その著者であるカザマタカフミ率いるバンドが、スリマこと3markets[ ]である。メンバーチェンジなど紆余曲折を経ながら現バンド名へ改名してからすでに10年余り。まさに「売れない」を地で行くバンド人生は、前述の書籍や“社会のゴミカザマタカフミ”のSNSでのバズを機に徐々に変化。昨秋にはついにメジャーデビューを果たすまでになった。
「売れない」からの脱却というパラドックスにも直面しつつあるこのタイミングで実施した、初登場となるこのインタビューでは、バンド人生の始まりからバンドや音楽そのものへのスタンス、その時々の心情なども明かしてもらいながら、メジャー1stアルバム『SUPER DUST BOX』への道のりを辿っていく。屈折しているように見えて、とんでもなくピュアな原動力を持ち続け、でもやっぱりどこか屈折しているようなカザマのパーソナルに迫った結果、話題はバンドマンとしての「引き際」にまで及んだのだった。
インタビュー=風間大洋 撮影=小杉歩
──遡ると、バンド人生の始まりはどんなものだったんですか?前よりは売れたなっていう実感が自分の中にはあって。そのぶんちょっと距離を置かれてるんじゃないか?って勝手に思う
中学生の時、お兄ちゃんがバンドをやるって言ってベースを始めたんですけど、めっちゃ田舎で友達もいないから「ベースやるなら俺がギターやるか」って親にねだったんです。それが2万円とかで、その頃の2万ってめっちゃデカいじゃないですか。それを払うならプロになるまで辞めないって言って、今までずっと続いてます(笑)。だから憧れとかよりも責任感というか呪いって感じで、有言実行しないとっていう気持ちですね。
──「プロ目指すから」って部活で高い道具一式買ってもらった子みたいな。
そうそう。でも部活って終わるじゃないですか。バンドは誰も辞めろって言わないから辞めれない、みたいな。それでここまで来ちゃった。
──じゃあ、音楽とか存在的にこの人に憧れたとかは?
本当にないんですよ。B'zがめっちゃ好きでファンクラブに入ってたけど音楽性にはあんまり反映してないし、もちろん「これが好き」っていうのは時代時代ではありますけど、ものすごい憧れっていうのは音楽に関してはあんまりなくて。バンドを組んだ当時はBUMP OF CHICKENが好きだったから下北でライブをしたかったんですけど、オーディションとか落ちまくって。下北でライブできたら辞めようって言ってたけど、できるようになったらまた先の目標ができてっていうふうにやってたら今、みたいな。だから本当にその都度っていう感じで生きてますね。
──スリマやカザマさんを著書『売れないバンドマン』から知った人も多いと思うんですけど、バンドマンってそもそも売れてない人が大半なわけで。
そうですね。
──だからここで言う「売れない」って単純に人気や金銭面だけじゃなくて、くすぶっているけど諦めてない人っていうニュアンスも含んでると解釈していて。
なるほど。確かに諦めてないっていうのはあるかもしれないですね。
──その「売れない」ルートに自分が入ってるぞって自覚したタイミングはあったんですか。
やっぱり下北でオーディションに落ちてたタイミングですね。売れるためにそれなりに頑張ったんですよ。ビラやCD配ったりお客さんにメールするとか。いろいろやっても売り上げには結びつかないし、メンバーも辞めていったりとか。これが世に言うバンドマンだなっていう感じ。
──周りにもそういうバンドマンはたくさんいた中で、カザマさんはそこを概念ごと背負った部分もありません?
いやいや、そんな責任感はちょっと持ちたくない(笑)。
──あくまで世間から見たイメージとしての話として。売れない役者でもいいんですけど、彼氏にすると大変な人たちというか、そこの象徴やアイコン的な存在になってる気がする。
つまり売れたらみんなに「裏切り者!」って怒られるってことですかね? 最近そこは怖くて。メジャーデビューしたから、前よりは売れたなっていう実感が自分の中にはあって。そのぶんちょっと距離を置かれてるんじゃないか?って勝手に思うことはあります。
──売れないことが武器になってたというか。バンドって基本は応援する側だろっていうスタンスでいるから、売れないことがアイデンティティにはならないように気をつけてます
そう。それで応援してた人もいるかもしれないし。でも、バンドって基本は応援する側だろっていうスタンスでいるから、売れないことがアイデンティティにはならないように気をつけてます。本を出しておいてなんですけど、同情はされたくないっていう感覚が近いんですかね。
──意識としてはあくまで自分の現状を綴っているだけ。
そうそう。売れたら「売れたぜ」って言っていくスタイル。そのまま生きていこうかなっていう。
──じゃあいつかは『売れたバンドマン』っていう……。
っていう本を出して。誰が買うんだっていう感じですけどね(笑)。
──でも、そうやって自分の人生模様や考えてることを見せちゃうことに、抵抗ってなかったんですか。
逆に、自分のことじゃないことを書くほうに抵抗があるんですよね。歌詞もそうで、歌っている時に『あれ、嘘じゃん』みたいになっちゃう感覚があって。だから面白いことがないと曲もできなくなっちゃうんで困るんです。昔はそれを自分だけに伝わるように書こうとしていたんですけど、最近は自分だけじゃダメだろうというふうになってきて、中学生でもわかるように意識したり。でも、誰に届けたいのか?とかはあんまり考えてないのかもしれない。
──それが結果として10代20代を中心に刺さってるわけですけど、ベースにある「ダメな自分」がバンドマンに限らない普遍的な心情として、思い当たる節のある人に刺さってるんじゃないかなと。
そう考えると日本が心配ですね。若い人たちがそんな、ね? 自分がダメだなんて思ってるってことですもんね。もっと元気が出るように書かないといけないのかも。
──一方、サウンド面についてはどういう意識で作っているんですか。
サウンド面は絶対に流行り廃りが歌詞よりもあるから、いろんなものを聴いて考えたりはします。その時々で「これいいな」と思ったものを少しずつ取り入れながらやっていて。
──そこで言うと今はどんなものが刺さってるんですか。
ちょっと前はK-POPを聴いて作りました。ILLITがめっちゃいいなと思って。本当、K-POPは聴きやすいし……聴きやすさが最近の流行りとしてあるなと思います。ただ、なかなかバンドだとそうはならないっていう難しさは感じたし、サウンド面はもっと突き詰められるところがたくさんあるかも。