ドレスコーズ ダブルタイアップの超強力作
『人間ビデオ』を語る

ドレスコーズ

志磨遼平は、ますますロマンチストになっていく。ドレスコーズの3rdシングルは、ハードな3DCG映画『GANTZ:O』主題歌“人間ビデオ”がリードトラック、対照的な純愛映画『溺れるナイフ』の主題歌としてなんと毛皮のマリーズの“コミック・ジェネレイション”が再録された。
ライブや録音のたびにバンドの顔ぶれを変え、それでも「バンドが好きなんです」と言い続けるのは、音楽に向かうモチベーションとしてバンドを選んでしまった志磨遼平の、切実なロマンチシズムだ。次々と更新されるドレスコーズは、どこへ向かおうとしているのだろう。

インタビュー=今井智子 撮影=齋藤毅

自分の音楽を点として書ける。今はバンドのストーリーと自分の創作を全く別で考えることができる

――今回のドレスコーズは、ギターが人間椅子の和嶋慎治さんでドラムはピエール中野さん、ベースに有島コレスケさんということで。曲があってのメンバーなのか、それともメンバーありきの曲なのか、どちらなのでしょうか?

「曲からですね。『GANTZ』の3DCG映画を作るんですけど、『GANTZ』お好きですか?よければ主題歌どうです?ってお話いただいて。『もちろんもちろんずっと読んでましたよ』って。僕らの世代はみんな(『週刊ヤングジャンプ』での)連載を読んでたんで、もう喜んで!っていう感じで。わりとパッとすぐできた曲がこういうリフもので――っていうか、『これ和嶋さんやん!』ってデモを作りながら思ったんですよ(笑)。もう、和嶋さんに断られたらどうしようもないような曲だったので、ひとまずこういう曲を書いたんですけどギターで参加してもらえませんか?と。そしたら『もちろんもちろん』と言ってもらえたんで、じゃあこれは勝ったなと(笑)」

――人間椅子的なイメージがあったんですか?

「そうですね。完全に映画だけのことを考えて曲を書きましたから。今回は、原作で大阪編と呼ばれている部分を映画化するんですけど、その大阪編のイメージがハッキリしてたんで。主人公たちが追いかけるターゲットみたいなのが毎回あるんですけど、それが大阪編は日本古来の妖怪のような格好してるんですよね、ぬらりひょんだとかのっぺらぼうだとか。原作に、見開きで道頓堀の川底から一気にそいつらが上がってくるコマがあって――それが衝撃的なんですよ。そこがパッと浮かんだから、それを曲にしようって書き始めて、あのリフがもうあって、そこで『和嶋さんや!』って初めに戻るんですけど」

――和嶋さんだ!と思う曲ができて、すぐオファーできたというのも今のドレスコーズのスタイルですよね。

「そうですよねえ。今まで自分の引き出しにはないようなスタイルっちゃあスタイルなんですけど、こういうフレーズとか自然に出てくるもんなんですよね。こういうテーマで曲を書くとしたら、僕やったらプログレっぽくしたくなるなと思って。キング・クリムゾンとかイエスとかみたいな、途中で3拍子と4拍子が入れ替わったりとか、そういう仕掛けもいいなあとか。でもそれは僕が今まで一緒にバンドやってきた人が誰もやらなかったスタイルだったので。もう自分の音楽を、線上に置いて考えなくていいんだなぁと、今回余計思いましたね。点として曲を書けるというか。バンドのストーリーみたいなものと、自分の創作みたいなものを、全く別で考えることができる。ただ点・点・点だけで――、ひとつに結ばなくても曲ができる。それは自由で、いいですね。よく『バンドを解散させてばっかであんた、そんなんバンドやりながらソロやればいいやん』みたいなこと言われるんですけど。そんな非効率的なことしなくても、全部バンドでやればいいのにと思うんですよね。そんなに器用じゃないですしね、そもそも。だから自分ひとりで間に合っておりますという、そういうことには特化したスタイルですよ、今のドレスコーズは」

――今はこの形である、と。

「だから到達点ではないですね。ただの点。ここに向かったわけでなく、ここからどこかにいくわけでなく、点在しているという感じ」

初対面の人でも、スタジオに入って演奏するとうっすらとバンドのグルーヴの影が立ちのぼってくる――それがいっつも不思議で

――“人間ビデオ”でドラムがピエール中野さんなのはプログレ的なものを求めて?

