Deradoorian
今、デラドゥーリアンを聴くべき理由

ダーティー・プロジェクターズを支えた才能がいよいよ開花

ニューヨークはブルックリンから現れた名花一輪。元ダーティー・プロジェクターズのデラドゥーリアンことエンジェル・デラドゥーリアンのソロ・ファースト・アルバム『ザ・エクスパンディング・フラワー・プラネット』がいよいよリリースされる。

人目を惹きつけずにはいられないエキゾティックな美貌。一度聴いたら忘れられない美しく個性的な声。さまざまな楽器を弾きこなすマルチ・インストゥルメンタリストの才能。多彩なサウンドを作り出す作曲・プロデュース能力。多面的なタレントを遺憾なく発揮する希なる才女が、このアルバムでその魅力を全面展開している。

ビョークやFKAツイッグスなどが引き合いに出される彼女の音楽性は、アシッド・フォークやインディ・ポップを基軸にさまざまなアイディアを施して、その声同様にエキゾティックでサイケデリックな音楽世界を作り出している。

この特集ではそんな彼女の魅力を解き明かしてみよう。まずはアルバムのリード・トラックとなった「A Beautiful Woman」のユニークなライヴ映像をご覧いただきたい。

Deradoorian“A Beautiful Woman”

ダーティー・プロジェクターズのヒット作『ビッテ・オルカ』(2009)で、もうひとりの女性ヴォーカル、アンバー・コフマンとともにひときわ印象的なハイ・トーンのコーラスを披露、“Two Doves”というフォーキーなアコースティック曲では一転して歌心あふれる味わい深いリード・ヴォーカルを聴かせていた。あるいはフライング・ロータスの最新作『ユーアー・デッド』所収の“Siren Song”という曲で聴かせたコズミックで浮遊するような歌を思い起こす人もいるかもしれない。そのヴォーカル・スタイルは楽曲に応じてさまざまに変化し、一定のイメージに収束しない。『ザ・エクスパンディング・フラワー・プラネット』では、エスニックなチャントから素朴な歌心あふれる歌まで、そのカメレオンのように収縮し拡張する声の魅力が存分に開花している。

Dirty Projectors “Useful Chamber”

“Weed Jam”(『Mind Raft』より)

“Moon”(『Mind Raft』より)

U2からブランドン・フラワーズまで、幅広い才能を魅了する

デラドゥーリアンはダーティー・プロジェクターズ在籍中に、同グループのリーダー、デイヴ・ロングストレスのプロデュースでソロ・デビューEP『Mind Raft』をリリースしている。少しサイケがかかったシンプルでミニマルなインディ・ポップは、しかしまだ十分に魅力的とは言えない。その後ヴァンパイア・ウィークエンドのキーボード奏者ロスタム・バトマングリのバンド、ディスカヴァリーやザ・ルーツ、アニマル・コレクティヴのエイヴィ・テアのスラッシャー・フリックス、U2、プレフューズ73、チャーリーXCX、カインドネス、キラーズのブランドン・フラワーズといったアーティストの作品に次々と参加することで、彼女はその生来の才能に磨きをかけ、音楽性の幅を広げていったのである。その今のところの集大成が『ザ・エクスパンディング・フラワー・プラネット』というわけだ。

U2“Ordinary Love”

Brandon Flowers“Still Want You”

アシッド・フォークやミニマルなインディ・サイケ・ポップを起点としながらも、初期クラフトワークなどクラウトロックや前衛ジャズ、ドローン、南アジアや日本の伝統音楽まで取り入れ、観念的で文学性の高い歌詞とともに独自のアートフォームとして昇華している。「デラドゥーリアン」とはアルメニア系の姓らしいが、その影響なのか中近東あたりの乾いたエキゾティシズムを感じさせるのも興味深い。こうしたさまざまな要素を、プロデューサーのケニー・ギルモアとともに作り上げたデラドゥーリアンのセルフ・プロデュース能力は並でないと言える。

FKAツイッグスやビョークを彷彿とさせる揺るぎない美意識

そして見ての通り彼女は大変な美人でもある。最新アーティスト写真は、もともとの彼女のアートカレッジの学生みたいな、知的だがどこか垢抜けないたたずまいを知る者には驚きだが、その変化は同じようにブルックリンのインディ・ロック界隈から現れ、みるみるうちに洗練されていったセイント・ヴィンセントを思わせたりもする。

声、音楽性、容姿も含めたアーティスト性の高さ。だがFKAツイッグスほどキメキメにスキなく作り込んでいるわけではない。ビョークのような鉄壁なプロフェッショナリズムを感じさせるわけでもない。といってマイナーなインディ・ロックのカテゴリーに収まってしまうようなスケールの小さいアーティストでもない。出自であるインディ・ロックのいなたさや素朴さも残し、アーティスティックでありながらもポップ・ソングとしてもギリギリに成立する非常にデリケートなラインで作り上げたアルバムが『エクスパンディング・フラワー・プラネット』なのである。

今年の4月にはカナダのシンガー・ソングライター、ニコラス・ケルゴヴィッチとのツアーで来日し、シンガー・ソングライター/マルチ・インストゥルメンタリストとしての魅力を見せつけた彼女だが、その才能はまだまだ底が知れない。まずは『エクスパンディング・フラワー・プラネット』で、その一端を聞き取りたい。

“Komodo”(『ザ・エクスパンディング・フラワー・プラネット』より)

提供:タグボート・レコーズ

企画・制作:RO69編集部

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