ジュビリーとは「祝祭」の意味

ジャパニーズ・ブレックファスト『ジュビリー』
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ALBUM
ジャパニーズ・ブレックファスト ジュビリー

ミシェル・ザウナーのソロ・プロジェクトで、16年にドリーム・ポップ/シューゲイザー/90sオルタナ・ロック愛満載の『サイコポンプ』でデビューしたジャパニーズ・ブレックファスト。本作は、その通算3枚目となる新アルバムである。

前作『ソフト・サウンズ・フロム・アナザー・プラネット』は17年のリリースだったから、なんと4年ぶり! アルバムの制作がここまで遅くなったのは、この4年間、彼女が多くの時間を回想録『Crying In H Mart』の執筆に注いでいたからだ。去る4月に全米で出版された同書は、韓国出身で、闘病生活の末にガンで亡くなったミシェルの母親との思い出を、かつて一緒に食べた韓国料理の味の記憶(題名の「H Mart」は、子供の頃に母親とよく行っていたコリアン・タウンの食料品店の名前だ)を通して振り返るという本。

ご存じのとおり、母親の病と死はジャパブレの過去2枚のアルバムの主題でもあったわけだけど、今回の本はミシェルにとって3部作の「最終章」を締めくくるものであり、それは音楽ではなく、あえて本でなくてはいけなかったのだろう。悲しみを越えるために、人は、過去の記憶と一度は深く向き合わないといけない――それがどれだけつらいことだとしても。

そして、今回の『ジュビリー』へと話は移る。彼女にとって音楽への帰還作となった本作は、生きることの喜びをそのまんまの勢いで鳴らしたような、どこまでも快活で、力強いアルバムである。歓喜のほとばしりは、弦楽器やホーン・セクションの響きに導かれる“Paprika”でいきなり全開となり、ワイルド・ナッシングのジャック・テイタムと共作(これまた彼女にとっては新展開だ)したファンキー・ポップな“Be Sweet”へ繋がっていく。

アルバムが進むにつれ、よりダークな風景と向き合う曲も現われるけど(“Posing in Bondage”、“Posing for Cars”)、決して暗くはない。ギター&シンセが主体だった過去2作と異なり、本作はピアノをメイン楽器として曲作りが進められ、そのぶん、音の空間の使い方がよりオープンに広がった。なんというか、風通しがよくて、「空気がおいしい」アルバムなのだ。

そして、そんな新ジャパブレ・サウンドの象徴と言えるのが「80sソフィスティ・ポップ」との幸福な邂逅だろう。サックスの音色が『アヴァロン』時代のロキシー・ミュージックを彷彿させる“Slide Tackle”を初め、本作の楽曲は、80年代のポップ職人から触発されたアイデアによってカラフルに、そしてジョイフルに彩られていく。また、本作を制作中、彼女はビートルズも聴いていたそうで、その影響は“Kokomo, IN”の柔らかなメロディや、ジョージ・ハリスン風ギターの心地よい「温もり」の中に聴き取ることができる。

その「温もり」は、本作全編を包む込むキーワードでもあるだろう。『ジュビリー』は、ミシェル・ザウナーが大切な人の死を乗り越えた先で見つけたものについてのアルバムである。それはまた、彼女がいつの日か書くであろう、未来の新しい回想録の「第1章」でもある。(内瀬戸久司)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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ジャパニーズ・ブレックファスト ジュビリー - 『rockin'on』2021年7月号『rockin'on』2021年7月号

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