約1ヶ月の期間の中で、東京の様々な場所で、日本の音楽カルチャーを多角的に楽しむフェス「RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017」。全部で14もの企画が用意されており、そのどれもが画期的で、これまでに体験したことのない興味深いものばかりだ。今まさにフェスの真っ最中なのだが、中でも、先日行われたばかりの「SOUND JUNCTION 渋谷音楽交差点」は、4組のアーティストがひとつの会場に集まりノンストップでパフォーマンスを繰り広げるという、先鋭的なライブイベントとなった。そして、フェスはいよいよ後半。この後も、レッドブルならではのエッジの立った企画がまだまだ続いていくのだが、今回は、このフェスを統括する「レッドブル・ミュージック・フェスティバル実行委員会」の広報に話を訊いた。このフェスが生まれた背景とは? そしてこれから控えているイベントについて語ってもらいながら、フェスティバルの深部に通底している哲学を探っていく。
インタビュー=杉浦美恵
世代やジャンルがバラバラでも、このフェスの下に集まればひとつにまとまる
──レッドブルには、もともとスポーツや音楽などのユースカルチャーと親和性が高いイメージがありますが、今回の音楽フェスはとても多角的で、これまでにない形のフェスティバルです。これが企画されたきっかけはどんなところにあったんですか?
「もともとは『レッドブル・ミュージック・アカデミー』というイベントがあって──イベントというよりも『旅する音楽学校』というふうに呼んでいるものなのですが、それがベルリンから始まったんです。ワークショップやレクチャーを合わせたような企画が、1ヶ月くらいの期間にいくつも行われるもので、2014年には東京でも行っています。だいたい30近くのイベントを都内のいろんな場所でやりました。なので、長い期間でイベントを行うということは、実はそれほど目新しいものではないんです。でも今回、日本の音楽だけにフォーカスしてやるのは初めてなので、そこは新たな試みでした」
──「RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017」の実行委員として、様々なイベントコンテンツを企画していったというわけですね。これほど大掛かりなフェスですから、かなり前から準備が必要だったのではないですか?
「そうですね。それはもう、はい(笑)」
──「日本の音楽に特化したもの」というコンセプトがあり、さらに今回はそこに、ダンスやゲーム、映画も取り込んでクロスオーバーさせた企画が多数あることにも興味を惹かれました。音楽にしても、ジャンルはコアなものからメジャーなものまで、本当に多岐にわたるというか。
「今回の実行委員会は、いろんなジャンルに特化した人たちの集団でもあるので、ディスカッションをしていくと自然とジャンルの幅は広く、深くなっていくんですよね。どこか特定のジャンルにだけアプローチしたいわけではないので。レッドブルの音楽イベントには、カッティングエッジな、どちらかというとアンダーグラウンドなものにスポットを当てる企画をイメージされる方が多いかもしれないので、今回の大規模なフェスは意外に思われるかもしれないんですが、どの企画でも、ただストレートにコンサートを見せたりするだけじゃなくて、捻りの効いた面白さやエッセンスは加えています」
──ジャンルもそうなんですが、ブッキングされているアーティストは、気鋭の若手ミュージシャンから、その道の大御所と呼ばれる方までが並んでいて、その組み合わせの面白さも目を引きます。
「そうですよね。実行委員会の人間が自ら言うのも何ですが、世代やジャンルがバラバラでも、このフェスの傘の下に集まれば、ひとつにちゃんとまとまるというか。すでに行われた『言霊 - KOTODAMA言霊歌詞展覧会』を観ていても思ったのですが、大貫妙子さん、小西康陽さん、LEO今井さん、マヒトゥ・ザ・ピーポーさんと、出演者はとにかくバラバラなんですけど、なぜか、バランス感覚や趣味嗜好で重なる部分があって──言葉で説明するのは難しいんですけどね(笑)。それは観せ方や演出の工夫によるところも大きいと思います」
──ただ単に別のジャンルの人を集めてみました、というだけではなく、そこに何かの必然性が見えてくるような企画にしなければ意味がないということですね。
「今回のこのフェスで、約150組すべてのアーティストを見るのは難しいかもしれないですけど、僕らの狙いとしては、例えば、水曜日のカンパネラが好きで『SOUND JUNCTION』に参加した人がまったく別のスタイルの音楽に反応したり、Ken Ishiiさん目当てで来た人が、これまであまり興味のなかったヒップホップに触れて好きになっていくとか、そういう企画の組み方を意識しています」
お互いに刺激を受けて成長していくことを大切にしている
──すでにフェスは始まっていて、スケジュールは後半に突入していますが、これから開催を控えている企画についてお訊きしたいと思います。後半もとても興味深いテーマの企画ばかりで、まず、11月11日の「LECTURE WITH DJ KRUSH @『NEWTOWN』 音楽持論展開特講」。これはどんなものになる予定ですか?
