極めて難解なデヴィッド・リンチの映画がポップな人気を誇るのは、たとえ解読できなくてもめっぽう面白いからだ。そして音楽は彼の映画の中でも、暗示的で官能的で、いつも重要な役割を果たしてきた。これは彼が「マルホランド・ドライブ」にあるスタジオで、ミュージシャンとして自らプロデュースし、歌った初のアルバムである。汚れた手に書き付けられたメモ、指の欠損、サイコロといった意味深な暗示が配置されたジャケはまるでリンチ自身のパロディにも思えるが、そのサウンドはゾクッとするほど不穏で鋭い。カレン・Oのパンキッシュなヴォーカルがリヴァーブと共に異次元へ消えていく〝ピンキーズ・ドリーム〟から始まる全15曲は、いびつでエレクトリックなシンセ・サウンドで組み立てられた、断片的な言葉とエモーションの集積である。それらの物語的な意味は、やはり簡単には理解不能なのだが、息が詰まるような切迫感の連続に、気付けば意識が持って行かれる。全体の感触を言葉にするならば、これはリンチ流の奇形的なソウルであり、ブルースである。そういう意味で、実はジェイムス・ブレイクにとても似ている。(松村耕太朗)