Maison book girlの最新シングル『cotoeri』に収録されている“言選り”には、斬新極まりない手法が導入されている。なんと、プロデューサーのサクライケンタが過去6年間で手掛けた歌詞をAI(人工知能)が深層学習(ディープラーニング)。そこから提示された言葉と向き合いながら作詞を行ったのだという。Maison book girl結成前の作品も学習し、『cotoeri』と名付けられたAIとの共同作業は、このユニットの過去、現在、未来を示唆するかのような世界を浮かび上がらせている。変拍子や意表を突く展開など、現代音楽にも通ずるエッセンスを添加しつつ、抜群にキャッチーであるという「ニューエイジ・ポップ」の素敵な衝撃も美しく結晶化している今作について、メンバーたちが語ってくれた。
インタビュー=田中大
曲を重ねていくごとに、表現しようとしていることがわかってくる(井上)
――“言選り”の歌詞は、サクライさんとAIの『cotoeri』との共作なんですね。
コショージメグミ そうなんです。サクライさんは、前からそのアイディアを考えていたみたいなんですけど、MVの撮影当日まで私たちには内緒にしていました。
――みなさんのびっくりする顔を見たかったんじゃないですか?
コショージ そんなにびっくりしなかったよね?
和田輪 うん。あんまりいいリアクションができなかった。
井上唯 私たちは「ああ、そうなんですね」という感じでした(笑)。
矢川葵 今までのブクガの歌詞も具体的なものではなかったから、違和感はなかったんです。でも、言われてみれば、「なるほど、そういうことか」と。これまでの曲の歌詞は、前後が何となく繋がっていたので覚えられていたんですけど、今回のは繋がっていないところがあるんですよね。1番と2番を逆にして歌っちゃうかも(笑)。約6年分のサクライさんの歌詞をAIが学習したみたいです。
――“言選り”の歌詞には、ブクガの曲によく出てきていた《時計台》《白》《青いカーテン》《神社》といった言葉が、散りばめられていますね。これまでのサクライさんは、ご自身の心象風景の中にある様々な要素をチョイスして、それらを組み合わせて作詞をしてきたんだと僕は想像しているんです。それって、学習した言葉の中からチョイスして再構築するAIの作詞のプロセスと重なる部分もあるのかなと思うんですよ。
井上 そうなのかもしれないですね。だから私たちも“言選り”の歌詞に違和感がなかったんだと思います。
コショージ おっしゃる通り、今までのいろいろな歌詞に関しても、似ている言葉や表現が出てきていましたからね。でも、“言選り”に関してサクライさんは、「今までとこれからの分岐点」ということを言っていますし、今までの曲以上にハッキリしたテーマがあるようにも感じています。
――『cotoeri』から出てきた言葉や、そこから見えてきたなんとなくの作風や世界が、ブクガの「今まで」ということでは?
和田 はい。それが、過去との対話っていうことなんだと思います。
――サビは『cotoeri』との作業を経てサクライさんが書いたそうですから、それが過去との対話が示唆したブクガのこれからなのかも。
コショージ なるほど。そういう解釈もありですね。
――“言選り”のラストに鍵の落ちるような金属音が聴こえますけど、それが前作の“rooms”のMVの中で葵さんが誰かから奪う鍵のイメージと繋がったり、「開きたい扉の鍵穴を探している」的な解釈もできる曲なのかなと想像したりもしました。まあ、僕の勝手な解釈ですけど。
井上 いい着眼点です(笑)。次のワンマンライブとか、“言選り”のMVとかも観て頂ければ、さらに見えてくるものがあると思います。私たちも曲を重ねていくごとに、少しずつ表現しようとしていることがわかってくるような感覚があるんですよね。
和田 どの曲も具体的に何があったのかを示す歌詞ではないので、1曲1曲のぼんやりしたイメージが重なって、濃い核が見えてくるような感じが私もしています。
分かりやすさも形にできたのが今回のシングルだと思う(コショージ)
――サクライさんは相変わらず曲に関しての具体的なことは説明しないですか?
和田 しないです。この前、聞けそうなチャンスがあったんですけど、私たちの前では教えてくれなかったんですよ。あえてそうしているみたいです。MVの監督さんには、いろいろ話しているみたいなんですけど。
井上 話をしている部屋に入れなかったですから。「私たち、いないほうがいいですよね……」と(笑)。
コショージ 歌詞の意味を理解するというより、歌詞にこもっている感情を理解することはできるので、私たちはそういうことを考えて歌っています。
――ダンスが加わることによって見えてくる感情もあるでしょうね。
コショージ はい。“言選り”に関しては「過去、現在、未来」を意識しているっていうことをミキティー(振り付けを手掛けているミキティー本物)が言っていました。
矢川 難しそうに見えないけど、実は難しいっていうのがちょくちょくあるダンスなんですよ。
――感情表現やダンスとか、いろんな面が急成長しているのをお客さんも感じていると思いますけど、サクライさんは褒めてくれます?
和田 褒めてくれる……かなあ?(笑)。コショージと葵ちゃんが今回の曲のことをラジオで「一番いい曲です!」と言っていたという話を、サクライさんはどこかで聞いたらしいんですけど、「俺には直接言ってくれないのに……」と。それに対して私たちは、「サクライさんも、あんまり褒めてくれないじゃないですか!」って思いました(笑)。
――(笑)。“言選り”の中にも、ブクガの表現の進化が表れていますね。例えば、《触れた季節 窓と美しい嘘》の《嘘》のハモりも、今までにやっていなかった手法じゃないですか。
和田 あれは初めての試みです。
矢川 サクライさんの仮歌で聴いた時に、「ここ、かっこいい。歌えたらいいなあ」って思ったんですけど、歌割りを教えてもらったら、和田ちゃんだったんですよ。でも、サクライさんも私と和田ちゃん、どっちに歌ってもらうか悩んだらしいんです。私が「いいなあ! いいなあ! 歌いたい」ってわがままを言ったら、「じゃあ、ハモる?」っていうことになりました(笑)。
和田 一瞬、葵ちゃんが歌うことになりそうになったから、「私、そこ歌うことになって嬉しかったんですけど」と(笑)。その結果、ふたりで歌うことになりました。あと、この曲はファルセットも入っているんですけど、それも私たちがボイトレを頑張ってきたからなのかなと思っています。
――サクライさんが作る曲は間違いなくかっこいいですし、そこにみなさんの成長が加わっている今、ブクガはさらに広い場所へと飛び出すべき時期に差し掛かっているんじゃないでしょうか?
コショージ 広いところに飛び出したいですね。今年、「TIF(TOKYO IDOL FESTIVAL)」に私たちが出ている時に、サクライさんがロッキン(ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017)に出ていたんですよ。私は「TIF」でいろんなアイドルさんを観て、サクライさんはロッキンでいろんなバンドさんを観たみたいです。たまたまその日の夜中に連絡をした時、『今日、いろいろ観て思ったんですけど、もっとわかりやすさがないと駄目だと思うんです』と私が言ったら、サクライさんは『俺も、ちょうどそれを思ってた』と(笑)。それでできたのが、今回の2曲目の“十六歳”なんだと思います。今までやってきたことも良かったと思っているんですけど、世間とのズレみたいなのもあると少し理解し始めています。今までやってきた流れの“言選り”もありつつ、“十六歳”でわかりやすさも形にできたのが、今回のシングルなのかなと思っています。
矢川 最近、「バンドでブクガをコピーするんですよ」っていうお客さんもいて、「変拍子の独特な感じが好きで、ブクガのことをまだ知らない人に、この不思議な感じを味わってほしいと思ってます」と言っていました。いろんな部分に興味を持ってもらえて、聴いて頂けたら嬉しいです。