美はかくあるべし

カルツ『カルツ』
2011年10月05日発売
ALBUM
インディ・ポップにおいてフィル・スペクター/60sガール・グループというのは合言葉のひとつであり続けてきたが、このカルツはそのサウンドを軸としつつも非常に今らしいリアリティを備えたバンド。女子ヴォーカルと男子ブレーンという一見当たり前の構図も、じつは戦略に基づいたものであることが、そのサウンドをよく聴くとわかる。
 
ウォール・オブ・サウンドでお茶を濁すのではなく、随所にフリーキーなシンセやサンプリングを入れていくところが秀逸だ。バンド名まんまだがカルト教団の演説をサンプリングしたりしていて、その趣味はちょっと……と遠慮したくなる気持ちと、いやもっと!と耳を傾けたくなる気持ちの両方を掻き立てる。その大きな要因はなんといってもマデリン嬢のヴォーカル。アンニュイなのにキュートでイノセントというガール・ポップの見本のような声なのだ。そのヴォーカルとフックだらけのメロディは、一度手を出したらなかなか止められない中毒性を生んでいる。「美しいものには棘がある」というのを分かりきったうえで提供される美ほど、浸っていて心地いいものはない。(羽鳥麻美)