フレッシュなギターロックを求めている人に、ぜひ知ってもらいたいバンドがChapter lineだ。結成は2013年3月。活動歴はそれ程長いわけではないが、熟成してきたサウンドの輝きがものすごいことになっている。初の全国流通音源となる1stミニアルバム『夜が終わり』は、このバンドへの注目度を一層高める決定打となるだろう。スリーピースというシンプルな編成ではあるが、彼らがリスナーに突きつけるのはドラマチック極まりない世界。例えば"大言壮語の逆襲"の威力に度胆を抜かれる。ダンサブルな4つ打ちビートを軸に据えつつ、絶妙なキメとタメ、歪みサウンドとクリーントーンの鮮やかなコントラスト、随所に散りばめた綺麗なコード感など、さまざまなエッセンスも絡み合わせたこの曲は、耳を傾けているとドキドキが止まらない。豊かなグルーヴとアンニュイなムードをごく自然に融合させた"虚無感"。無数の音像と起伏に富んだ展開で彩りながら美メロをじっくり浮き彫りにする"夜が終わり"。非情な現実をとことん直視することで生まれる不屈の意志を瑞々しく歌い上げる"easy"……などなど、魅力的な8曲を収録した今作。ここに刻み込まれているオリジナリティは、どのような背景から生まれているのか? 小浦和樹(Vo・G)、藤教順(B・Cho)、宮内沙弥(Dr・Cho)に語ってもらった。

インタヴュー=田中大 撮影(インタヴューショット)=福島慶介

このヴォーカルじゃなきゃイヤだって思える人を探していた時に、バチッと運命的なものを感じました(宮内)

──どういう経緯で始まったバンドなんですか?

宮内 きっかけは私と小浦がたまたま対バンをしたことです。ライヴのリハの時に私が小浦の声に一聴き惚れをして、本番前の時間に声をかけたんです。話をしてみたら「今は自分のバンドはやっていない」と。私もその頃、バンドを結成したいと思ってメンバーを探していたので、そこからやり取りをするようになって結成に至りました。

小浦 僕はほとんどの期間をずっと弾き語りでやっていたんですけど、バンドをやりたい気持ちはずっとあったんです。悩んでいる時期に声をかけてもらった形ですね。声をかけてもらったタイミングは良かったです。運命的なものは感じました。

宮内 私もあんまり自分から初めて会った人に声をかけるっていうことはするほうじゃないんですけど。でも、このヴォーカルじゃなきゃイヤだって思える人を探していた時に、パチッと運命的なものを感じました。だからなりふり構わず。たとえ彼がバンドをやっていたとしても、もしかしたら別の形で繋がっていこうと思ったかもしれないです。

──小浦さんの歌声のどんなところが好きですか?

宮内 何でしょう? まず、雰囲気が暗いので、そこがツボ(笑)。あと、ちょっとしゃがれた声質。声に含みがあるようなところが好きになったんです。

小浦 こうやって自分の声について言われると恥ずかしい(笑)。僕は音楽を始める前は自分の声にコンプレックスがあったので、まさか今のようなことになるとは思ってもみなかったです。でも、高校の時に軽音楽部に入って、ヴォーカルになっちゃったんですよね。なんか周りの人間によると上手かったらしいので始めちゃった感じです。僕がこういう性格なので暗い人が周りにも多くて(笑)。真ん中に立って歌を歌いたいっていう人がいなかったんです。

──ギターは好きだったんですか?

小浦 親父が30歳くらいまでフォークデュオをやっていたので、その影響で家にアコギがある環境でした。だから自然と弾いてはいましたね。ギターヒーロー的なプレイヤーに憧れて始める人が多いと思いますけど、僕の場合は親父がギターを弾いて歌っているのを見て自分も始めたという感じです。「ギターを弾いてる」っていうよりも「歌に合ったギターを弾いてる」っていう感覚にずっと触れていたので、自然と弾き語りの方向に進んで行ったんだと思います。

──藤さんはどういう経緯で加入したんですか?

