アルバム全編を通して、ポップであることに対して言い訳がない。前作のインディ・ロック路線から、より80s路線へシフトしているが、結果明らかになったのは、先日の来日公演でも確認された通り、ポップとしての筋力がファーストに較べて格段に増強されて、なおかつしなやかになったこと。1曲1曲の音楽的情報量が確実に上がっている。遠く離れたパリに想いを馳せる逃避行の思春期を終えて、ポップ・フィールドでも誤解を恐れずに勝負に打って出る力強さを感じる。(古川琢也)
インタビュー中でも明かされているように、エドにとって本作に宿るポップネスは90sボーイ・バンドに通じるものがあるといい、個人的にはあまり不思議に感じなかった。なぜならこのレコードは端的にいうなら軟派でポップでセクシーで、評価することを忘れてしまうほどに聴き続けてしまう、ギルティ・プレジャーなアルバムだからだ。しかし、オルダス・ハックスリーの小説に出てくる島の名前から採られたタイトルにも象徴的だが、そんな表面のとっつきやすさと磨きぬかれた煌びやかさが、一見それと矛盾するような知性と努力に、そしてバンドそのものの精神性と人間としての成長に裏付けられているのが何より素晴らしい。プロデューサー主導であるとか派手なサウンドをやってみたとか、けっしてそういうことではない。前作におけるディスコ・パンク的なアプローチから、エレクトロニック・サウンドと、もともともっていたソウル/ファンクのアプローチをあくまでインディ的に突き詰めていった結果、土臭さを感じさせつつもハイパーなダンス・レコードが出来上がってしまったという感じである。“パリス”がそうだったように、かつて彼らは徹底した逃避の美学を自らの音楽に込め、そこにポップ・ミュージックのロマンがどこか刹那的に輝いていたわけだが、今作には、人生は短いからこそ今この瞬間を生きるというポジティヴなエネルギーが溢れている。そのリアリティと、プリミティヴな意味での「踊る」という本能が幸福に一致した、押し付けのない、しかし圧倒的な存在感を放つアルバム。(羽鳥麻美)