「DJ KRUSHさんの最新作って、初のラップアルバムで、ファンにとってはけっこう衝撃的だったんですよね。今はプランニング中なので、当日どうなるのか詳細はまだわからないんですけど、なぜこのタイミングで初のラップアルバムを作るに至ったのか、その思いを少人数で聞ける、レアな企画になるんじゃないかなあと思っています。レッドブルがオーガナイズするレクチャー企画って、上から音楽について教えるようなものではなくて、どちらかというと精神論を語ることのほうが多いんですよね」
──なるほど。今回のフェスには、こうした音楽談義やレクチャーイベントが複数あるのも特徴的で、こうした形式での企画を行う意図はどういうところにあるんでしょうか。
「音楽だけじゃなくて、様々なカルチャーやスポーツにも言えることだと思うんですけど、レッドブルのイベントは、すでに成熟したものに光を当てるのではなくて、これから注目すべきアスリートだったり、ミュージシャン、あるいはジャンルそのものを成長させていこうというプロジェクトが多いんですよね。なので、ワークショップやレクチャーにも力を入れていってるんだと思います」
──そこに参加する人たち自身が、次世代のシーンを盛り上げてく存在になるようにと?
「例えば、DJの世界大会を行ったりするプロジェクトがあって、複数評価項目からDJとして世界一を決める大会なんだけど、その前にはキャンプと呼ばれる時間を設けて、DJたちが集まっていろんな機材のことを学んだり、意見交換をしたり、世界中のDJが今何を考えているのか、レジェンド級のDJがどういう思いでプレイしているのかっていうワークショップの時間になっているんですよね。表に見えるエンターテイメントの部分だけじゃなく、そういう時間を常にセットで設けています」
──プレイする人たち自身も、ほかの人たちとの交流をきっかけに、違う世界を知ったり、新たな発見をして可能性を広げていくという、隠れたテーマが必ずあるわけですね。
「そうですね。お互いに刺激を受けて学んで成長していくということを大切にしています」
新しい発見や刺激を生む場所を常に作っていくのがレッドブルらしさ
──同じく11日には、「歌謡浪漫 - KAYOU ROMAN 歌謡浪漫限定宴会」という、これまたエッジの立ったイベントも開催されます。
「こちらは、みんなで冗談まじりに話していたことが現実になったという感じです。普段からよく日本語曲をプレイしている方を呼んでも面白くないなと思ったので、意外性のある方にお願いしました。まだプランニング中なのですが、MUROさんは和モノセットをプレイするとか。大沢伸一さんはご自身が今年日本語曲のアルバムを出したりしていますし、Licaxxxさんは、実際そうなるかは未定ですけど、男性アイドル縛りでいこうかとおっしゃっていたり、とても面白くなりそうです」
──そうやって、出演する方々とも、どんな内容にしていくのかを話し合って企画を作り上げていくんですね。実行委員会から一方的にオファーするだけでなく。
「そうなんです。いろんな人と話しながら決まっていく部分も多いです。もちろん、忙しい方だと直接お会いしてディスカッションするには至らない人もいますけど、なるべく対面で話す機会を設けるようにしています」
──こうして話をうかがっていると、フェスに参加するリスナーはもちろん、出演者の方たち、さらには、作っているスタッフ自身も、ジャンルの壁を超えた異文化に出会うことで、新たな自分を発見するというのが、この「RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017」のひとつの大きなテーマのように感じます。アーティスト自身も、自分ではやろうと思わなかったことに挑戦して、新たな可能性が広がるというか。
「今話していて、僕もそうだなと思ってました(笑)。たぶんそういうことですよね。リスナーが新しいジャンルに触れるということもそうですけど、今おっしゃっていただいたみたいに、出演する側も企画を作ってる側も、たぶんそうなんですよ。新しい発見や刺激を生む場所を常に作っていくっていうのが、きっとレッドブルらしいんだと思います」