 元々のベースのメンバーが脱退したタイミングで、僕がやっていたバンドもちょうど休止というか解散みたいな感じになって。そういう発表をした次の日に沙弥から「入ってみない?」っていうメールが来たんですよ。

宮内 入って欲しいなという気持ちは、その前からあって。だから教順のバンドの状況を知って、「タイミングが来た!」と。

──宮内さんはChapter lineのプロデューサーみたいな感じですね。

小浦 最初の頃はそうでしたね(笑)。彼女についていったような感じだったので。でも、今は3人で平等に意見を出し合うようになっていますけど。

──結成時に具体的な音楽性の話はあったんですか?

宮内 具体的な話はしていなかったです。でも、何よりも私は彼の世界観に完全に惚れていたので、それを前面に出していくべきだという話は最初の頃からしていたかもしれないです。だから今でも作詞作曲は小浦に任せています。

──藤さんは加入前に外側からこのバンドのサウンドに触れていたと思うんですけど、どんなことを感じていました?

 僕が加入する前、元々のベースがいた編成でのライヴは観たことがなくて。音源やライヴの音源を聴いているだけだったんですけど、すごく曲がゆったりしていて。世界観を大事にしている感じが伝わってきました。あと、感じたのは「ヴォーカル、暗いなあ」っていうこと(笑)。髪もすごく長くて。初めてライヴを実際に観た時は、なぜかステージでコートを着ていたことも覚えています。

ベースの教順が入って、バンドが内側から外側に向くっていう感覚が生まれてきた(小浦)

──今回のミニアルバムって、比較的BPMが速い、疾走感のあるサウンドが発揮されているじゃないですか。藤さんが加入してから変化があったってことですね。

小浦 ベースの教順が入って、バンドが内側から外側に向くっていう感覚が生まれてきたんですよ。それが僕に影響を及ぼしたのかどうかは分からないですけど、作る曲もそういう風になっていきましたね。

 「とりあえず速い曲作ろうぜ!」って思っていたんですよね。ライヴで、その方が楽しいんじゃないかなと。だから僕が入った最初の頃は、速い曲ばかり作っていた記憶があります。

小浦 この3人の編成になる前はゆっくりな曲ばかりだったので、コートを着ても暑くなかったっていうことでしょうか。でも、コートを着たのは1回だけなんですけど(笑)。まあ、速い曲が出てくるようになったというのは、上手い具合に自分のその頃の感情にリンクしてそうなったんだと思います。

──そして、今回のミニアルバム『夜が終わり』に至ったわけですね。まず、聴かせて頂いて感じたのは、アレンジ力の高さ。スリーピースでものすごいドラマを生み出すバンドだなと。

宮内 ありがとうございます。曲によっては1日くらいで完成することもあるんですけど、やはり時間をかけることが多いですね。まず作ってみて、場合によってはライヴで披露して、そこからさらに思いっきり違うアレンジにしたり……っていう過程を踏むことが多いです。

 いろんなパターンを試してみる感じですね。例えば「バラードです」って持ってきたものを速い曲にしちゃうこともありますから。

──4つ打ちを取り入れた曲もありますけど、スポーティーに盛り上がる、所謂「ダンスロック」っていうようなテイストにはなっていないのも個性じゃないでしょうか。

小浦 たしかにスポーティーではないですよね。

 「パーティー!」っていう感じではない(笑)。

──そこがすごく不思議なんですよ。3人各々の音楽のルーツによるのかなとも思っているんですけど、どんなのを聴いて育ってきました?

小浦 僕は弾き語りのソロの人たちですね。でも、元々は歌というよりもアコギのソロギタリストを聴くことが多かったです。例えば押尾コータローさんとか。そういうのを聴きながら歌をやり始めてしまった感じなので、「ギタリスト」っていう感じのギターは今も弾いていないように思います。その他、洋楽だとジェフ・バックリィ。あと、親父が聴いていたフォークソングの影響も、もしかしたらあるかもしれないですね。意識して聴いてはいなかったんですけど。

 僕は父親がブルースをやっていて。今でもやっているんですけど。その影響が大きいんだと思います。僕の音楽のやり始めはブルースばかりです。中学の時はブルースのバックバンドをやっていましたから。その後にDIR EN GREYとかL'Arc〜en〜Cielが好きになってコピーをするようになった後にメロコアへ。東京に出てきてからはファンクとかいろいろなロックをやるようになった感じですね。

