
indigo la End
ここから4人で鳴らす、はじまりの音。
シングル『瞳に映らない』メンバー全員インタヴュー
indigo la Endが9月24日にリリースしたシングル『瞳に映らない』が実に良い。およそギター・ロックというフォーマットで表現し得る「音楽の純度」をありったけ凝縮させたようなサウンドスケープを展開してきたindigo la End。今年4月のメジャー・デビュー・ミニアルバム『あの街レコード』の後、サポート・プレイヤーとしてライヴを支えてきたベーシスト=後鳥亮介を正式にメンバーとして迎え、4人バンドとして生まれ変わった彼らの「バンド感」が、表題曲“瞳に映らない”の胸の空くような晴れやかなポップ感にも、“ハートの大きさ”の野性的なくらいに爽快に躍動するビートにも、この上なく鮮烈に焼き込まれているのがわかる。同じく川谷絵音(Vo・G)がソングライター&フロントマンを務めるゲスの極み乙女。との同時メジャー進出というトピックから5ヵ月。新たなスタートを切ったindigo la Endの力強く、確信に満ちた「今」のモードが、以下の4人全員インタヴューから読み取っていただけるはずだ。
ほんとに、「今回から始まる」みたいな作品です
──シングル『瞳に映らない』は、“瞳に映らない”みたいな爽快な曲がある一方で、“幸せな街路樹”のスケール感もあったりして。「4曲入りシングル」とは思えないくらいアルバム的な広がりのある1枚になりましたよね。
川谷絵音(Vo・G) そうですね。昔の曲が入ってたりとか……“瞳に映らない”はちょうど後鳥(亮介)さんが入ってから初めて一緒に作った曲で、その流れで“ハートの大きさ”っていう2曲目を4人で作ったんですけど。シングルが出るっていうのは最初決まってなくて、この“瞳に映らない”ができた時に、「やっぱりこれはシングル切りたいな」っていうことで、直談判して、発売日を決めて出すことになって。シングルって3曲か4曲なんで、あとはどうしようかな?って思って……“シベリアの女の子”はもうindigoの初期、4年ぐらい前からある曲で。いなたい感じの曲なんで、ずっと入れるタイミングがなかったし、長田(カーティス)くんとかは「あんまり入れたくない」みたいなことを言ってて——。
長田カーティス(G) もう覚えてなかったんだよ、ぶっちゃけ(笑)。
川谷 でも、僕はずっとこの曲のことが気になってて、入れたいなと思ってたんで。何かの拍子でやってみたら、意外とよかったんで。“幸せな街路樹”も——去年のフルアルバム(『夜に魔法をかけられて』)からこの前のミニアルバム(『あの街レコード』)を出すまでに1年ぐらい空いてて、その間に出した会場限定シングル(『幸せな街路樹.ep』)の中にこの曲が入ってたんですけど。この曲がすごく大事な曲で。このシングルって「新しいindigo」をバッと示すのにいい作品だと思ったし、3曲だけだったらそうなってたと思うんですけど。“〜街路樹”が入ることによって、今までのindigoの背景も知ってもらえるなと思って。そうすると、アルバムみたいなすごい濃い作品になっちゃって。そんな狙ってたわけじゃないんですけど、今ある曲を入れたら自然とそうなった感じですね。
──なるほどね。“瞳に映らない”も“ハートの大きさ”も、この4人で鳴らしている「今のindigo」がリアルに伝わってくるものになってますよね。
川谷 特に“ハートの大きさ”なんかは、ベースの音がすげえ大きいんですよ(笑)。それも後鳥さんがいるからできることなんで。今までベースがいなかったんで、どうしてもベースの音を意図的に小さくしてたところもあったんで、ギターがガッと出て、みたいなところもあったんですけど。今回は後鳥さんのプレイアビリティを見せるための曲を作って、それがうまくハマったなと思って。しかも、ベースがガッて出ると、すごく4人のバランスがよくなるんですよね。ほんとに、「今回から始まる」みたいな作品ですね。
──これまで後鳥さんはライヴのサポートでは参加されてましたけど、レコーディングに参加するというのはまた違う想いがあったんじゃないですか?
後鳥亮介(B) それはもちろんあるんですけど。今までの流れっていうか、メロディアスなベース・ラインとか、そういう部分も汲みつつ、差し引きをしながら、行けるところまで行っていいよ、っていうバンドのスタイルなんで。それに関しては、自分の出せるところは全部出していこうと思って。特に、初めてのシングルなので。
長田 これまでも「サポート」って言っても、ずっとメンバーのような感じでやってきちゃったので。僕はそんなに「これを出すことで何かが変わる」とかいうのはないかもしれないです。でも……ありがたいですね、こんな素敵な人が来てくれたことで、よりいっそう良い演奏ができるんじゃないかと思ってます(笑)。
オオタユウスケ(Dr) 4人揃ってレコーディングして出す、っていうのが初めてなんで、そこは嬉しいですよね。
川谷 “幸せな街路樹”に関しては、ベースは後鳥さんじゃないんですけど。前のテイクをそのまま使ってるんで。“幸せな街路樹”のこの録音が好きだったんで——これもう、別に録り直す必要もないっていうか、完成してるんで。
──川谷さんもずっと、くるりやクラムボンを例に挙げながら、良質な音楽、エヴァーグリーンな音楽であることを第一義に置いているindigoの在り方について、いろんなところで語っていらっしゃいますけども。特に“瞳に映らない”“ハートの大きさ”の音は、より「いろんな人に聴いてもらうこと」「楽しんでもらうこと」に踏み込んでいるような気がするんですけども。どうですか?