「そうですね、手数が多くて変拍子的なのも叩けるというか。そういうドラム叩ける人はいっぱいいるでしょうけど、和嶋さんとピ様というのは、ほかの人にはできない組み合わせだろうし」

――このふたり、初顔合わせでしょう?

「そうです。だからすごい不思議な感じなんですよ。初対面の人が、初めましてってスタジオに入って。でも、演奏するとうっすらとバンドのグルーヴの影みたいなのが立ちのぼってくるという――本当に僕は何回もその現場に立ち会ってるんですよね。バンドにそっくりそのまま僕が参加するパターンもありますけど、何かの瞬間にふっと、姿が見えるんですよね。『今、バンドがいたな』っていう。ふふふ。それがいっつも不思議ですねえ」

――志磨さんそれを味わいたくてこういうことしてるんじゃないですか。

「そう、それがまあ、目的……そうかもしれないですねえ。普通は曲とか自分の表現みたいなものがあって、手段として、手が足りないので合奏しましょうってことじゃないですか? バンドってそもそも。じゃあ、あなたギターあなたタイコ、どうせなら気の合う人を、って。だけど僕は逆転していても構わない。バンドが組みたい、何がいるっけ、楽器と曲だ、じゃあ曲を担当します、というような。だから、バンドをころころ変えやがって何やって思いもあるでしょうが、異常にバンドが好きなんですよ。ずっとバンドに憧れてるんです。今は普通のバンドマンが一生かけても味わえないぐらいの回数の結成と、わーっていう興奮と、『ああこれでツアー終わって、僕ら演奏しなくなるのかなあ』っていう解散の感傷、センチメンタルな。それを繰りかえしループで味わうっていう。変態かなあ? そういうループに自分の身を置いて、結成しては解散して、結成しては解散して。そのたびに思いますねえ、『うわあ僕らすっげえかっこいいなあ!』って。独りよがりやったら寂しいんですけど、メンバーも、これはすごいねえって言ってくれるもんで。初ライブの前はちょっと緊張して。僕と同じぐらいの、10年はバンドやってるような人達でもソワソワするんですよ。スタジオで練習が終わっても夜までずーっとくっちゃべってたりとか。ツアーでバカなことしたりとか。最後のライブというか、ツアーのファイナルだとしんみりしたりとかして。うん、あれはいいものです。バンドって」

――バンドって、続けることでそういう感慨が薄れていくわけじゃないですか。そうならないようにしようとするみたいな?

「そうなんですよねえ。そういう節は昔っからあるんですよね。終わる前に終わりたい。僕らもうダメだねっていう前に、もう別れてしまいたい、みたいな。遠足の朝、『もうこれ、終わるだけやん』って思ったのすごい覚えてるんですよ、小さい時。異常なテンションで、前日に全然寝れねえ!ギンッ!ってなってるのに、朝パチッと起きたら、めちゃくちゃテンション落ちてるんですよ。すっごい楽しみにしてたのに、わけわからんと思って。なんで自分はこんな気分なんやろって、子供なりに一生懸命言語化しようとして考えたんですよ。そしたら『あ、これは終わりが刻々と始まってるんや』っていう。『あー嫌だー!』ってなって、全部放棄したくなる。それが性質なんでしょうね。それでも、悲しいっていうのもなかなかいいもので。だから、それ自体も、ひとつの過程に取り込んでしまうというので克服するというか」

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