クラクソンズからケリー・オケレケまで旬の若手をコラボレーターとして召集し、つまりはケミカル・ブラザーズこそが2007年当時のニュー・レイヴと呼ばれたダンス・ロックの潮流のゴッドファーザーであることを改めて知らしめたのが前作『ウィー・アー・ザ・ナイト』だった。つまり、ケミカル節の定番とされたビッグビート・アンセムからの離脱宣言となった前々作『プッシュ・ザ・ボタン』で一度は途切れたかに見えたオリジネイターとしての威厳が復活したのが前作だったのだ。対して3年ぶりとなるこの新作は、彼らがオリジネイターの威厳を残しつつも、ダンス・ロックの順当なファミリー・トゥリーとは全く別個・別格の存在感を力強く宣言した殿堂入りの一枚となっている。本作において彼らは時代にアジャストする媒介としてのコラボレーターを最早必要としていない。時代に認証される必要も再評価される必要もなく常に勝ち続けてきたケミカル・ブラザーズの方程式がこれだと、賞味期限があまりにも短いダンス・ロックの道を切り拓いたパイオニアたる彼らの方程式は継承できるほど生半可なものではないことを、本作は厳かに伝えている。細かく刻み、重たく撃ち込まれるビートよりもシンセサイザーのレイヤーの全面にフィーチャーしたシームレスな全8曲はケミカルのライブ・セット、あの体験した人しか分からない宇宙を過去のどのアルバムよりもビビッドに盤へと落とし込んでいる。デビューから15年、これこそがケミカル・ブラザーズだと全方位的に告げる決定盤。(粉川しの)