クアイフ メジャーデビューが彼らにもたらした気づき、そして最新作『愛を教えてくれた君へ』を語る

クアイフ メジャーデビューが彼らにもたらした気づき、そして最新作『愛を教えてくれた君へ』を語る

ポップミュージックとしてちゃんと届くような表現ができるバンドがしたい(内田)


――昨年12月に地元・名古屋のワンマンライブでメジャーデビューを発表してから、今回のデビューシングル発売まで1年弱あったわけですが。その間、「満を持して」の状態に持っていくために曲を練り続けていた感じですか?

内田旭彦(Ba・Cho・Prog) そうですね。ずっと曲を作ってて――100曲ぐらい作ってたかな? 

――100曲! とてつもない「作曲千本ノック」状態ですね。

内田 メジャーデビューっていうタイミングって、たぶん人生に一度しかないと思うんで。ちゃんと自分の腑に落ちた形で出したいと思っていたので……でも、やっていく中でどんどん、方向性というか、自分たちのやるべきことが見えてきた感じはあったから。単なる「ずっと作ってた期間」じゃなくて、必要な期間だった――と今は思います。

――今回の表題曲“愛を教えてくれた君へ”は、アニメ『いぬやしき』のエンディングテーマ書き下ろし曲ですが。番組サイドからのオーダーは何かあったんですか?

内田 『いぬやしき』っていうアニメが結構、激動のストーリーなので。「エンディングで癒しになるものがいい」っていうぐらいの、ざっくりしたお話はいただきました。『いぬやしき』の原作を、アニメを観る前から読んでいて――SF漫画になると思うんですけど、最終話を読み終えた時に思ったのは、作品として伝えたいことって、誰の日常にでもあり得ることで。「大切な人を大事にしたい」とか「自分の生き甲斐を探してる」とか……「自分が守りたいものだけ守ればいい」っていう気持ちも、僕らの中にはたぶんあると思うし。SFだけど伝えてるメッセージは日常的、っていうのが、すごく作品として素敵な形だなと思って。だからこの曲も――今回は「死」っていう、人が生きる/死ぬっていう大きなテーマで。昔もそういう曲を作ったことはあったんですけど、それをどう日常生活に落としていくか、みたいなところは、絶対にマストでクリアしないといけないと思ってましたね。

――生と死っていう切実なテーマを追求するのは大事だけど、聴く人の手の届かないところで空中戦をやっても仕方がないっていう……それはそのまま、今のクアイフの演奏面でのモードと直結してると思うんですよ。演奏技術的には、いくらでもアクロバチックな空中戦もできるけど――。

3人 (笑)。

――そっちの腕を磨くよりも、今は「ポップミュージックとして、自分たちの音楽をどこまで届けられるか」っていうところに意識が向いているのがよくわかりますね。

内田 去年の冬に『snow traveler』っていうシングルを出して、その前に『Life is Wonderful』っていうアルバムを出して、その辺からバンドのモードが結構変わってきたなっていうのがあって。その流れの中でメジャーデビューが決定して。「自分たちをどう出すか」っていうところで――1曲1曲の細かい部分をどうするかっていうのももちろん悩むんですけど、「自分たちはどうあるべきだろう?」っていう大きなところで悩んでたところもあって。『snow traveler』を出したあたりから、「ポップスとして完成度が高くて、ポップミュージックとしてちゃんと届くような表現ができるバンドがしたい」と思っていたのを、より突き詰めていた時間だったというか。

わかる人がわかってくれればいいじゃんって、自然と変わっていった(森)


――もともとメロコア〜ラウド系を得意とする幸宏さんだけに、“愛を教えてくれた君へ”のゆったりしたドラムは逆に難しかったんじゃないですか?

三輪幸宏(Dr) ……難しかったです。

――めちゃめちゃ溜めて言いましたね(笑)。

三輪 音作りも大変だったし。スネアドラムをレコーディングの日に10台ぐらい持ち込んで、その中から選んでっていう。

森彩乃(Vo・Key) すごかったもんね? ズラーッと並んでて。

三輪 テンション上がりました(笑)。レコーディングのエンジニアさんにも言われました、「なかなかこんなに持ってくる奴はいない」って(笑)。フレーズがシンプルなので、どっちにも行けるような音を現場で選択できるように、たくさん持って行こう!って。何より、レコーディングにめちゃめちゃ時間がかかりましたね。

森 シンプルなものこそ、っていうことですよね。今までは――「技巧派」じゃないですけど、それこそ『organism』の頃とかは「音楽好きに『うおーっ!』って思われたい」っていう時期だったし。それはそれで自分たちでも好きなんですけど、アニメのタイアップとなると、全然バンドとか音楽に詳しくない人も聴くわけじゃないですか。そういう時に「いいな」と思われるのって、「サビのメロディいいな」とか「歌詞に共感する」とか、そういうところだと思って。でも、わかる人が聴いてくださると「あ、でもクアイフ節が出てるね」みたいな(笑)、「シンプルなんだけどオケに深みがあるね」って、わかる人がわかってくれればいいじゃんっていうふうに、どんどん自然と変わっていきましたね。

内田 たとえば曲作りも、今まではアレンジとかで自分たちの色を出そうとしてたところがあって。でも、今回はまずソングライティングのところでどこまで基盤を作れるか、っていうところがすごく大事だなと思って。コード使いとか、メロディの置き方とか――そういう部分を「綿密に突き詰める」っていうやり方で、この曲も作っているので。音楽人としての情熱を、ソングライティングの部分で注ぎ込めてる感じは、自分でもありますね。

――なるほどね。

内田 『organism』の時とかは、平たく言うと、「自分たちが好きなものってこういうものじゃん」っていうものだったと思うんですけど。自分たちの中にあるものって、いろんなことに影響されやすいんですよね。今聴いてる音楽とか、好きな流行りとか……自分の中にある「自分らしさ」って、案外「自分らしさ」じゃない、っていうことに気づいたんですよね、その千本ノックの時に。で、「じゃあ自分たちがどうあるべきか」っていう姿って、自分の周りにいる人たちだったり、外の世界の中にある気がして。周りが自分たちに求めてることは、自分たちの姿でもある、っていうことに気づいたというか。だから、曲も自分たちの主観がメインになってたところが、客観の部分が強くなってきてて、だけど主観の部分がちゃんとあるっていう。作り出す音楽と自分たちとの距離感がだいぶ変わったのが、この1年だったと思いますね。

――レア素材を組み合わせないと美味しくならないレシピより、誰でも買える食材で、でもクアイフにしか作れない究極のレシピを目指したんだなあ、っていう作品になってますよね。

内田 たとえばくるりとかって、岸田さんと佐藤さんとファンファンさんがメンバーで、ライブになるとバックバンドとしてたくさんの方が参加してるじゃないですか。でも、くるりじゃないですか。ひとりひとりのカラーもしっかり感じられるし、くるりの曲としても感じられるし。僕らも、もちろんこのメンバー3人が中心にいるんだけど、どんどん広げていっても「これクアイフじゃん」って言えるような、そういう形が素敵だなあって。ポップミュージックのてっぺん目指す上でなりたい形っていうか。YMOも、3人以外にサポートメンバーをつけて演奏してますけど、でもそれはYMOっていうか。そうありたいっていうか、僕らならそうなれる、っていう気がしているから、この道に来たっていう感じですね。

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