8年目のメジャー進出!? サイケに世界を塗り替えるオワリカラの秘密を今こそあばく!(2)
もしオアシスの方に憧れてたら、今はもっと売れてたかもしれない。そこでカート・コバーンに行っちゃったんで。
――ヒョウリさん自身が音楽で救われたり新しいものに触れる経験をしたんんでしょうか。
「1個は自己表現ができるということの、きっかけが音楽だった。僕、もともと漫画家になりたかったんです。キャラクターを作って、ストーリーを作って。でも、才能がなくて。実際に投稿もしたんですけど、とにかく根気がないんで無理だったんですよ(笑)。その時に音楽に出会った。もともとバンドミュージックってあんまり聴いてなかったんで、出会った時にその凄いスピード感とか、こういうキャラクターがこういうこと言うっていう漫画的なことでも、自分が思ってることでも、ロックミュージックに乗っけたら聴いてもらえるんだ、ってことに中学生ぐらいの時に凄く勇気付けられたことがあって」
――そう感じさせてくれた音楽なりバンドなりは何だったんですか?
「バンドを始めるきっかけはニルヴァーナなんですよ。もうカート・コバーンは死んでたんですけど、あれは凄いじゃないですか。そんなに難しいことやってなくて、言葉も意味不明なのに切実に伝わってくるものがある。それでカート・コバーンをすごい身近に感じて。世界中の中高生がそうだと思いますけど。それでバンドやろうと思ったんですよね」
――聴いたのは『NEVERMIND』?
「最初は『Incesticide』っていう、B面集みたいな。中古盤屋で一番安かったんで(笑)。買った瞬間とか覚えてますね。オアシスの『(What’s The Story) Morning Glory?』と一緒に買ったんですよ。最初は『~Morning Glory?』すごいよかったんです。『Incesticide』聴いた時に、すっごい音が歪んでるし声も叫んでる、これ間違ってんじゃないの?と思ったんですよ。『~Morning Glory?』は凄い綺麗でいい曲で、最初はそればっか聴いてたのに、次第に『Incesticide』ばっか聴くようになって」
――裏道に行くスイッチがその頃からあったんですね。
「その時に入ったのかもしれない。その時オアシスに憧れてたら、今もっと売れてたかもしれない。運命の岐路だったかもしれないですね。そこでカート・コバーンに行っちゃったんで。その頃は邦楽って聴いてなくて、ニルヴァーナが日本のバンド好きらしいって知って、少年ナイフとかボアダムスとか聴くようになっていって。中原昌也、暴力温泉芸者、メルツバウ、マゾンナとかそっちの方に行って、ゆらゆら帝国とかサニーディ・サービス。だから本当に地獄から這い上がってくるかのように音楽を聴いて、だんだんポップになっていく(笑)。自分の高校時代のデモテープがすごく面白くて、最初ノイズなんです。そこから、この時ビートが生まれたとか(笑)、初めてメロディがついた、歌詞ができた、とか、少しずつポップになっていって。全てが混在して今になったという感じなんです」
――その経路の果てに歌謡曲とかがあったんですか?
「サニーディ・サービスとかからフォークに行って、井上陽水から歌謡曲になって。70年代前半から80年代ぐらいの歌謡曲が好きですね。日本人の心に響く音楽という意味では歌詞も含めて頂点を極めているなと思って。特別好きな人は郷ひろみとジュリー(沢田研二)なんです。声が好きというのは大きいですね。あの時代の筒美京平・阿久悠がやってることが好きですね」
――オワリカラも目指すところはそういうところですか?
「そうですね。新時代の郷ひろみみたいな(照笑)、サイケ界のジュリーみたいなところに行きたいですね」
新しいこと、新しい感覚という生まれた時のまんまのサイケデリックという言葉の意味の方で使いたいと思っている
――“へんげの時間”も、ライブとかでの現実逃避というか非日常性を求めていますね。これが1曲目というのは意味がありますか?
「今回は変化がテーマとしてあって。それを摂取したことによって、何か少し世の中の見え方が変わるというかね、カラフルな方向に、ポジティブな方向にチェンジする、そういうことですね」
――そういう歌の中に《ア、ビバノン》とかくすぐりが入ってくるのは?
「基本的にどっか笑えるようにしたいというのがあって。70年代の映画とかって、『このシーンいる?』みたいな笑えるシーンがあるじゃないですか。そういう外し方が好きなんですよね。だからどこかしら外れてるというか、ズレてるようにしたいところはありますね」
――そういう外し感がある曲は前半に集中してますね。後半の、突き詰めてる時の曲ではそういう気持ちにならないのでは?
「ああ、前半6曲は他人のこと意識してるから、面白いところ入れたいってなってくるというか。そこはエンターテイナーと言ったらおこがましいですけど、やっぱり送り手として、くすぐりたいみたいなことはあるのかもしれないですね。後半では逆に音楽を求道していく上では排除されちゃうのかもしれない」
――最後の“new music from big pink”はそれが極まってますね。
「この曲は本当に、思いつく限りの事をやってるんですよ。曲が長いからカットしようとか、そういうことを何もしなかった。出てくるまんまとめどなく作ったという曲なんで。自分でも説明できないところがたくさんあるんですけど、気に入ってます」
――この歌に出てくる村上龍の小説『コインロッカー・ベイビーズ』がミュージカルになるんですね。
「そうそう、ジャニーズの人が出るみたいです。僕ねえ、割とタイムリーなんですよ。ひとからはタイムリーだねって全く言われないんですけど(笑)」
――そういうタイムリーさでは、《ペイズリーパーク》も出てきますね。
「そうなんです。“装備解除 in BED”は、曲自体はデヴィッド・ボウイの“Let's Dance”の音を再現しようっていう曲なんですよ。で、歌詞のテーマはプリンスのペイズリーパークで。両方亡くなってしまってびっくりしましたね」
――ペイズリーパークはサイケの象徴としてでしょうか?
「いや単純に言葉の響きが好き。あと《ペイズリーパークは誰の心の中にもある》というプリンスの歌詞がいいなと思って」
――サイケデリックという捉え方ではなくて?
「サイケデリックは好きなんです。でもサイケという言葉は生まれ変わったらいいなと思う。かなり限定されて言葉になっているでしょう。パンタロンとかマーブル柄とか、もちろん好きなんですよ、ファズギターとか。そういうイメージに限定されてるけど、最初に言葉が生まれた時は新しいこと、新しい感覚ということですよね。そういう、生まれた時のまんまのサイケデリックという言葉の意味の方で使いたいと思っています」
――様式的なサイケじゃないと?
「様式的なサイケも好きなんですけどね、様式的じゃないサイケと言われても困ると思うんで(笑)、様式的な意味で入ってきていいんだけど、中はもっと広いんだというふうになったらいいと思います」
――この作品の中で、歌いたかったことって何なんでしょう。そういう入り口となることですか?
「さっきも言ったことと重なりますけど、変化を待ち望んでいるというか。そういう人にとっての、きっかけになるような音楽、それがやりたいですね。自分たちにとっても、変化の時だと思うんで。一緒に変わっていって、ちょっとでも明日見る世界がね、カラフルだといいなと思います」
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