約1年ぶりのリリースとなる、さよなら、また今度ね(以下、さよ今)の2ndミニアルバム『夕方ヘアースタイル』。新世代バンドの一翼を担う存在としてデビューした彼らだが、ここへ来て、これまでとはまったく違う次元の「進化」を見せ始めている。それを端的に物語ったのが、今作にも収録されている“ミルクアイス”、そして“クラシックダンサー”の2曲だ(両曲とも秀逸なPVが出来上がっているので、是非とも見て欲しい)。まず前者はバンドの紅一点であるベースの佐伯香織が初めてヴォーカルを担当した1曲で、さよ今の新しい「武器」をプレゼンテーションしたナンバー。彼女のキュートなヴォーカルと疾走感溢れるビートが絶妙にマッチングし、既にライヴでも定番曲の位置を獲得している。そして、さらなる進化を確認できるのが、後者の“クラシックダンサー”だ。これまではちょっとした「ズレ」の感覚や「外し」の妙が核にあったさよ今のロックだが、この1曲で聴けるメロディと歌詞には、まさに「王道」と言っていいメジャー感が備わっている。そして何よりも驚きなのが、「さよ今らしさ」がまったく死んでいないということ。菅原達也が持つポップな才能をクリアに見せ、その輝きがより強調されているのだ。まさに転機の1枚と言っていいミニアルバム。メンバー4人にその手応えを存分に語ってもらった。
(インタヴュー・撮影=徳山弘基)
前は「オリジナルって何だろう?」っていうことをとにかく模索してた。
でも「メジャーなことをやらないのが正義だ」とはまったく思ってないんですよ。
「楽しいほうが正義」なので
──まずは作品の話に入る前に、ここまでの流れをざっと振り返ってみようかと。1stアルバム『P.S.メモリーカード』をリリースしたのが去年の9月で、そこから2度のワンマンを東京で開催したわけですけど、菅原さんはバンドの変化や手応えをどう感じていました?
菅原達也(Vo)単純に僕らのことを好きになってくれる、理解してくれる人が増えたなっていうのを去年の秋冬頃から感じて。そうやって僕らのことを理解してくれる人を増やす活動に徹底していた1年ではありましたね。
──「理解してくれた」っていう手応えは具体的にどういう瞬間に感じました?
菅原自分の曲でも「特に好きな曲」とか「普通の曲」とかがあるんですけど、それをお客さんとの間でも「俺、これが特に好きなんだよね」「私も特にその曲が好き」「私は普通に好きだな」っていうのを共有できたってことかな。
──たとえば下北沢のSHELTERと渋谷のeggmanでやった2度のワンマン、それぞれ手応えはどうでした?
菅原SHELTERの時はレコ発でやらせてもらったんですけど、変に緊張していて。CDは聴いてもらっているんですけど、ライヴではどういう見栄えになるのか試されているところでもあったので。ただ今年の2月にやったeggmanは、レコ発とかではなく「普通にワンマンやります」「俺らも楽しむから、お客さんも楽しむつもりで来なよ」みたいな感じでやったライヴだったので、そういった意味でeggmanは自分も楽しめましたね。
──僕はそのeggmanでのワンマンを見てから「あ、いろんな意味で吹っ切れたな」という気がしたんです。具体的に何かあったんでしょうか?
菅原自分のバンドなんですけど、まだ自分のバンドのメンバーになり切れてない感覚が今思うとあって。ただ2月ぐらいになるとしっかりと活動が始まり、それが実った状態になっていたんで、やっと自分も「さよなら、また今度ねのメンバーだ」っていう自信がついたのかもしれないです。だから単純に時間ですね。時間がそうしてくれたって感じですね。
──菅原さんを近くで見ていて、菊地さんは何か変化を感じました?
菊地椋介(G)どっちかっていうとバンド全体の雰囲気とか方向が、あっちいったり、こっちいったりしていたのかな。去年は菅原の言動もどこに芯があるのかわからないような感じで(笑)。それを他の3人で「こうだよ」って誘導して、支えてあげたかったんですけど、どこに寄り掛かるかわからないぐらいグラッグラしていて。それが2月にワンマンしてから自信がついて、そこからは3人で菅原を誘導するために「こうだよ」って道しるべを示せば、「ああ、なるほど」って、一緒に歩み寄ってくれるようになりましたね。
──そこから曲の作り方も変わった部分ってあります?
