“Sally”は幅を広げるという意味で今後に繋がる(斉本)
――恋愛といえば、ここのところ恋愛ソングが続いていましたが、1曲目の「鯉、鳴く」はそうではないですよね。
斉本 そうですね。前作の“解剖傑作”がある女性との終わりの歌だったので、自分の中では節目を迎えていて。それで「さあ何を書こう」って思った時にこの曲を書こうと思ったっていう感じですね。きっかけはふたつあるんですけど。ひとつが、僕自身小学校の時にいじめに遭っていたということ。もうひとつが、中学時代に地元の高校生が公園で自殺をしたことで。全然知らない人なんですけど、その高校生が何で死んだんだろうって考えた時に「変なヤツはいなくならなきゃいけないんだ」って自分なりに解釈したというか。中学生にとっての社会って小っちゃいので、「いじめられていた僕は次に死なないといけないのか」みたいなことを考えちゃったんですよね。
――例えば昨今におけるSNSとワイドショーの関係とか、もっと広い意味での社会問題の曲にも聞こえますけど。
斉本 そうなんですよ。いじめに限定しているわけではないです。よくあることっていうか、人が10人いたら起こるであろうことを書きました。
――重いなテーマですけど、これを受け取った時にみなさんはどう感じたんですか?
はっこー (斉本は)普段ツアーの車の中でも、今まで感じたすべてのことを話してくれるんですよ。それで今回も恋愛じゃない曲になるっていう話や「こういうフレーズを使いたい」みたいなことは聞いていたので、それをどこから拾ってくるかっていうだけの作業だった感じですね。
井深 僕はこの歌詞を貰った時に、自分の思っているところと重なる歌詞だなと思って。僕自身も別にいじめられっ子ではなかったですし、友達と楽しくワイワイやっていたんですけど、一時期、一瞬のミスで、ポツンとひとりになったことがあったんですよ。それから客観的に人を見るようになって。その時に感じたことがこの歌詞に詰まっているなあっていう感じがしたので。そういう意味で「この歌を歌うの楽しみだな」っていう気持ちが大きかったです。
――で、すでにMVが公開されているのは2曲目“Sally”の方で、この曲はリード曲にはなりませんでした。
斉本 2曲できあがって「どっちにする?」ってなった時に、自分たちとしては結構究極の選択だったんですけど、僕らの思う「今お客さんが聴きたい」っていう曲が“鯉、鳴く”で、この曲に救われる人も世の中にひとりかふたりはいるかもしれないと思ったんですけど、今後に繋がっていくのが“Sally”だなと思ったんですよ。
――どういうところに対してそう思いました?
斉本 「幅を広げる」っていう意味で、ですかね。今までのリード曲にはないメロディラインだし、クラップとかバンドサウンドじゃない音が分かりやすく入っていたり、いつもだったら普通にエイトビートを叩いちゃうところを違うリズムにしたり……。
ワタさん “鯉、鳴く”は結構今まで通りのメロディだったので、コードも素直につけたんですけど、そのままアレンジしちゃうとこれまでと同じになっちゃうなって思って、引っかかるようなポイントをつけていくようなイメージだったんですね。でも“Sally”はまずメロディラインをもらった時に今までと違うコード進行の方が合うなと思って。「このコード進行でどういうアレンジをしたらバンドハラスメントらしくなるか」っていう部分を考えながら作ったので、そこが面白かったです。だから2曲で逆のことをしたんですよ。年末に話し合いをしてバンドの向いている方向が変わっていったことが、そこに反映されているんじゃないかと。
――“Sally”で迷いが晴れたことが影響しているのか、“モノ”がかなり踏み切ったアプローチで。物語調の歌詞展開も、エレピが引っ張るループミュージック的なサウンドも、今までのどの曲にもなかったものなので、ボーカルもかなり苦労したんじゃないですか。
井深 そうですね。こういう曲は僕らにとっても初めてで。僕のイメージとしては、画面画面で切り取って時系列で進んでいく感じがしたので、なるべく感情をこめないようにして。物語が淡々と進む中で「ここは感情こめたいな」って思ったところにちょくちょく入れていく、ぐらいの歌い方をしました。
斉本 実はボーカルをRECしたうえに楽器の音をつけていくっていうやり方を初めてした曲なんですけど、結構スムーズに進みましたね。「ここはこういうふうにしていきたい」みたいなイメージは頭の中にあったので、それをみんなで固めていく作業でした。
――どういう経緯でこういうサウンドに固まっていったんですか?
斉本 曲の構成上どうしてもループになるしかなかったので、そうしようっていうことは最初に話し合って決めていたんですけど、そうやって音をつけていく作業の中でワタくんがエレピを持ってきて。
ワタさん これ、ボーカルをRECした時はエレキのクリーンで、ほぼアコギみたいな感じでやっていたんですよ。エレピの音はそれにわりと感覚が近いものがあって。音も結構いじったんですけど、この音でやるのが一番馴染んだので、じゃあこれでいこうかっていうふうになりました。
統一感はないが、いい緊張感を持てている(井深)
――4曲目のライブ音源(“サヨナラをした僕等は2度と逢えないから”)含め、バンドの足掻いてきた跡やその果てで掴み取った光が分かりやすく反映されていて。
はっこー このEPを作る時、実は最初はシングルにしようかっていう話もあったんですよ。でもEPという選択をしたことによって新しい挑戦もできて、トゲができたというか、それによって全体がまとまったのかなって僕は思っていて。
井深 全体としていい感じの緊張感を持てているので、統一感はないっちゃないんですけど、EPとしてまとまって聞こえてくる感じはしていて。なので、このEPを2018年一発目に出せることは自分たちとしてもいいことかなと。これからの作品にも繋がっていきそうだなと思っています。
――「周りのバンドと比べて俺らは……」とか「お客さんからこういう需要がありそうだから」とか、そういうことを度外視したうえでバンド自身を見つめることができたからこそ、こういう作品を生み出せたのかなと思いました。
斉本 あんまり外には見せないんですけど、自分たち、結構毎日のように考えていたんですよ、そういうことを。
――まあバンドハラスメントっていうバンド名の時点で戦略めいたものがチラ見えしてますけどね。
斉本 ははは。でもあんまり気にしすぎもよくないんだろうなって思うようになったというか。これからは、周りと比べるんじゃなくて、自分たちがいいなって思ったものを聴いてもらう方法を考えていきたいです。まあ自分たちで考えながら動くっていうことはずっと変わりないんですけどね。