須藤寿の作る音楽にはどこか楽園的なトーンがある。バンドでギターを激しく鳴らしている時も、サイケデリックなグルーヴに乗っている時も、彼の歌声は気持ちよさそうにフワフワしていて、ユーモラスでさえある。言いかえると、どんなにハードな音であっても、根底のところで快楽的なのだ。そうした須藤の資質を全開にした作品をいずれ作ってほしいと感じていたが、今回のソロ・プロジェクトはまさに期待通りの一枚といえる。アコースティック楽器を基調としたサウンドは、オルタナティヴなリゾートミュージックという趣で、彼のポップセンスが大いに発揮された仕上がりだ。
　
思えば、60年代にドアーズやベルベット・アンダーグラウンドが切り開いた地平とは、半分はラディカルなロックミュージックの可能性であり、半分は快楽とメランコリアが交錯する音の戯れであった。須藤が天才的なひらめきを発揮するのは後者であり、プロデューサーの吉田仁がその資質を見事に引き出している。アルバム名が示しているように、ロック史における「偉大なる逃避行」の系譜を正しく受け継いだ一枚だ。（神谷弘一）