菅原この前の取材で『夕方ヘアースタイル』は「お客さんの顔を思い浮かべながら作ったんじゃないの?」って言われて、俺それを感じてなかったんですけど、確かに2月のeggmanからは「お客さんはどういうものがノリやすいだろう」とか「どういうものをおもしろく聴いてもらえるだろう」っていうのを想像しながら作ったのは間違いなくて。僕、歌詞から曲を書くんですけど、それはまったく変わらなくて。でも僕の感情というか、頭のなかで書き方が変わったなっていうのはあります。
──逆を言うと、これまでは「お客さんの顔を思い浮かべながら曲を書くこと」に、ある種のあざとさや抵抗を感じることもあった?
菅原あったような気はしますね。もともとメジャー感のある音楽は好きだったし、やるのも全然嫌いじゃないし、今だと嫌味なくできるんですけど、前は「オリジナルって何だろう?」っていうのをとにかく模索していたので。でも「メジャーなことをやらないのが正義だ」とはまったく思ってないんですよ。「楽しいほうが正義」なので、そういうシフトチェンジをしたのかなっていう気がします。
「平和」という狂気を持とうとは思います。
「こいつらの平和感、恐ろしいな」っていうぐらいのものを
お客さんにも対バンさんにも示せたらいいなと
──2月のワンマン以降は、対バンやイベントなど他流試合も多く経験して。たとえば他の若手バンドと同じステージに立つことで何か感じたことってありますか?
渋谷悠(Dr)単純に技術の差は感じるんですけど、MCとかも含めて、ライヴ作りがすごくうまいなって思いました。そういう意味で、ひとつひとつのライヴ、対バンが自分たちの糧になったような気がします。ただそうやって音楽性は違うと思うんですけど、同じ土俵に立って勝負できるとも思いました。
──たとえば対バンの30分のセットリストのなかで、比較的ミディアムテンポでメロウな“素通り”って曲をかなりな頻度でやりますよね。あれはなぜ?
菅原単純に場面転換っていうのもあるし、あと「曲いいな」と思うし(笑)、「響くだろう」とも思うし、あの曲で「底力を見せてやるぞ」っていう気もありますね。
──あと「俺たちは、こういう曲もできるんだ」っていうのも見せたい。
菅原おっしゃる通りです。
──4つ打ち・縦ノリなバンドがひしめく対バンで、あの曲をやるっていうのは勇気がいることなんですけど、そこにしっかり向き合うのが、このバンドの独自性なのかなと。
菅原当たり外れも多い曲なんですけどね(笑)。ちょっとした賭けがある曲なんです。ほんと勇気がいりますね。でも気にしないで「歌いたい時に歌おう」っていう気持ちがあるから、毎回歌いますけど。「ああ、いい歌を歌うバンドだな」ぐらいに思ってくれれば嬉しいので。
──佐伯さんはこのバンドのオリジナルな部分をどういう瞬間に感じます?
佐伯香織(B)最近思ったのは、ウチのバンドはライヴがすごく平和だなあと思っていて。それはメンバーから出る空気感なのかわからないんですけど、お客さんから「笑顔になる」とか「幸せな気持ちになる」とか、そういう感想をよくもらうんです。最初は「それってダメなんじゃないか」「かっこよくなきゃいけない」と思っていたんですけど、「それっていいことなんだ」っていうことに最近気付きまして。それは逆に他のバンドさんには出せない空気感なんじゃないかと思っていて、ウチのバンドの武器なんじゃないかと。
菅原でも、あんまり平和ボケしてもしゃーないんで。だから「平和」という狂気を持とうとは思いますけどね。「平和」っていう言葉の意味まんまじゃなくて、「こいつらの平和感、恐ろしいな」っていうぐらいのものをお客さんにも対バンさんにも示せたらいいなと。