ラブリーサマーちゃん、最新EPを生んだ情熱、そして「責任」を語る

人生がバグっちゃったような感覚もあるんですよね


――今仰ったことはもはや、エゴの闘いというか。他人にはわからない、ラブサマちゃんの中での葛藤ですよね。

「私は自分を凡庸な人間だと思っていて。人生をテンプレ通りに進めていくような家庭で育ったから『私はちゃんとネクタイを締めて働く人間だ』って幼い頃からどこかで思ってたんだと思います。でも、音楽にのめり込んだせいで、いつのまにかいろんなものをかなぐり捨てていて、人生がバグっちゃったような感覚もあるんですよね。たまに音楽で上手くいかないことがあると、順当でまっすぐな人生を歩んでるパラレルワールドがあるような気がしてきて。『私、このままでいいのかな?』って将来への不安を感じることもあるんです」

――でも、それがある程度、解決されたんでしょうか?

「そうですね。今の人生と、あったかもしれない真っ直ぐな別の人生みたいなものを考えたところで、意味ないなって思えて。私だって曲がろうとして曲がったわけじゃないし、なんなら曲がってるとも思ってないし。音楽好きになった時点で何が真っ直ぐかなんて自分の中で変わってるんだから、それでいいじゃんと思って。たまに『私、大丈夫かな?』とか人の目を気にして思うこともあるんですけど、別にもう気にしなくていいなって。シャキッとしてテイクオフしようぜ!って気持ちにこの作品でなれたんだと思います」

――作品のテーマが、まさにそれですよね。『人間の土地』ってタイトルをつけたのはなんでなんですか? 

「収録する4曲を全部気に入ってたし、どれか1曲を選んでタイトルにするのは他の3曲がかわいそうだなと思ってたので違うタイトルをつけたくて。スピッツの“空も飛べるはず”って曲が入ってるアルバムの名前が『空の飛び方』っていうんですけど、そういう曲のテーマを含有しつつも広い意味で捉えられるカッコいいタイトルがいいなと思って。色々、本を読んでたんですけど。自分の本棚にあったサン=テグジュペリの『人間の土地』を読み返したら、このEPと重なるところが結構あるなと思って、お借りさせていただきました」

――サン=テグジュペリの『人間の土地』は、彼が若き日に郵便物を運ぶ飛行士をしていた頃の話が描かれている本ですよね。

「そうそう。だからさっき話していた、責任ってこととも通じ合うところはありますよね。郵便物を運ばなきゃいけないっていう使命を負っている職業ですから。そのために殉職している人の話とかも描かれていて。確かに、そういう部分からも影響を受けたかもしれませんね」

結局、(愛とは)何だかわからないから、祈るしかない


――1stアルバム『LSC』のリリースのタイミングの取材ではブリットポップにハマっていると仰っていて。もっとロックアンセム的なものが増えるかと思っていたのですが、90年代のオルナティヴロック的なサウンドが基調となってますね。BPMも早めで。ちょっとこれには驚きました。

「去年は確かにブリットポップにハマってたんですよ。でも今年の初めにニュー・オーダーとかハッピー・マンデーズがいいなって思って。『2017年は私的にマンチェスターブームが来る年かも。ちゃんと聴きなおさなきゃ』とか思ってたんです。アルバムのタイトルを『セカンド・サマー・オブ・ラヴ』とかにしたら2ndアルバムだし、マンチェっぽい曲ばっかりにしたら超カッコいいなぁぐらいまでハマってて。でも、なぜか結果的にはBPM速めの曲が並びましたね……(笑)。“FLY FLY FLY”は若干ニュー・オーダーっぽい感じはありますけど、それでも速い。レディオヘッドの“High and Dry”は、他3曲がアッパーだからしっとりめの感じの曲で落ち着かせてバランスを取ろうっていう感じで選びました」

――少し話は変わりますが、“ファミリア”に《愛は祈りかい/僕は祈りたい》っていう歌詞が出てきて。これがすごく印象的な歌詞で心に残ったんですが、ラブサマちゃんは、どこまで「愛」ってものを信じているんですか? 

「実は愛って言葉を歌詞の中で使ったのは初めてで結構ドギマギしてるんですけど。この歌詞は舞城王太郎さんの小説『好き好き大好き超愛してる。』の《愛は祈りだ。僕は祈る。》って書き出しに影響を受けてるんです。その小説を読むと書き出しの意味がすごくよくわかるんです。『愛って祈りなんだなぁ』って。でも、私には愛ってまだ敷居が高いものなんですよね。もちろん興味はあるんですけど。人とか物とか好意を抱いているものが少しのヒビで、もろくなってしまった後のやるせなさは『愛着』なのかなぁとか。さよならしたあとの切なさってなんなんだろうとか考える。愛って何だかわからないなぁとかブツブツ思いつつも、心は愛着ってものを知らず知らずのうちに勝手に学習してるんですよね。でも結局、何だかわからないから祈るしかない(笑)」

――ここまで色々訊いてきましたけど、結局のところラブリーサマーちゃんが音楽をやっていく上での「幸せ」とか目標は、どこに帰結すると思いますか?

「自分の曲を自分が作ったから好きと思うんじゃなくて、単純にいい曲だなぁって思える時があって。“青い瞬きの途中で”を作った時にその感覚を初めて覚えて。ラブリーサマーちゃんの外に私がいていいって思えているっていうか。その感覚に出会えた時に、すごく幸せを感じますね」

――最後に2017年8月25日(金)にShibuya WWW Xで行われる自主企画「ラブリーサマーソニック 2017」について伺いたいんですが。今年はなんで複数のアクトを招いたイベント形式なんでしょうか?

「宅録で音楽を作り始めたってことや、弾き語りでずっとライブをやっていたってこともあって、他の人と何かやるっていうよりもひとりでやることに慣れていたんですけど。2年ぐらい前からバンドでどうしてもライブをしたくなって、サポートメンバーをつけてライブをし始めたんです。そしたら人と何か一緒に作業をすることに対するアレルギー反応みたいなのがなくなっていって。好きな音楽が沢山あるってことは、好きな音楽をやっている人たちが沢山いるってことで、その人たちと一緒にライブをやってみたいとかって思うようになったんですよね。だから今回は私が好きな人たちに出てもらう企画にしたいな、と思って」

――ラブリーサマーちゃんのイベントでは恒例になってますけど、今回もラブマザさん(お母さん)は出演されるんでしょうか?

「出てもらいます!(笑) 。お母さんにWWW Xのステージに立ってもらいたいので。今年は食品衛生士の資格も取ったので、何か振舞ってくれるんじゃないかな(笑)」

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