狂気の祭典〜ライヴ・イン・グダニスク06年『オン・アン・アイランド』ツアーの最終公演としてポーランドのグダニスク造船所に5万人を集めて行われたライヴを収録。ライヴDVDとしては『覇響』があったが、今作がソロとしては初のライヴCDとなる。ピンク・フロイド4人揃い踏みが実現した『ライヴ8』後の「フロイドのツアーを1億ポンドでやらないか」というオファーを即答で断った後のギルモアのソロ・ツアー・ファイナルであるはずの本公演は、のっけから“スピーク・トゥ・ミー”“生命の息吹き”のピンク・フロイド『狂気』冒頭の流れに始まり、そこから自らの最新ソロ作『オン・アン・アイランド』の“キャッスルロライズン”“オン・アン・アイランド”“ザ・ブルー”という流れへ1mmの違和感も感じさせずにつないでみせる。同じくソロ・ツアーでフロイド曲を連発するロジャー・ウォーターズへの対抗意識もなくはないだろうが、そんなものはDISC2の“あなたがここにいてほしい”“壁が崩壊した日…”の名演を聴けばどうでもよくなる。今作から滲み出してくるのは、自らにまとわりつくフロイドの残像を拒否しながらなおもフロイドに支配されている男の業の深さだ。「ロジャー・ウォーターズのマウスピース」などではなく、彼の歌とギターこそフロイド・サウンドの中心だった――その存在証明のようなアクトが2時間半近くにわたって展開されている。
そして、この日はリック・ライトがステージに立った最後の日でもあった。皮肉にも今作が「リック・ライト追悼盤」としての意味合いをも帯びることになってしまったのが残念だ。冥福を祈りたい。(高橋智樹)