宮内 私の父も未だにギターやベースをやるんですけど、私は全く興味が持てなかったので高校までずっとクラシックばかり聴いていました。楽器は吹奏楽で打楽器。でも、大学の入学式で聴いたブラスバンドの演奏がものすごく下手くそだったんですよ(笑)。だから違うタイプの音楽をやることにして軽音楽部に入ったんです。ドラムでバンドをやり始めたのはそこからです。

──3人とも、かなりユニークじゃないですか。

宮内 そうみたいですね(笑)。

──さっき言った独特な4つ打ち感とか、歪んだパワーコードで埋めるのとは違う綺麗なコード感とか、どこか黒っぽさを感じるノリとか。それはそういう背景から生まれているのかも。

小浦 意識はしていないですけど、そうなのかもしれないですね。

──エネルギッシュさだけじゃなくて、起伏に富んだ展開でも魅了するバンドだと思うんです。車で喩えるとアクセル全開によるスピードだけじゃなくて、巧みなコーナリングでもスリルを生む感じというか。

 アクセル全開で突っ走りたい時もあるんですけど、この3人で作るとどうしてもコーナリングの感じが出るんですよ。でも、コーナリングとか言いつつ、ブレーキ踏まないでやっている感じはあると思いますけど(笑)。

──おっしゃる通りですね(笑)。"夜が終わり"も、そういう部分を感じます。残響を利かせたギターのロングトーンで雰囲気を醸し出したり、コーラスの抜き差しでムードを変化させたり、多彩な味付けと展開が盛り込まれているじゃないですか。

小浦 3人しかいないので、「出来るだけ頑張ろう」っていうのはあるんですよね。

宮内 だから1曲に対して最初の段階で詰め込めるだけ詰め込む傾向があります。そこから抜いていくやり方をすることが多いですね。

 いろいろなアイディアをやってみることをじっくり繰り返しているんです。

──ベースに関してもソロが出てきたり、リズム楽器的というよりも上モノ楽器的なアプローチでアクセントを添えることが度々あるじゃないですか。

 そうですね。でも、コードから外れる弾き方はあまりしたくないので、コード感はありつつの好き放題なやり方ですけど。

──スリーピースロックってよく「最小限の」とか「シンプルな」とか「ストイックな」っていうような表現をされることが多いですけど、みなさんのサウンドは最大限にドラマチックだし、ゴージャスと言ってもいいくらいの味付けを感じるんですよ。

小浦 シンプルではないですよね。「スリーピースっぽい音」っていうことにはこだわりがないので、そうなっているのかも。とにかく「面白いものを作りたい」っていう考えなんですよね。だから「この3人だからこうなった」っていうことだと思います。

 「スリーピースの音圧じゃない」っていうようなことは、よく言われますし。

──ライヴでやると、かなりハードじゃないですか?

宮内 はい。だから私、このバンドを始めてから体脂肪率がものすごく落ちました(笑)。

 ドラムは一番大変だと思います(笑)。

──(笑)"大言壮語の逆襲"もバンドの特色が出ていると思います。

 この曲も4つ打ちが入っているけど、「踊る」っていうよりも「攻めてる」っていう感じだよね?

宮内 そうだね。

──「踊るっていうより攻めてる」って、いいですね。Chapter lineのサウンドの本質をズバリと表していますよ。

 「ストレートに踊る4つ打ち」っていうのは、まだやったことがないのかもしれないです。

──聴いていると昂揚するサウンドなんですけど、不思議な熱を貰っている感じです。汗をかくというよりも身体の芯が沸き立つ感じ。"虚無感"も「これはダンスロックです」って言える感じではあるんだけど、「イエーイ!」っていう盛り上がり方ではないし。

小浦 たしかに、パーティーっていうような感じではないですよね。

 踊れるものを目指して作った曲ではあるんですけど。

宮内 その理由に関して私が一つ思うのは、小浦が作る歌詞やメロディのセンスによるものかもしれないっていうことですね。ものすごく踊れるリズムのサウンドなのに、踊る方向に全面的に行かない雰囲気を作っているのはそこなのかなと。

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