いいミックスが返ってきたから、逆に自分たちのハードルが上がった。1個のミックスでそう思わせてくれるのもすごいなって
──これまで2枚、『ALARMS』と『See More Glass』をPOP ETCのクリスと共同プロデュースという形で制作してきていますが、今回、自分たちでやることにしたのはなぜですか?
尾崎雄貴(Vo・G) クリスとは結構もう友達みたいになってて、お互いの近況とかスケジュールとか報告し合ってるんですけど。制作してるっていうことと、クリスから得た、俺らが学んだことっていうのを1回やっぱり自分たちで煮詰めてみたいっていうことをクリスに言ったら、「ああ、いいじゃん」みたいな感じで。「いちプロデューサーでもあり友達でもあるから。もしそれが予算のこととかだったら全然相談に乗るから、僕は一緒にもの作りたいだけだ」みたいなことも言ってくれて。
──今はやりたいことがあるからいったん離れるけど、今後も一緒にやる可能性もあるっていう。
尾崎(雄) もちろん。もしかしたら他のプロデューサーの可能性もあるし。結構そういうのって土壇場で決まるタイプなんで、今回のエンジニアのマイクさんもわりと土壇場っていうか。もともと海外のエンジニアにお願いするつもりじゃなかったんですけど、音に必要だったので、直前でやってみようかなってなって。今までも、できてきた曲に合わせて一緒に仕事する人を選んできたんで。
──トラックダウンを担当したエンジニアのマイク・クロッシーとは、結構密にやりとりをしましたか?
尾崎(雄) 普通だとそういうエンジニアにお願いする時って、会社とか事務所を通じてっていうのが多いと思うんですけど、俺らはその間で時間がかかっちゃうことを知ってたんで、ダメもとで直にメールを送ってみようって思いついて。返事すら返ってこないと思ったんですよ。で、送ってみたら「面白そうだね」みたいな。とりあえず音源と今までのアルバムを送ってくれって言われて、それを送って。その日のうちにチャットみたいな感じでポンポンメールが返ってきて、「面白そうだね、やるよ」みたいな。それ以降の音のやりとりも、ほぼ自分たちで直接してたんで、普通に、一緒にやった感じが出せてよかったなっていう。
──海外だからレスポンスが遅くて、今どうなってるんだろうなとか、そういうストレスみたいなものも全然なかった?
尾崎(雄) 不思議なことに、時差もあって向こうが結構夜中のはずなのにメールを送ってくれたりだとか、すごく真面目な人っぽくて。それが好印象で。クリスもそうだし、今まで一緒に仕事してきた海外の人ってみんな、正直言うとそのへんの普通の日本人より真面目だなって思って。プロフェッショナルっていうのかな、気合の入り方が違う。そこはすごいシンパシーを感じてて。ほんとにいい出会いができてるなと思って。
──もともとは、自分が好きな音を作ってくれそうだからっていう理由で選んだのかもしれないけど、この人に頼みたいなって思った時点で、それ以外にも共鳴しているところがあるんでしょうね。その音を作るために、丁寧な仕事をしている、真面目な人というか。
尾崎(雄) それはマイクさんも最後にアドバイスっていうかコメントをくれて、「きみたちのミュージックマンシップの水準の高さを曲から感じたし、ソングライティングがすごいプログレッシブだ」っていうことを言ってたんだけど。それは曲から感じ取ってくれたのか、「すごくいいと思うから、あんまり考えすぎず、怖がらずにいろいろ挑戦していけたらいいね」みたいなのを送ってくれて。曲から俺らが真面目になりすぎる時があることとかが伝わったのかなと思って。面白いなと思って、音からわかるのかなっていう。
──実際仕事をしてみて、いい面を引き出してもらえたなって思いますか?
尾崎(雄) 日本のエンジニアにお願いした時に、海外と比べたら、ドラムとギターとベースが全部くっついちゃってるんですよ。誰が何鳴らしてるのかわかんない、ドラムも木なのか鉄なのかもわかんない。でもマイクさんのミックスを聴いて最初に思ったのは、横幅と奥行きと高さがちゃんとあって、もう立体なんですよ。それがやっぱすごいなって思って。もちろん細かい、もうちょっとギターが立ってくるといいなとかっていうやりとりはあったんだけど、やっぱ最初の時点でのしっくりくる感じっていうのが段違いだったっていうか。
──自分たちが理想としてる音が、マイクさんに頼んだことによって得られた?
尾崎(雄) それを確認できてほんとによかったなっていう。これで全然良くなかったら、やっぱりがっかりするじゃないですか。海外のエンジニアとやっても結局俺らだからこうなんだ、俺らの音がしょぼいんだってなるけど、そうじゃなくて、やっぱりいいミックスが返ってきたから、逆に自分たちのハードルが上がったっていうか、もっといい音鳴らせんじゃん、みたいな。1個のミックスでそう思わせてくれるのもすごいなって思いました。
俺らも真面目すぎって言われるけど、出会う人たちが、みんなはっとさせられるぐらい真面目でプロフェッショナル。そういう人たちにこれでいいと思わせてもらえる
──それから、今回はいい出会いがもうひとつあって。"嵐のあとで"は、映画『台風のノルダ』の主題歌で、書き下ろしですよね。これはオファーを受けて?
尾崎(雄) そうですね。最初の時点で監督からいろんな要望があって。「インディーフォーク」っていう言葉とか、「雨上がり」っていうワードがズラーッと並べられたのが送られてきて。プラス、声優の声が絵コンテに当たってて、フル尺で絵コンテがパラパラ動くみたいな素材をもらって、それに合わせて曲を作ったので、ほんとにサントラを作るみたいな感じで。プロフェッショナルなことができてるなっていうか。仕事をできてる感じがすごくあって楽しかった。やりがいがすごくあって。
──どういうものに自分たちの歌が乗るかとか、どういう話を経た中で見せられるかっていうのも全部イメージできた上で作れたっていう。
尾崎(雄) エンディングなんですけど、映像のどこに曲を持ってきて、イントロがこのへんでとかっていうのも最初から指定されてたんで。ついさっきスタジオに行って監督さんと会ってきたんですけど、26歳で、わりと歳が近くて、正直友達にいてもおかしくないみたいな人たちで。なんかうれしくなったっていうか、もちろんすごいキャリアのある人だと思うんですけど、向こうの年齢を考えてもコラボできた感じっていうか、タイアップっていう感じじゃないなと思って。
──さっき、マイクさんとも一緒にやってる感じだっていう話があったんですけど、それに近い形かもしれないですね。歳も近くて。
尾崎(雄) そうですね。めっちゃ真面目な人だったよね。そこにシンパシーを感じる部分があって。俺らも結構まわりから真面目すぎって言われることがあって。もちろん俺らも真面目すぎるかなと思ってた部分もあったんですけど、やっぱこうやって出会う人たちが、みんなはっとさせられるぐらい真面目っていうか、プロフェッショナルで。そういう人たちにこれでいいんだなと思わせてもらえるのが、すごいいい出会いだなと思って。今回の監督さんもそうだったから、これは運命的な出会いなんじゃないかなって。