一寸先のカオスと奇跡
tricot『99.974℃』
2013年04月24日発売
2013年04月24日発売
SINGLE
秒刻みでビートが変わりキーが変わるスリルの極みのようなtricotのバンド・サウンドが、なぜここまでストレートかつダイレクトに心の奥底まで飛び込んでくるかといえば、中嶋イッキュウはじめ4人が鳴らしているポップで異形な楽曲はそのまま、つんのめったり転がったり突っ走ったりしながら僕らを突き動かしている感情そのものだからに他ならない。決まったビートでなんか走れっこない、1秒先のことなんか誰にもわからない、という僕らの世界そのもののサスペンスと奇跡を、音の隙間から赤い血が噴き出しそうなテンションでもって叩き出している彼女たちの姿は、その一瞬一瞬が特別なアートフォームたり得ている――ということを、シングルとしては初となる今作がリアルに物語っている。《猛毒を舐め合って/いえない傷を殺すような/甘い夢の続きへ行こう》と背徳感混じりのイマジネーションを爆音で響かせるタイトル曲“99.974℃”といい、“G.N.S”や“爆裂パニエさん”など約25分のライヴ・テイクをノンストップ・メドレーで収録した“121210 BAKUSAI LIVE SET”といい、戦慄必至の1枚。(高橋智樹)