ギターは歌うよ、どこまでも

ポール・ギルバート『ウェアウルヴス・オブ・ポートランド』
発売中
ALBUM
ポール・ギルバート ウェアウルヴス・オブ・ポートランド

レーサーXでは速弾きギタリスト、その後に日本で絶大な人気を誇るMR.BIGの一員として名を馳せたポール・ギルバート。特に後者においては“ダディ、ブラザー、ラヴァー、リトル・ボーイ”のドリル奏法、名曲の誉れ高き“60’s マインド”など記憶に残るギター・プレイで聴く者を虜にした。その2曲を収めた2ndアルバム『リーン・イントゥ・イット』(大傑作)が今年30周年の記念盤を出すタイミングで、ポールから2年ぶりになるソロ16作目が到着。

もともと本作は他のミュージシャンと作り上げる予定だったそうだが、パンデミックの影響を受けて、彼自身がギター、ベース、キーボード、ドラムと全楽器を担当している。

音楽的には前作『ビホールド・エレクトリック・ギター』同様に、まず歌詞を書き、そこからメロディの着想を得て、ギターに落とし込むという彼独自の作曲方法を踏襲している。そうしたユニークな楽曲の成り立ちからもわかる通り、他とは一線を画したインスト集と言えるだろう。高度かつ流麗なプレイを存分に発揮しながら、何よりも歌心や情景描写に長けたフレージングが抜群に冴えている。前作よりもギター・オリエンテッドな曲調が増え、作品全体のトーンも明るさが増した印象だ。手数や展開もふんだんに盛り込みつつ、どの曲も心がフワッと軽くなる奔放な空気感に溢れている。

ポール自身の音楽に対するオプティミスティックな姿勢が伝わり、聴くたびに新たな景色に出会え、彼の脳内を覗き見したくなるミステリアスな世界観も感じられる。「パイを食べることについては全員の意見が一致するように感じられたんだ」と自ら説明するリリック付きMV“アーギュメント・アバウト・パイ”の色彩豊かにして饒舌なプレイは白眉。(荒金良介)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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ポール・ギルバート ウェアウルヴス・オブ・ポートランド - 『rockin'on』2021年7月号『rockin'on』2021年7月号

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