箱庭を出て狂い咲きの花園へ

ユース・ラグーン『ワンダラス・バグハウス』
2013年05月01日発売
ALBUM
ユース・ラグーン ワンダラス・バグハウス
自宅のベッドルームとキッチンで録った究極のDIYなデビュー・アルバムを『冬眠の年(The Year Of Hibernation)』と題したユース・ラグーンことトレヴァー・パワーズにとって、音楽とは絶え間ない不安と耐えがたい苦痛に満ちた外界を遮断して内に籠もる行為そのものであり、前作の薄い被膜に包まれてけぶるリヴァーブ、自らを催眠するかのごときミニマムなサイケデリックはどこまでいってもインナートリップだった。そんな前作と比較すると、本作は被膜を突き破って彼が外界に歩き出したアルバムだ。ジャケットにも象徴されるように彼の自意識を覆っていた靄は晴れカラフルな色彩が躍り、アニコレやディアハンターも手掛けたベン・アレンの手によって広大なサイケ空間が広がっていく。そう、まさに内から外への覚醒を遂げた一枚には違いないのだが、「君は死なない(You'll never die)」と執拗に唱え続ける“ドロップラ”のような楽曲を聴けば、パワーズの不安と苦痛は霧散したわけではなく、むしろ外界を「驚きの精神病院(Wondrous Bughouse)」と評して必死に凝視する、そういう極限のアルバムであることが理解できるはずだ。(粉川しの)
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