1stフルアルバム『Musical』は、ココロオークションの表現力が一層深まったことを示している作品だ。各曲の世界を的確に捉えたサウンドを構築し、美しい物語を温かい歌声によって現出させる今作は、このバンドが記した力強い一歩だと言っていいだろう。そして、作風の幅を広げていると同時に、彼らの音楽の軸である「歌」に真正面から向き合っているのが興味深い。メンバーたちはどのようなことを考えながら、このアルバムの制作を進めたのか? 粟子真行(Vo・G)、テンメイ(G)、大野裕司(B)、井川聡(Dr)に語ってもらった。
インタビュー=田中大
ただ歌うだけじゃなくて、歌う先にある景色を見ながら表現した(粟子)
――どんなフルアルバムになったと感じています?
大野 メジャーに来てから3枚のミニアルバムを作る中で「聴いてほしいココロオークションの形」みたいなのが見えてきたんです。それを注ぎ込んだのが、これですね。やっぱりココロオークションの根本にあるのは詞、メロディ、声。そこを大事にしつつ、背景となるサウンドで景色とか風景をちゃんと表現したいと思ってました。
粟子 今回のタイトルは『Musical』ですけど、そういうテーマみたいなものは、作りながら見えてきました。『Musical』って舞台とかのミュージカルではなくて、「音楽的に」「音楽的な」という意味でつけてます。「より音楽的にみなさんに届けるには、どうしたらいいんだろう?」っていうことを突き詰めて作った1枚ですね。
――「音楽的に」とか「音楽的な」とは、言葉にするならばどういうことだと思います?
粟子 譜面では表せない雰囲気も表現することなのかなと思います。「気持ちをこめる」って言うとシンプルに言い過ぎてる感じですけど、ただ歌うだけじゃなくて、歌う先にある景色を見ながら表現するということも含めてですね。
――楽器のプレイ面でも変化はありました?
井川 ありました。今までだったら「どんな風にノリを出したらいいかな?」って悩んだりしてたんですけど、今回は今までの蓄積があったおかげなのか、「だったらこれを使おう」とか明確にビジョンを描くことができたんです。
テンメイ 僕のギターに関しても、1曲1曲に対する向き合い方が変化したのを感じてます。今まではデモを聴きつつ自然に作ってく感じだったんですけど、今回はデモの段階からいろんな音色が入ってて、世界観が明確に示されてたので、「これをちゃんと理解して、どこまで弾くことができるんだろう?」っていうのをすごく考えました。曲に対して向き合う時間が増えたっていうことだと思います。
大野 デモを作りながら僕が抱いてたイメージが、ちゃんとみんなに伝わってたっていうだけじゃない気がしてます。それぞれが、すごく良い解釈をしてくれたんですよね。だからこそ、「僕が気に入ってる」だけじゃなくて、「普遍的である」ものにもなったし、「音楽的である」ことにも繋がったんだと思ってます。
ギターロックバンドと呼ばれる音楽は、リズムに対する敬意が足りない(大野)
――メンバーそれぞれが成長できた理由って何だと思います?
大野 僕ら、よう練習するっていうのが大きいのかもしれないです。
テンメイ それは大きいと思う(笑)。
大野 貸しスタジオに入ってバンド練習をする回数が、活動初期から変わらないどころか、むしろ増えてきてるんです。そういう中でそれぞれに見つけた課題と向き合い続けて、花開いてきた部分があるのかもしれないです。
粟子 僕の歌に関しても、いろいろ考えることが増えましたからね。「歌」って「自分に向き合うこと」なんです。昔の自分の歌を聴くと「まだ自分の弱さを認められてないな」って感じます。「今だったらこういうふうには歌わないな」と感じるので、成長してるんだと思います。
――歌い手として成長できたきっかけって、何かありました?
粟子 大きかったのは、メンバーからの指摘です。「その歌い方だと伝わらんと思うで」と言われたことで、僕が今まで「これでいい」と思ってたことが、そうではないって気づくことができたんです。
大野 ココロオークションのメンバーは、抜群にみんな優しいんで、いろいろ指摘し合うことができてるんです。いろいろ言ってもみんな受け入れてくれるんですよ。殴り合いをして絆が深まるバンドもいるんでしょうけど、ココロオークションは思いをぶつけ合って、「許されてたんだな」って気づいて絆が深まるタイプのバンドなんです。
粟子 ココロオークションは気づいて伸びるバンド?
大野 その通り! みんなの慈愛を感じ合って伸びるバンドです(笑)。『Musical』は、そういう中から生まれたアルバムなんだと思います。
――このアルバム、サウンド面の進化もすごく表れていますね。シンセサイザーをより活かすようになって、クラブミュージック的な要素も香るようになっているのを感じました。
大野 「なぜ、こういう方向になったのか?」っていうことに関しては、はっきりした理由を示すのは難しいんです。でも、ひとつ言えるのは「EDMとか、クラブミュージックはリズムに敬意があるから」ということなんだと思います。
――それって、さらに具体的に説明するならば、どういうことなんでしょう?
大野 ギターロックバンドと呼ばれる音楽は、リズムに対する敬意が足りない感じがすることがあるんですよね。「じゃあギターロックバンドとしてココロオークションはどうするの?」って考えた時に、伝統的なギターロックのリズム、今流行ってるリズム以外のところにも目を向けて、ジャンルとかいうことではなくて、ひとつの音楽として何かを採り入れることが必要なんじゃないかと。
――例えば“musical”は、まさにそういう部分が出ている曲ですね?
大野 はい。この曲は、なんでできたのかあんまよくわかってないんですけど(笑)。でも、「ギターロックバンドである」というところには、プライドを持って生まれた曲でもあります。エモーショナルなものの源はテンメイが弾くギターであってほしいし、のっかるリズムはさっちゃん(井川)が叩くドラムであってほしいし、メロディは粟子さんの歌じゃないと意味がないっていうのが、ココロオークションの根本にはあるんです。そうやっていろんな曲を作る中で、「何をしてもココロオークションになる」っていうのを今回、感じました。なぜなら、僕らは「バンドである」っていうところからは、何をやったとしても精神的には外れないからです。「何をやっても大丈夫」って思えるようになってます。
――だからこそ“musical”にも思いきった手法を導入できたんですね。
大野 そうだと思います。これ、8分半くらいありますからね。本当は、もっと長かったんです。こういう曲を形にできるのは、フルアルバムならではだなと思ってます。