川谷 と言うより、昔は「良質であること」イコール「いろんな人に聴いてもらえる」、っていう感覚だったんですよ。自分の中の感覚は共有できるはずだ、っていう根拠のない自信みたいなものがあったんですよね。僕もJ-POPとか聴いて育ってるから、みんなも共感してくれるはずだ、って思ったら、そうでもなかったんですよね。
長田 (笑)。
川谷 だから、いろいろやって気づいたんですよね。自分がまだ未熟だったなって。曲としては、昔の作品は今でもいいなって思うんですけど、でもやっぱ何か違うなっていうのがあるんですよ。「バンド・シーンに入っていく」とかいうことではなくて、自分の中でどんどん感覚が研ぎ澄まされていって、こういう作品ができたというか。別に「こうしたい」とか「こうやれば売れる」とかいうよりは、単純に自分の感覚が変わってきたっていう感じですね。いろんなバンドと対バンしたりとか——年月経っていくといろんな音楽聴くじゃないですか。そういういろんなものが影響してそうなっていったのかなって。
完全に良いんですよね。いろんなバンドを観てるのに、なぜかあんまりライヴをやってなかった時に観た後鳥さんのベースがやっぱり記憶に残ってて、誘ったんです
──今回聴いて改めて思ったのは、indigoの音楽って、楽曲で「何を」表現するかっていうことと同じように、それをバンドで「どう」表現するかっていうのが大事なんだなあっていうことで。変なたとえですけど、たとえば川谷さんが“瞳に映らない”をゲスの極み乙女。に持っていって、ゲスの4人で演奏したら、まったく別アレンジの別のサウンドになっていくだろうし。この4人で鳴らす音こそがindigoなんだ、っていう。

川谷 そうですね。この前の『あの街レコード』も、ベーシストはひとりじゃないし、いろんな人に弾いてもらったりしてて、それこそ合わせたのも1回とか2回とかでRECやってもらったりしてるんですけど、思い入れは強いんですよ。4人で鳴らしてる音が大事じゃないとかではないんですけど、indigoの曲があれば別に、indigoにはなるんですけど……今回特に、後鳥さんのベースがあることによって、曲によってできること/できないことが変わっていったというか。僕の中で“ハートの大きさ”みたいな曲は絶対できなかったんですけど、今だったらできるから。そういう意味で曲の幅が広がっていったし。もともとやりたかったことだったりするんで。それは後鳥さんのおかげですね。
──できることが広がったことで、ソングライティングにもフィードバックされている部分が大きい?
川谷 そうですね。今がいちばんいい状態だと思うんで。もっといろんな曲を——今も作ってて、今までだったら絶対に思いつかなかったなっていうものを思いついたりするんですよ、不思議なことに。ベースが違うだけで。最初に「ベースをこうして」とか言うわけじゃないんですけど、自分がギターを弾くだけでも「これやっぱ何か違うな」って。今だったら何でもできるな、っていう状態に入った時の曲が、この“瞳に映らない”で。ここから何かどんどん生まれんだろうなって。“瞳に映らない”も、今聴くと「アレンジやっぱりこうしたいな」っていうのはあるんですけど、この時の感じはこれはこれでいいなって。この時でしか鳴らせないというか。4人の1枚目としてはいいんじゃないかなって。あと、精神的にも、やっぱり違いますよね。単純に、メンバーじゃない人だと、気を遣うじゃないですか。
長田 それね(笑)。
川谷 「この日大丈夫ですか?」とか、indigoのベース以外のことを優先させなきゃいけないから。そういう精神的なところが曲に出てるかも、っていう。
後鳥 (笑)。
川谷 ……何か今面白かったですか?
後鳥 いや、気遣われなくなるんだなあと思って(笑)。
川谷 雑にはなるかもしれないですね。
──(笑)。いろんなベース・プレイヤーに弾いてもらった中で、後鳥さんを正式にメンバーに迎えたポイントは何だったんですか?
川谷 ポイントっていうか、完全に良いんですよね。そこだけなんですよ。だって、僕らが誘ったのも、別のバンドで後鳥さんが弾いてるのを観て——いろんなバンドを観てるのに、なぜかあんまりライヴをやってなかった時に観た後鳥さんのベースがやっぱり記憶に残ってて、誘ったんです。だから、もう3年ぐらい前に観てて。理由っていうよりは、「後鳥さんがよかった」っていう。
後鳥 (笑)。
長田 べた褒めじゃないですか。
川谷 オオタさんにしても、いっつもベーシストが変わってたっていう前の状況からしたら、ちゃんと見つかってよかったんじゃないかなと思ってるんですけど。
オオタ このバンドやる前から、ベーシスト固まらないっていう状態が続いてたんで……しかも、僕をすごくわかってくれる人なので。

後鳥 わかってくれるっていうか、オオタさんが単純すぎるだけだと思うな(笑)。
──“ハートの大きさ”の《どこに属する?なんて/野暮な質問だった》《ハートの大きさを変えたら、曖昧な序列が出来上がる》っていうフレーズは、indigo la Endとしてのシーンとの/世の中との向き合い方を重ね合わせた言葉のようにも聴こえるんですが?
川谷 結構“ハートの大きさ”はそのまんまというか、僕のパーソナルな歌詞なので。でも、別にそれを深読みしてほしいわけじゃなくて。音楽を知ってる人はそういうふうに捉えたりすると思うんですけど、そうじゃない人は別の意味で捉えると思うし。僕は自分の感情をただ書いてるだけなんで。それをどう取られるかはいろいろあるだろうなって思うけど、別にどうでもいいかなって。