スガ シカオが歌うスーパーバンド・kōkua 初アルバムを徹底的に読み解く!

kōkua

文=兵庫慎司

スガ シカオのデビュー20周年イヤープロジェクトとして活動再開し、2016年6月1日(水)に初めてのアルバム『Progress』をリリースし、同月に4公演のツアーを行うkōkua。
kōkuaって何? ということをご存知ない方のために、一応説明します。
ボーカルはスガ シカオ。キーボードは松任谷由実のライブにおける音楽監督として知られるほか、ゆず、平井堅、今井美樹など数々のアーティストを手がけてきた武部聡志。ギターはサザンオールスターズ/桑田佳祐のファンにはおなじみ、他にも福山雅治やUAなど多数のアーティストに関わってきた小倉博和。
ベースはサザンのサポートや第一期奥田民生バンドなどなどでプレイしてきたほか、Cocco、GRAPEVINE、くるりなど多くのプロデュースでも知られる根岸孝旨。そしてドラムは、元MUTE BEAT、その後UKに進出してプログラミングやアレンジ等でSOUL Ⅱ SOULやシネイド・オコナーのシングルを大ヒットさせたり、シンプリー・レッドに正式加入して活動したり、国内では藤井フミヤからTOMOVSKYまで、さまざまなアーティストのプロデュースを手がけてきた屋敷豪太。

という、国内トップクラスのプロデューサーたちが……いや、屋敷豪太はワールドワイドか、とにかく、その人ひとりいればアルバムを作れてしまうクリエイター「だけ」の集団が、kōkuaなわけです。
2006年にNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』の主題歌“Progress”、そう、「スガ シカオといえばこの曲」みたいな存在になったあの曲を制作するために集まったのが、そもそもの始まり。ただ、そんな豪華すぎて忙しすぎるメンツなので、その後パーマネントな活動に発展するわけもなく、ライブを行ったことがあるのも2010年(京都)と2013年(東京)のイベント出演の2回だけだったのだが、昨年=2015年に『プロフェッショナル』が放送開始から10年ということで再集結、新曲“夢のゴール”(番組挿入歌)を制作。このたびのアルバムリリースとツアーは、それに続くアクション、ということになる。

という、以上の情報は、プロデューサーは誰だとか、演奏しているのは誰だとかまで気にしながら聴くような、マニアックな方にとっては「うわあ!」っていう事件だが、そうじゃない方にとっては「知らないよ。要はスガ シカオがバンドやってるってことなんでしょ?」という話かもしれない。しれないが、そこなのだ。
スガ シカオは、デビューの頃から基本的に、すべての音源制作の作業をひとりで行ってきた、超密室型なアーティストだ。最新アルバムの『THE LAST』には小林武史が共同プロデューサーで参加しているが、作詞作曲やアレンジは、これまでどおりスガ本人が行っている。
そんなスガ シカオが、誰かと一緒にやっている。自分の作った曲のアレンジや演奏を人に委ねている。あまつさえ、人が作った曲を歌ったりもしている(屋敷豪太1曲、根岸孝旨1曲、武部聡志1曲。小倉博和も1曲書いているが、自身で歌っている。なお、武部曲はラップです)。その上、カバーまでやっている(シンプリー・レッドの曲にスガが日本語詞をつけたのが1曲と、岡林信康“私たちの望むものは”!)。
人の曲を歌うスガ シカオ、というのは過去にも福耳などがあったが、ここまでがっちりバンドの一員としてそれをやっているのは、おそらく初めて。しかも、前述のとおりのスーパーなメンバーと共に。
ゆえに、長年彼の音楽を聴き続けてきた耳にとって、やたらと新鮮なのだ。ほんと、1曲1曲にいちいち「へえー! こうなるかあ」とか「はあー! こうくるかあ」という驚きがある。そして、メンバーがメンバーなだけに、どの演奏も、どのアレンジも、どの曲も、本当にいい。
しかも──特に“夢のゴール”あたりに顕著だが、そもそもの作詞作曲自体も「人と一緒にやる」というフィルターが入ったせいか、より開かれたものになっている気がする。もう迷わずに自分のとことん濃くてヤバいところを出してやれ、という意志で作られた『THE LAST』と対になっている作品なのかもしれない、そういう意味では。いずれにせよ、素晴らしい。

と、ここまで書いて読み返して、スガ シカオってそんなに誰かと一緒にやるのが珍しい人なのか? 全部自分でやんないと気がすまないタチなのか? ヤバいくらいそういうタイプなのか?と、疑問に思われる気がしてきた。もしそう問われたら、本人が読んだらムッとすること覚悟で、頭を垂れて「そうです」と答えるほかないが、ただ、このタイミングでこうしてkōkuaで素晴らしいアルバムを作ったり、『THE LAST』で小林武史と組んだり、あるいは昨年あたりから「スガ シカオ with 菅波栄純」でフェスに出たりしているところを見ると、デビュー20年にして新しいドアを開け始めているのかもしれない、と思う。そしてその新しいトライアルは、今のところ、いずれも素晴らしい結果を生んでいる。
とりあえず、kōkuaのツアー、楽しみです。(兵庫慎司)

公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする