おいしくるメロンパン、6thミニアルバム『cubism』徹底クロスレビュー。3人が切り開いた新たなポップの道筋――解放された彼らの音はこんなにも力強い!

おいしくるメロンパン『cubism』
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MINI ALBUM

春から夏へ。さらなる自由を求め羽ばたく

彼らの作品は1作ごとに世界が完成されているのと同時に、すべての楽曲と作品が「おいしくるメロンパン」という組曲を構成しているようにも受け取れる。前作『theory』がこれまでに培ってきた技法に新しい手法を用いて制作された抒情的な作品とすれば、今作は新しい手法のなかにこれまでに培ってきた技法が鼓動する、希望の多い作品と言えるのではないだろうか。

“Utopia”はバンドの躍動感が生きた爽やかな楽曲だからこそ、憂いを孕んだメロディやユートピアという概念が持つ危機感、自分で選択をしていくという強い意志が熱く迸る。グラデーションを描くように展開する“トロイメライ”と透明感と色気が溶け合うドリーミーな“水びたしの国”は愛しい時間を噛み締めるようで、新しい世界へ飛び出していく生きざまや決意が刻まれた“灰羽”と“蒲公英”はひたすらに頼もしい。新しい扉を多数開いた結果、これまで彼らが大切に守ってきた本質と現在の外向的なモードが立体的なスケールで表れた。重厚感もすべて抱え、鋭い眼光を放ちながら軽やかなステップで飛び立つ。より豊かな人生を求める彼らの姿は、美しいの一言に尽きる。(沖さやこ)

ズタズタの世界をつなぎとめる想像力

まず、音質がすこぶるいい。おいしくるメロンパンの、滑らかで柔らかな音像から次第に猛り狂うまでの生々しい揺れ幅を持ったバンドサウンドを、適切な解像度で伝えるプロダクションになっている。いびつで残酷な情景を、詩的に鮮やかに活写してゆくようなおいしくるメロンパンの歌は、ナカシマ(Vo・G)というソングライターが常に主観と客観の双方を大切にすることで成立しており、それはたとえば「僕」と「君」の思いのすれ違いを見極めてしまう形で表れている。優れた文芸作品や映画、或いは写真のように、リアルだからこそ美しく切ない。強烈な想像力が、ただ主観的でいることを許さないのだ。本作収録の“水びたしの国”は、カントリーポップ風の穏やかな曲調だが、歌心を汲んで音を奏でるメンバーの想像力に震えた。《ねえ君は今何を思う?/同じこと考えてる?》と歌われる“蒲公英”は決定的だ。彼らの生み出す楽曲は、高まる想像力と比例して奔放な広がりの曲調を獲得してきたけれども、本作では個々の想像力が魔法のように結びつき、いびつで残酷な世界を美しく描き切ってしまうメカニズムがいよいよ明らかになっている。(小池宏和)

(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年6月号より)

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