──その異ジャンルのコラボ企画としてすごく驚いたのが、13日の「ENTER THE NOISE 騒音楽舞踏競奏」。ノイズミュージックの雄、MERZBOWと、パフォーマンスアート集団、ANTIBODIES Collctiveの共演がどんな化学反応を生むのか、楽しみにしている人も多いと思います。
「異色の組み合わせですが、その意外性だけじゃなくて、足を運んでくれた人たちがちゃんと共感できるものにしないといけないので、演出面にはすごく工夫をしています。2014年にも、ノイズのイベントをやったんですけど、その時はオールナイトでした。ノイズ音楽の中でも『オン』と『オフ』の音があって、イベントを二部構成にして、第一部では『オン』を体感してもらって、第二部は『オフ』モードのノイズの中で、朝までみんなで灰野敬二さんと一緒に寝るっていう(笑)。その時は、いかに寝やすい空間を作るかっていうことに知恵を絞りました。今回はどうなるのか、僕たちも楽しみにしています」
──その灰野敬二さんは、今回は15日の「ROUND ROBIN 一発本番即興演奏」に出演されますね。こちらの即興セッションも、名だたるミュージシャンたちが参加しますし、どんな音が生まれてくるのか、とてもスリリングです。「ENTER THE NOISE」が気になってる人の中には「ROUND ROBIN」にも足を運びたくなるという人が多そうですね。
「そうですね。今回、14個も企画がある中で、ひとつに足を運べば、もうひとつくらいは『これにも行きたい』というのが必ず見つかるはずです。一般的なフェスで言えば、通りがかりのステージでたまたま見かけて新しいアーティストを発見するみたいなイメージですね」
東京だけでなく全国でサテライト的にやりたい
──そしてフェスのラストには「DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭」という、ゲーム・ミュージックに特化した企画がラインナップされています。
「もともと『DIGGIN’ IN THE CARTS』というゲーム音楽のドキュメンタリーを2014年に日本発信で作ったんですが、世界的に大きな話題になったんですよね。ゲームはどうしてもプレイのことだけが語られがちですけど、そこにはすべて音楽がついていて、実際にその音楽を作っている人たちがいるわけで、それって一体誰なの?っていうところにフォーカスしたドキュメンタリーなんです。ゲーム音楽好きの人からしたら、『よくぞここに焦点を当ててくれた』っていう作品だったし、ただのBGMだと思っていた人からしたら、『まさかそんないろいろな人が関わってなんて』という発見でもあって。海外のテクノ系のアーティストも、クラブとかでダンス音楽と触れ合う前には、実はゲーム音楽で電子音に触れていたんだっていうところから始まって。それでゲーム音楽ばかりを集めたコンピレーションを制作して全世界でリリースすることにしたので、それを記念したライブツアーがロンドン、ロサンゼルス、東京で行われることになったんです。その東京公演が、この日のイベントという位置付けです」
──フェスのラストを飾るということもあって、熱い思いがこもっていそうですね。
「個人的な話になってしまいますが、僕自身、もともとテクノがすごく好きなんですけど、ゲーム音楽には正直そこまで詳しくなかったんです。どちらかというとチップチューンが苦手だったくらいで。でも、ローランドやAKAIの機材を使ってテクノミュージックを作る工程も、ゲーム音楽の8ビットとか16ビットの限られた中で、いかにいいメロディを作っていくかっていうのと同じ苦労だっていう話を聞いて、『ゲーム音楽もテクノなんだ』って意識するようになったんですよね」
──それこそ、「興味のなかった分野が実は自分の中でつながっていた」っていう発見で、今回のフェスのテーマともリンクする話ですね。
「そうですね。フェスを作っているほうにも、そういう面白さがあるので、素敵だなあと思います」
──今日いろいろお話をうかがって、フェスのコンセプトを明確に理解することができました。ありがとうございました。このフェスは、今後も毎年継続して行っていきますか?
