Lyu:Lyu改め、CIVILIANへ――
新たな一歩を踏み出した決意を語る

CIVILIAN (ex.Lyu:Lyu)

「Lyu:Lyu」として活動してきたコヤマヒデカズ(Vo・G)、純市(B)、有田清幸(Dr)が「CIVILIAN」と改名することが、先日発表された。この新しいバンド名を掲げて初めてリリースする作品が、最新シングル『Bake no kawa』だ。音源としては約2年ぶりとなる今作。改名の大きな理由でもある「より広い世界へと進みたい」という意識を、まさしく反映している3曲だと思う。ソングライターであるコヤマの内面を生々しく刻む作風を核に持ちながらも、外の世界へと開かれたトーンを帯びているのも感じる。生まれつつある変化、CIVILIANが見据えているものに関して、3人に語ってもらった。

インタビュー=田中大 撮影=後藤寛子

今までやってきたことも踏襲しつつ新しいことにチャレンジできるように、新しい名前をつけようと。最終的にこの結論に至りました(コヤマ)

――バンド名がLyu:LyuからCIVILIANとなるわけですね。

コヤマ はい。名前を変えるという話が出たのは、今年に入ってからでした。去年末から新しい環境で音楽をやっているんですけど、「自分たちが今後やっていきたいことは何なのか?」に関して改めてみんなでフラットに話し合ったんですよ。そこから出てきた話ですね。「今後もっと広い世界で、もっと広い視点で、今までできなかったことにチャレンジしていきたい」という気持ちが、僕らの間で自然に出てくるようになっているんです。だから今までやってきたことももちろん踏襲しつつ新しいことにチャレンジできるように、新しい名前をつけようと。何度も話し合ったんですけど、最終的にこの結論に至りました。

――表現したいことに関しても、より広い世界へ向かいつつあるということですか?

コヤマ そうだと思います。Lyu:Lyuというバンドで歌われてきたことって、誤解を恐れずに断言してしまうんですけど、コヤマヒデカズという僕自身の過去の物語であり、僕自身の感情をひたすらぶつけたものだったんですよね。歌詞を書いて言葉を放っている人間として責任を持ってずっとやってきたんですけど、僕も長年やる中で内省的なことだけじゃないものも表現したくなっているんですよ。例えば周りにいる人たちのこととか、もっと広い世界のことを歌いたいと、自然と思うようになっています。

――なるほど。有田さんは、改名についてはどのような想いですか?

有田 僕らをLyu:Lyuとして知ってくださっている人がいるわけですから、名前を変えるというのは、リスクもあるわけじゃないですか。でも、そういうことも含めて腹を括りたかったというのもあります。ここからより広い世界に行こうとしているので、名前を変えることによるリスクを乗り越えてでもやろうとしている覚悟の表れでもあるんですよね。

――純市さんは、いかがでしょうか?

純市 僕らは昔から新しいことにいろいろチャレンジしてきたんですけど、環境が変化したり、リリースが空いたりもしたことで、気持ち的に仕切り直したいような感じにもなっていたんですよね。そういう想いは、メンバーの3人が共通して持っていたと思います。

――「一般市民」という意味の「CIVILIAN」というバンド名にした理由は、何だったんですか?

コヤマ 「CIVILIAN」っていう言葉は、僕の頭の中にずっとあったんです。「Lyu:Lyu」は人の名前から取ったバンド名なんですけど、「Lyu:Lyu=僕の気持ちを表現している」というものとしてやってきたんですよね。でも、僕らはいろいろ新しいことを表現したくなってきていて、「これはロックであり、あれはロックではない」とかもどうでもよくなってきていて。とにかく「いい音楽を作ってやりたいだけのバンドである」っていうようになっているんです。「いい曲、いい音楽、いい歌を作るだけの集団」という意味でも、「CIVILIAN」っていいなと。「一般市民」って特定の個人のことではなくて、あらゆる人を内包している言葉ですから。

決して少なくない人たちが自分たちの音楽に共感してくれて……それを見ないようにして、自身のことを吐き出すだけなのって、どうなんだろう? と(コヤマ)

――では、今回のシングルのお話に移りましょうか。久しぶりの作品リリースですね。

コヤマ はい。今回収録しているものの内、表題曲以外の2曲は、結構前からできてはいたんです。でも、リリースする機会を失っていたんですね。悪戦苦闘しながらライブを続ける中で、どこかで発表したいとずっと思っていました。

有田 「次、いつリリースするんですか?」ってずっと言われていましたし(笑)。去年の夏くらいから制作が始まっていたものが、ようやくこうして形になったんですけど、やっぱり、その頃から意識がいろいろ変化していたんでしょうね。「もっと大勢の人に聴いてもらうものを作る方向で行きたい」とか「俺らなりのポップってなんだろう?」って考えながら、ずっと去年の夏辺りから掘り下げていましたので。

――“Bake no kawa”は、今回の曲の中で一番新しいんですよね?

