きていたらシドの人生はどうなってたんだろうなあと想像したんだよ。バンドで諸々のプレッシャーを感じることもなく、イーゼルと絵の具を持ってスペインやフランスを放浪しながら、ただの絵描きとして生きてたらっていう。そうやってシドの物語を勝手にでっち上げたわけなんだ。もちろん彼へのトリビュートという意味もある」
19
The Atticジ・アティック
「曲自体、少なくともメロディ的には、50年代の曲みたいな感じがあるんだよな。当時妻が留守にしてたから、彼女に会いたいって気持ちが入ってるかもしれない。音楽を聴いてて、そのうちのワンフレーズやフィーリング、もしくは歌詞の一節といった断片から膨らませて曲を作ることがあるんだよ。とにかく音楽を聴いてると何かしら受け取るものはあるね。この曲は、ごく簡潔に、短くしたかったんだ。いつも思ってることだけど、いいシングル、もしくは単にいい曲の目印は、聴き終わって時計を見たら実際は2分半しか経ってないのに感覚的には5分間の旅をしたような印象が残るんだ。そういう曲を作るのはかなり難しい。間違いなく一つの芸術形式で、俺もそこを目指してるよ。たくさんのアイデアを短い時間にコンパクトに詰め込むんだ」
20
Flame-Out!フレーム・アウト!
「この曲のリフは、ツアー中にライヴをやってる時に、『ソニック・キックス』に入ってる曲のアウトロでジャムってる時に生まれたもので、それを下敷きにして曲を作ったんだ。さらにハーモニーで新しいことをしようとしてて、ギターも普段とは違うチューニングにしてコードを弾いてみたら、かなりマッドな音が鳴ってさ。かすかに70年代ドイツっぽい感触があるというか。若干ノイ!的な……どうだろう、分からないけど潜在的には影響を受けてるかもね」
21
Brand New Toyブランニュ—・トイ
「この曲は30年代ドイツのキャバレー的な雰囲気で始まるんだけど、サビで別のところに行くんだ。歌詞もマッドでいろんなキャラクターが列挙されるんだけど、サビはまた全然繋がってないっていう。今後どういう方向へ行くかはまだ早すぎて今の段階ではちょっと言えないね。何はともあれいい曲だろ?(笑)」
関連動画
ポール・マッカートニー、ノエル・ギャラガー、マイルス・ケインらがポール・ウェラーについて語ったインタヴューも公開中。
プロフィール

PAUL WELLER ポール・ウェラー
1977年にザ・ジャムのヴォーカリストとしてデビューし、以降40年近くにわたってシーンに影響を与え続けてきたUKロックの重鎮。ザ・ジャムやスタイル・カウンシルで70〜80年代に活躍し、90年代にソロ活動を開始する。09年にはブリット・アウォードでベスト男性ソロアーティストの称号を獲得し、2012年リリースの『ソニック・キックス』は全英アルバムチャート初登場1位を記録した。オアシスやオーシャン・カラー・シーン、ブラーといった大御所からアークティック・モンキーズなどの2000年代バンドまで数々の著名アーティストたちが、影響を受けたアーティストとして彼の名を挙げている。1998年リリースの『モダン・クラシックス』に続く2枚目のベスト盤『モア・モダン・クラシックス』を6月25日にリリースした。
アルバム情報

『MORE MODERN CLASSICS』
モア・モダン・クラシックス
2014年6月4日リリース
品番:UICW-10001 | 定価:¥2,500+税
- 01. He’s The Keeper / ヒーズ・ザ・キーパー
- 02. Sweet Pea My Sweet Pea / スウィート・ピー、マイ・スウィート・ピー
- 03. It’s Written In The Stars / イッツ・リトゥン・イン・ザ・スターズ
- 04. Wishing On A Star / ウィッシング・オン・ア・スター
- 05. From The Floorboards Up / フロム・ザ・フロアボーズ・アップ
- 06. Come On Let’s Go / カモン/レッツ・ゴー
- 07. Wild Blue Yonder / ワイルド・ブルー・ヨンダ—
- 08. Have you Made Up Your Mind / ハヴ・ユー・メイド・アップ・ユア・マインド
- 09. Echoes Round The Sun / エコーズ・ラウンド・ザ・サン
- 10. All I Wanna Do (Is Be With You) / オール・アイ・ウォナ・ドゥ(イズ・ビー・ウィズ・ユー)
- 11. Push It Along / プッシュ・イット・アロング
- 12. 22 Dreams / 22ドリームス
- 13. No Tears To Cry / ノー・ティアーズ・トゥ・クライ
- 14. Wake Up The Nation / ウェイク・アップ・ザ・ネイション
- 15. Fast Car/Slow Traffic / ファスト・カー/スロウ・トラフィック
- 16. Starlite / スターライト
- 17. That Dangerous Age / ザット・デンジャラス・エイジ
- 18. When Your Garden’s Overgrown / ホエン・ユア・ガーデンズ・オーヴァーグローン
- 19. The Attic / ジ・アティック
- 20. Flame-Out! / フレーム・アウト!
- 21. Brand New Toy / ブランニュ—・トイ
- 22. The Olde Original / ジ・オールディ・オリジナル(ボーナス・トラック)
提供:ユニバーサル ミュージック
企画・制作:RO69編集部