ピアノインスト集が4月7日に突然配信されたところからスタートした本作は、その後、事前予告なしでの新アレンジ音源のアップロードを経て完成形に至った。更新を重ねるリリース手法によっても、「まなびと成長」というコンセプトを表現したこのアルバムは、我々がこの1、2年で体験してきた感覚の変化も浮き彫りにしている。たとえば“はなれている”は、相手のことを大切に思うからこそ、そばに寄らないでほしいと願う気持ちを描いているが、コロナ禍が続く世の中では「一緒にいたい」「触れたい」というラブソングの定型表現が無効化されていることが自ずと示されている。そして、それは悲しみであると同時に、新しい感覚を図らずも手にできる一種のロマンチックな体験である点も捉えているのが、ドキリとさせられるところだ。人々に新しい視点を与えるのがアートだが、突然起こる災厄もそれと同種の性質を帯びているというのは、アーティストにとっては嫉妬すら覚える皮肉な現実だろう。そのような感覚にも向き合ったことが窺われる本作は、現在の世の中の空気の記録として生々しく迫ってくる。（田中大）

『ROCKIN'ON JAPAN』8月号より