情報の奔流が鳴っている

リンキン・パーク『ア・サウザンド・サンズ』
2010年09月15日発売
ALBUM
リンキン・パーク ア・サウザンド・サンズ
「千の太陽が空に輝き、ひとつの巨大な光へと変わる。私は死神、世界の破壊者となる」――このアルバムのタイトルは、原爆の父ことロバート・オッペンハイマー博士のそんな言葉から採られたものだ。そしてアルバムには、そのオッペンハイマーのスピーチが引用されてもいる。しかしこのアルバムは、あるひとつのテーマを軸に作られた、古典的な意味でのコンセプト・アルバムではない。オッペンハイマーをはじめ、マリオ・サヴィオやキング牧師といった有名なスピーチがサンプリングされているが、それらは何かのメッセージを訴えかけるためのものではない。キング牧師のスピーチがコラージュされていることに象徴的だが、すべてはアートに殉じる「メッセージの欠片」であり、そこにどんな意味を見出すかは、はじめからリスナーの側に放棄されている。インタビューでマイクやチェスターが言っている「オートマティック・ライティング」というのもそうだし、リミックス・コンテストもそうだ。サーチ・エンジンで情報の断片をかき集めるようにして作られた集合知のアート。それがこの『ア・サウザンド・サンズ』である。だからそこには、一貫した感情や統一された知性は存在しない。あるのはなぜオッペンハイマーなのか、なぜエレクトロなのか、なぜカントリー・バラードなのか、なぜ、なぜ……という終わりのない問いかけの連鎖である。抑圧されたサウンドのなかで、回答のないまま押し寄せる情報の洪水。「アルバム」の意味すら転覆させる、未来のコンセプト・アルバム。(小川智宏)
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