まず何と言ってもハード・ファイがデビュー10周年だという月日の経過速度に頭クラクラするわけだが（アルバム・デビューは2005年）、その間オリジナル・アルバムが3枚のみと寡作なバンドなこともあって、「もうベスト盤を出すのか？」という感じが正直しなくはない。ただ、本作は所謂シングル・ヒット集ではなく、Bサイドやミックス違い等のレア曲も含むむしろコアファン・フレンドリーで濃い内容のコレクターズ・アルバムなのが肝だ。“ハード・トゥ・ビート”や“サバーバン・ナイツ”のようなド定番のアンセムからアングラなナンバーまで、様々なタイプの曲が収録されているからこそ、2000年代UKにあって数少ないストリートワイズなミクスチャー・ロック・バンドだったハード・ファイの個性が正しく浮き彫りにされる、そんな10年の節目に相応しいバンド再定義の一枚なのだ。そして本作に合わせて新録収録された新曲の“ムーヴ・オーヴァー”、これがまたハード・ファイらしいエモ×ジャズ×ダブなユニークなナンバーで、彼らに隔世遺伝したクラッシュのDNAの健在っぷりをアピールしている。（粉川しの）