「小説を音楽にするユニット」として誕生したYOASOBI。デビュー曲“夜に駆ける”以降の革命は周知の通りだが、島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都という直木賞作家4人とのコラボ企画がスタート。「はじめて〇〇したときに読む物語」というテーマをもとに書き下ろされた小説から楽曲を制作するということで、まさにYOASOBIのYOASOBIたる所以が全開になるであろう企画だ。“ミスター”はその第1弾で、島本理生が「はじめて人を好きになったときに読む物語」として書き下ろした『私だけの所有者』が原作となっている。

ボリュームアップしていく陽性のコーラスから始まり、代名詞とも言えるリリースカットピアノとシンセが絶妙に絡み合う。一方通行の想いや喪失感を抱えながら、その気持ちの名前すら知らない主人公の苦悩を描くikuraの歌声とコーラスが交互に聴こえ、物語に奥行きをつける。多彩な音色が詰まっており、しとやかさと軽快さと猥雑さが不思議と共存する巧みなサウンドデザイン。2022年に鳴るポップソングとして、素晴らしく洗練されている。（小松香里）

『ROCKIN'ON JAPAN』4月号より