君とのメモリーズのための歌々

マルーン5『ジョーディ』
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ALBUM
マルーン5 ジョーディ

02年に『ソングス・アバウト・ジェーン』でデビューし、来年にはいよいよ20周年を迎えるマルーン5。本作は、通算7枚目(17年の『レッド・ピル・ブルース』以来、約4年ぶり)の最新アルバムである。

『ジョーディ』という題名を初めて聞いたときには、「ん? 何それ?」と思った方も多いだろう。“ジョーディ”とはアダム・レヴィーンの幼馴染みで、子供の頃からの一番の親友で、長年マルーン5のマネージャーを務めながら、2017年に急逝した“ジョーダン・フェルドスタイン”の愛称であり、本作のタイトルは彼に捧げたものだ。

思えば、マルーン5のアルバムに誰かの名前が付くのは、デビュー作以来になる。あのときの”ジェーン”は、当時のアダムがガソリンスタンドで知り合ってナンパした元カノだった。同じ「J」で始まる名前なんだけど、両者の印象はずいぶん違う。そこには、20年間という時間の流れの重みが、確かに刻まれている――それだけ、遠くまで歩いてきたんだ。

11曲目の“メモリーズ”は、その亡き朋友ジョーディとの思い出にダイレクトに捧げたナンバー。この曲は、一聴すればわかるとおり、クラシック音楽で有名な“パッヘルベルのカノン”(あの中学校の音楽の授業でリコーダーで習ったやつ)のメロディを一部借用している。

もちろん“カノン”のコード進行のバリエーションを使った歌なんて他にもごまんとあるわけだけど(オアシスの“ドント・ルック・バック・イン・アンガー”とか、スピッツの“チェリー”とか!)、この“メモリーズ”は、カノン・コードの温かみのある旋律を《君と分かち合った思い出に乾杯しよう》という惜別の歌詞に重ねたところがすごくビューティフルな曲だ。鎮魂歌だけど、悲しすぎはしない。気持ちはノスタルジックだけど、音の矢印はどこまでも上向きに上昇していく。その「ポジティブなメロウ感」こそは、2021年のマルーン5のまさに真骨頂である。

そんな“メモリーズ”を精神的な支柱に据えつつ、アルバムのハイライト曲を挙げるとなると、分がいいのはやはり、旬のゲストを客演に迎えた一連のコラボ曲だろう。ブラックベアーのラップが青春のエモい残像と響き合う“エコー”。ジンバブエ出身のラッパー、バントゥーのグローバルなフロウ感が心地好い”ワン・ライト”、80s風シンセ・ポップとH.E.R.の天国的な歌声がマッチした“コンヴィンス・ミー・アザーワイズ”。いずれも今年の夏、あちこちのプレイリストで大活躍しそうな極上のサマー・チューンだ。

そしてクラシック・ロック好きにとって聴き逃せないのは、スティーヴィー・ニックスとの初コラボとなった“レメディ”。ふたりがハモるサビ部分のメロディは、ちゃっかりフリートウッド・マック風になっているところがズルい。今回は完全リモートでの共演だったためか、絡みの接近度がやや薄めなのは残念だけど、いつかどこかで再びがっつり組んでほしいコンビの誕生である。ユニット名は……マルーン・マック、でどうですか?(内瀬戸久司)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
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マルーン5 ジョーディ - 『rockin'on』2021年8月号『rockin'on』2021年8月号

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