小さなメロディの七変化

七尾旅人『リトルメロディ』
2012年08月08日発売
ALBUM
七尾旅人 リトルメロディ
大震災前後でイメージが変わった言葉に「圏内」がある。以前はケータイで電波の届く範囲が連想されたが、事故のあった原発から「××キロ圏内」のほうが先に浮かぶようになってしまった。この新作は、短いノイズの曲に続く“圏内の歌”が実質的な1曲目。離れられない故郷から子どもだけでも逃がしたいと考える、「圏内」の目線のメッセージ・ソングだ。静謐な同曲が、アルバム全体をシリアスにみせる面はある。パンキッシュなギターの合間に曲名の言葉を吐く“劣悪、俗悪、醜悪、最悪”は、震災後のこの国への怒りかと思わせもする。
 
だが、旅人はメッセージだけではない多面的な人。アコギ弾き語りで繊細な歌を聴かせる部分は、シンガーソングライターらしい。また、アイデアがひらめくとすぐプログラミングして録音したという印象の曲、親しみやすいメロディのソウル、あるいはフルート、タブラ、ストリングスなどとの共演など、曲ごとに表情が違う。他アーティストとの即興対決を繰り返してきた彼らしい、音楽家として臨機応変な運動神経の良さを感じさせる。とてもしなやか。(遠藤利明)
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