コヤマ そうです。今年に入ってから作りましたので。アメリカのドラマのエンディングテーマ(『パーソン・オブ・インタレスト 2nd SEASON』の日本語版エンディングテーマ)のお話を頂いたのは、曲ができ上がってからです。

――SNSのことが浮かぶ曲ですね。

コヤマ まさにそういうイメージがありました。僕自身もツイッターとかSNSをやっているんですけど、時々やめたくなるんですよ。SNSって情報が回るスピードが圧倒的に速いですし、災害時とかに機能を発揮するいい面ももちろんありますけど、何か不祥事とかを起こした人間がいた時、関係ない人までもが加わって袋叩きにするような風潮も生んでいる気がしていて。でも、そうやって叩いている人が「悪」かというと、普段は善良な一般市民だと思うんです。そういう人たちがSNS上で、何かのきっかけによって殆ど無自覚にそういうことをしてしまっている状況があるなと。それに対して自分はどう向き合ったらいいのか? “Bake no kawa”を書いた時は、そういうことを考えていましたね。

――“Bake no kawa”に関して印象的なのは、そういう問題にスポットを当てつつ、ネガティブな現実に飲み込まれないで生きていくことを呼びかけている点ですね。先ほど、Lyu:Lyuに関して「僕自身の感情をひたすらぶつけたもの」とコヤマさんはおっしゃいましたが、「作った曲がリスナーの心に届いて、何らかの感情を抱いてもらえる」ということに対する意識の芽生えが少しずつ生まれていたのかなと思うんですよ。例えばLyu:Lyu として比較的最近の曲の“メシア”とか“ディストーテッド・アガペー”は、そういう印象がしましたし、“Bake no kawa”もその流れの中にあるなと。

コヤマ 音楽を聴いてそういう風に思って頂けるというのは、ありがたいですね。曲を作り始めた頃って、自分自身のことしか言っていなかったんです。「あの時、言えなかったこと」とか「あの時、なんでああしなかったんだろう?」とかいうことを全て曲にぶつけて、勝手に自分を満たしていたんですよ。ある意味、曲を作るっていうのは、自分を救う手段でしかなかったんです。でも、このバンドを始めてから、いろんなお客さんがライブに来てくれるようになって、決して少なくない人たちが自分たちの音楽に共感してくれて……という状況が事実として目の前に現れたんです。その事実を見てしまうと、「自分のことを気にかけてくれる人が、こんなにもいるんだ」っていうことに気づくんですよ。そして、「それに気づいているのに、それを見ないようにして、自分の中だけに閉じこもって相変わらず自分自身のことを吐き出すだけなのって、どうなんだろう?」と。それは自分に対して嘘をついているだけ、事実から目を背けているように思うようになったんですよね。もちろん、自意識のことを歌うという表現方法は僕の根っ子にあり続けるんでしょうけど、認識するようになった周りの世界のこともちゃんと表現していかなきゃいけないなと。そういうのがちょっとずつ歌詞とかに表れていったのかもしれないです。

純市 開けたものになって、希望が増えたなあというのは、僕も感じます。それは歌詞だけじゃなくて、メロディからも感じる部分ですけど。

有田 「昔と比べたら立ち向かってるよね」っていうのが、最近の曲についてスタッフとかと話をする中で出てきています。昔の曲は「一緒だよ」という印象だったのが、最近の曲に関しては「率いる勇気」とか「前に立つ勇気」みたいなものを僕も感じます。誰かの手を取るような意識になっているんだろうなと、歌詞を読みながら思いますね。

――“Bake no kawa”の終盤は、まさに「率いている」という姿ですよ。

コヤマ 数年前の自分では、おそらく書けなかっただろうなと僕も思います。「どう生きていくのか?」っていうのは、みんなそれぞれが答えを出していかなきゃいけない問題ですし、僕自身も曲を作ることで、それに対する答えを出そうとしてきたんですよね。そうやって答えを出そうとしてもがいていた姿に、みんなが共感してくれた部分もあったのかなと思います。「自分と同じようなやつが、ここにもいたんだな」と。

――「自分と同じようなやつが、ここにもいたんだな」って、音楽に限らず、あらゆる表現に触れたくなる理由ですよね。少なからず孤独が癒えることに繋がりますから。

コヤマ 他ならぬ僕も、かつて好きだったバンドの音楽に対してそういう想いを抱いていた人間です。「俺が言いたかったのはまさにこれだよ」とか「なんでこの人は、自分が普段もやもや悩んでいることをこんなに的確に言い当ててくれるんだろう?」って思って救われた経験がたくさんあったので、自分が表現する側に回った時に自然とそういうものが出てきていたのかなと思います。

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