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“インソムニア”とは、「不眠症」を意味する言葉である。「眠れない」という状態を少なからず経験したことがある人ならわかるだろう。体はギシギシと疲弊し、頭の中はあらゆる思念が錯綜することによって思考の照準が合わず朦朧とし、それでも、その目はかっぴらき続けてしまう。布団もベッドもある。休めばいい。それを体は求めている。休まなければいけない。しかし、その休息への焦りすらも自らを苛む。思考と肉体と生活が、キリキリと摩擦し続ける。そんな人間の状態をEveは捉えている。そして、そんな疲弊と諦念が爪を立てる現実に、彼は希望をぶち込む。「与える」ではなく「ぶち込む」。そんな言い方がしっくりくるやり方で。獰猛なギターサウンド。音は眠れない人間の眼差しのようにリアルと妄想の狭間を漂う浮遊感を持つ。混乱する脳内のように唐突に現れるトラップビート。ギターロックの「速さ」と焦燥感、トラップの「遅さ」と粘り気、そしてアンビエント的なドリーミーさが混ざり合う、傑作。(天野史彬)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年4月号より抜粋)
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