オリジナル・アルバムとしては4年前の『エヴリ・カントリーズ・サン』以来、通算10枚目の節目を飾る本作。一方、モグワイといえばこの10年、並行してサウンドトラックの制作をライフワークにしており、この間にも『キン』と『ゼロゼロゼロ』の2タイトルをリリースしている。今年でデビュー25年を迎える彼らだが、横断的に様々なプロジェクトを手がけるその創作意欲は、キャリアを重ねるごとに高まり続けているように映る。そうした弛まぬ充実期に長くいるバンドならではの貫禄、風格のようなものをあらためて感じさせてくれる作品だ。
曲作りや演奏にアナログ・シンセが大幅導入された前々作『レイヴ・テープス』をへて、原点回帰も思わせるラウドなギター・サウンドが全編で求められた前作『エヴリ・カントリーズ・サン』。対して、本作ではリード・トラックの“ドライ・ファンタジー”やシンセウェイブ風の“ファック・オフ・マネー”にも象徴的なように、音のテクスチャーやレイヤーに意識をより行き届かせたようなプロダクションが耳を引く。そのことは、ロック・バンド的なアタック感が際立つボーカル曲の“リッチー・サクラメント”や“シーリング・グラニー”においても同様で、アブストラクトな音色が映える音響的なデザインが印象的だ。強いて言うなら、そこには彼らが注力してきた映画音楽、その一連のアンビエント・ワークスの反響を色濃く見出すことができるかもしれない。
なかでも白眉は、アッティカス・ロスとコリン・ステットソン(アーケイド・ファイア、ボン・イヴェールetc)が制作に参加した2曲だろう。前者は近年トレント・レズナーとのコラボレーションで知られるプロデューサーだが、映画音楽の名手でもある両者の手を借りてここでは、ポスト・ロックの雄たるプログレッシブなバンド演奏と微に入った音響操作が理想的な融合を果たしている。とりわけ後者による“パット・ステインズ”の、ギター・ノイズとエレクトロニクスがホワイトアウトのように吹き上げるサウンドスケープは圧巻だ。骨格の部分はあくまでモグワイの王道のスタイルながら、織りなす音の厚みや響きの奥行きは大きく押し広げられている。その辺りのトータリティの高さは、前作に続きプロデュースを手がけた旧知の盟友デイヴ・フリッドマンによる功績もあるのだろう。
革新や新機軸を意味する作品ではないかもしれない。しかし、バンドの健在を示すとともに、彼らの新たなスタンダードとなりうる充実した手応えが本作にはある。(天井潤之介)
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