大飛躍の予感

ビーバドゥービー『アワー・エクステンデッド・プレイ』
発売中
EP
ビーバドゥービー アワー・エクステンデッド・プレイ

素晴らしい。1stアルバム『フェイク・イット・フラワーズ』以来、8ヶ月ぶりの新音源は4曲入りEP。The 1975のマシュー・ヒーリーとジョージ・ダニエルのプロデュースにより、オックスフォード郊外の農場で共同生活を送りながらレコーディングされたものだ。全曲がThe 1975組との共作だがもちろんそこには十分な意思疎通が交わされており、すべてがビーバドゥービーの世界として過不足なく表現されている。

先行公開されたオープナー“Last Day on Earth”は浮遊感のあるサイケデリックなサウンドに仕上がっており、まるで初期ストーン・ローゼズシャーラタンズを彷彿とさせるようなマンチェ風のダンス・ナンバーになっている。ビーバドゥービーのソフトでキュートな質と曲調が完全にマッチしている。

歌詞はタイトル通り「世界が終わる時なにをするか」という内容で、ロンドンがロックダウンされた時に書かれた楽曲だが、そこに厭世的なニュアンスはなく、むしろこんな時期だからこそセカンド・サマー・オブ・ラブでの歓喜に満ちた幸福な一体感をもう一度取り戻そうというメッセージを感じる(MVはそれをさらにわかりやすく表している)。

このドリーミーで現実逃避的だが一方で切実なトーンは、本作に一貫したものだ。作曲者クレジットにネルソン・リドル(フランク・シナトラやリンダ・ロンシュタットとも共演したアメリカの編曲者/指揮者)とロバート(ボブ)・ハリスが名を連ねているが、彼らが担当したスタンリー・キューブリック『ロリータ』(1962)のサントラからサンプリングしたネタを使っているようだ。こういう思いも寄らぬネタ使いがThe 1975らしい。

続く“Cologne”は一転してグランジ風のノイジーな曲だが、ソフトだが芯の通ったビーバドゥービーのボーカルが一貫しているから、EPのトーンは崩れない。“Animal Noises”は成長することへの恐れと理解を歌った曲で、初期ビーバドゥービーのようなギター弾き語りに始まり、次第にバックが分厚くなっていくアレンジは、デビューして短期間で成長していった彼女自身のメタファーのようでもある。バンジョーのように聴こえる生ギターのアルペジオが効いている。

そして終曲の“He Gets Me So High”は、もともとはThe 1975の楽曲だったそうだが、これはギターのトーンから曲調から、もろに90年代ギター・ポップそのものといった感じの優しいもので、素敵だ。ここでも耳に残るのはビーバドゥービーのコケティッシュな声だ。

バラエティに富んだ内容だが、一本筋が通っていてとっちらかった印象を受けないのは、プロデュースに彼女のキャラや声質やアーティスト性や志向性を考慮してそれを最大限に活かす工夫が為されているから。すべてが彼女に寄り添いながらも、世界が大きく広がっている。The 1975組とのコラボレーションは大成功だし、この経験を踏まえた彼女の2ndアルバムはもちろん、The 1975の次作も本当に楽しみになったと言えるだろう。(小野島大)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。

ビーバドゥービー アワー・エクステンデッド・プレイ - 『rockin'on』2021年8月号『rockin'on』2021年8月号

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