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この社会には「君のためを思っているんだよ」なんて言葉を悦に入って吐きながら、その実、暴力的な態度を取ってくる連中が山ほどいる。そういう連中の心中にあるのは、本当は「君のため」などではなく「いい人なボクちゃん」への自己愛でコーティングされた陶酔的な眼差しにすぎない。反吐が出る。その点、この“ずうっといっしょ!”の主人公は己の「狂い」に自覚的である。自分の見る夢が《悪夢》であると知っているのだから。自分や他人にかけてしまった呪い、トラウマ、喪失感と傷跡……ぐっちゃぐちゃな人間関係と、個人の内側にあるぐっちゃぐちゃな何か、について。まともじゃない? では一体、誰が「まとも」だというのか。虚無を生きろとでも言うのか。愛憎入り混じった激しい言葉の奥には「自分」としてしか生きられない人間の悲しみと決意が宿る。作り手自身の「狂い」への自覚ゆえに生まれた作品。キタニが音楽そのものへ向けた、あるいは聴き手へ向けた、こんがらがったラブソングのようにも聴こえる。(天野史彬)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年7月号より抜粋)
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