ストリングスとピアノ、そしてブレットの歌声だけで構成された前作『ウィルダネス』が過程の一枚、本作のブループリントだったことが、本作を聴いて初めて理解できた。私小説でありセルフ・ポートレイトでもあったソロ第一作から、極端にミニマルな前作をリハビリとして挟みつつ、「ひとり」の表現を必然として初めてプロフェッショナルに磨き上げたのが本作なのである。回りくどいやり方にブレットらしいなぁと思ってしまったが、その甲斐あって本作は鉛筆一本のスケッチから一気に大キャンバスのオイルペインティングくらいの表現の飛躍を見せている。ホーンやストリングスの配置は三次元的広がりを持ち、彼が映画のサントラの手法をモチーフとしたことを裏付けている。バーナードのように明確な「対」を成すパートナーではなく、あくまで黒子としての共作者(レオ・エイブラハムズ)を登場させたことにも、これからはひとりで、本当にひとりでやっていくんだという決意が垣間見えるようだ。スウェードを終わらせた時、ティアーズを諦めた時、彼は常に自身のペルソナをリセットしてきた。でも、もうそんな必要はなさそうだ。(粉川しの)