意外にも本作がモグワイ初の公式ライブCD／DVDである。筆者は何故か勝手に彼らのライブ作品を既に持っている気になっていたのだが、それほどまでにモグワイにとってライブの持つ意味は大きいってことなんだと思う。モグワイの音楽について考える際にも彼らの各オリジナル・アルバムの方向性の差異から答えを導き出すよりも、過去に何度も観た彼らのライブ・パフォーマンスの記憶を時系列に沿って反芻していったほうが早いし正確なんじゃないかと思えるほどだ。本作に収録されたのは昨年のNY公演の音源で、序盤から飛ばすのではなく、クライマックスに向けて起承転結を丁寧に構築していくモグワイの最新スタイルで貫かれた演奏はトラックリスト的にも完璧な内容。彼らのライブの現場では滅私的な恍惚の淵に落ちて「快感」、という極めてモノトーンな感覚に支配されがちだが、こうして家で独り向き合っていると快感の大波に否応なく押し流されるのではなく、その波形の移り変わりを俯瞰で見守るような理知的な感覚が新たに付加されるから面白い。ヘッドホンで爆音注入したらまた別の快感の扉が開きそうでもあるけれども。（粉川しの）