「来年以降は、東京はもちろん、海外の都市でもフェスをやっていく予定です。このフェスの元祖にもなっている『レッドブル・ミュージック・アカデミー』は、もう20年くらい続いているイベントなので、『RED BULL MUSIC FESTIVAL』のほうも長く続けていけたらいいですね」
──日本では、東京以外の都市での開催は、今のところ考えていませんか?
「東京だけじゃなくて、大阪でもやろうとか、日本全国でサテライト的にやろうという企画も出ていたんですよ、最初は。でもそれではスタッフの体が持たないだろうということで、今回は東京だけになりました(笑)。だから、ゆくゆくは大阪をはじめとして、サテライトでの開催も可能性としてはあったらいいなと思っています」
「RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017」
「歌謡浪漫 - KAYOU ROMAN 歌謡浪漫限定宴会」日時:2017年11月11日(土)
時間:開場・開演23:30
場所:clubasia(渋谷)
料金:前売¥2,500
※20歳未満は入場不可。顔写真付き身分証必須
出演:MACKA-CHIN / MURO / Shinichi Osawa / DJ IKU / Licaxxx / 北澤フロアーサービス
https://www.redbull.com/jp-ja/kayou-roman
「ENTER THE NOISE 騒音楽舞踊競奏」
日時:2017年11月13日(月)
時間:開場19:00/開演19:30
場所:SuperDeluxe(六本木)
料金:前売¥3,000
出演:ANTIBODIES Collective / MERZBOW
https://www.redbull.com/jp-ja/enter-the-noise
「ROUND ROBIN 一発本番即興演奏」
日時:2017年11月15日(水)
時間:開場19:00/開演20:00
場所:shibuya duo MUSIC EXCHANGE(渋谷)
料金:前売¥2,500
出演:ASA-CHANG / SHOKO / starRo / TANCO / スガダイロー / 灰野敬二 / 菊地成孔 / 江﨑文武 / 高橋保行 / 小林うてな / 大竹重寿 / 波多野敦子 / 冨田ラボ / 有島コレスケ / 鈴木勲 / 蓮沼執太
書家:新谷沐歩
https://www.redbull.com/jp-ja/round-robin
「DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭」
日時:2017年11月17日(金)
時間:開場19:00/開演19:30
場所:LIQUIDROOM(恵比寿)
料金:前売¥3,500
※20歳未満は入場不可。顔写真付き身分証必須
出演:Kode9 x Koji Morimoto AV / Chip Tanaka / Ken Ishii Presents Neo-Tokyo Techno (’90's Techno Set) / OSAMU SATO Presents LSD REVAMPED(LIVE) & SPECIAL VJ:TEAM LSD(OSAMU SATO, KAZUHIRO GOSHIMA, ICHIRO TANIDA) / Quarta 330 / Yuzo Koshiro x Motohiro Kawashima / Konx-Om-Pax: Visual interpretation to Kode9 x Koji Morimoto AV and Yuzo Koshiro x Motohiro Kawashima live / Carpainter (Live Set / TREKKIE TRAX) / hally Presents HALLY COLLECTIVES (hally, Saitone, ヨナオケイシ, 細井聡司, 三宅優, 杉山圭一,Rolling Uchizawa)
https://www.redbull.com/jp-ja/diggin-in-the-carts-2017-22-08
※終了したイベントは割愛
提供:レッドブル・ミュージック・フェスティバル実行委員会
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部