ナノ、和と洋の融合が生み出した新作『ウツシヨノユメ』インタビュー


自分の中にあるアメリカンな部分と日本的なもののバランスをとるのが難しかったんですけど、最近はいい感じで半々に出せるようになってきているんです


――“ウツシヨノユメ”は、とても新鮮なテイストの曲ですね。

「ありがとうございます。『かくりよの宿飯』は既に放送がされていて、ストーリーと世界観がしっかり出来上がっているんです。そこを踏まえたことによって、こういう曲になりました。人間にとって未知の世界、普段は触れることのない場所みたいな、想像力がふくらむものにしたかったんです」

――尺八や三味線とか、和楽器を使っているのが斬新ですね。ナノさんはアメリカで生まれ育ったわけですけど、和楽器に触れる機会ってありました?

「まったくなかったです。家族が尺八を入手して家で吹こうとして、全然音が出なかったことはありましたけど。あと、アメリカでもたまにアジアンフェスティバルみたいなものがあって、ステージで和太鼓を叩いたり、民謡とかを演奏するのを観たことはあったので、興味は持っていました」

――和楽器って、例えば西洋のオーケストラで使われるような楽器とは、かなり異なる音色ですよね。

「そうですね。例えば尺八も竹やぶで聞こえてくる音みたいなイメージですし、あのちょっとかすれたような音色は、フルートとは違いますよね」

――“ウツシヨノユメ”は、チェロが入っているのも印象的です。独得な効果を生んでいると思います。

「もともと自分はチェロが大好きで、今年の5月にフルオーケストラとのコンサートをした時も、『チェロのソロを入れていただきたいです』というお願いをしたんです。チェロって西洋の楽器ですけど、どこか和っぽいところがある気がするんですよ。だから“ウツシヨノユメ”にも合うんじゃないかなと。そういう点でも、この曲は、いいバランスの洋と和の融合になったんじゃないかなと思っています」

――ナノさんは最近、海外でライブをやる機会も増えていますし、“ウツシヨノユメ”を歌ったら、すごく反応があるんじゃないでしょうか。

「海外で歌いたいということも作りながら思っていました。今までは自分のアメリカンなルーツが前に出ることが多かったので、こういう部分も感じてもらえたら嬉しいです。自分の中にあるアメリカンな部分と日本的なもののバランスをとるのが難しかったんですけど、最近はいい感じで半々に出せるようになってきているんです」

――アメリカで生まれ育ったナノさんの視点から感じた『かくりよの宿飯』の魅力も、この曲に反映されているんじゃないでしょうか。

「そうかもしれないですね。自分は日本の昔話に出てくる鬼とかにもともとあまり馴染みがなかったので、そこがまず新鮮でした。あと、食事がいっぱい出てくる作品ですから、和食とか和服にも魅力を感じています」

――欧米のモンスターを題材にした作品とは、かなり趣きが違いますよね?

「はい。ホラー映画も日本と海外では、雰囲気が違いますからね。日本の方が怖いと思います。子供の頃、夏に日本に来た時に、怪談とかをテレビでやっていたのを観て、ほんとに怖かったんです。例えばアメリカの子供向けのホラーとか、『怖い』っていう程じゃないんですけど、日本のは大人もビビるくらい怖いじゃないですか。日本人って、そういうところも真面目なんですかね?(笑)」

――(笑)日本の怪談モノは、ネチネチと怖さを煽るようなところがありますよね。

「そうなんですよ。アメリカのホラーといったら、大体、仮面とノコギリが出てきたりするわけですけど、あんまりリアリティがないんですよね」

――今でも日本のホラー映画とかは苦手ですか?
「苦手です。お化け屋敷とかにも入れないタイプなので。『かくりよの宿飯』は、そういう怖い作品ではなくて良かったなと思っています(笑)」

――(笑)先程、お話に出たフルオーケストラとのコンサートもそうですけど、新しいことに対してどんどん意欲的になっていますよね?

「はい。特にこの1年くらいの間に、新しいことをいっぱいやっているなというのを自分でも感じます。いただくファンレターからも感じるんですけど、中学生だった人が大学生とかになっていますし、自分も変化するのが自然だなと。『変化』というものに対して、すごく前向きになれています。常に前を見ているというのは、5年前も変わらなかったんですけど、最近、いろんな新しい発見をすることができています」

――ナノさんの根本にあるものって、不屈の精神ですよね。歌を聴くと、「炎のシンガーだ!」って感じることがよくあるんですけど、“ウツシヨノユメ”もそうでした。

「炎のシンガーですか(笑)」

――過去の曲から挙げるなら、“ MY LIBERATION”の《何度燃え尽くされ その灰から立ち上がる人生》は、僕にとってのナノさんを象徴するフレーズなんです。

「嬉しいです。自分でもあそこは好きなので」

文字を見て感じられる美しさというのも日本語にはあるんですよね。日本語の歌詞って、字としての魅力もすごくあると思います


――“ウツシヨノユメ”からも、何があっても生き抜こうとする力強い姿を感じます。《天上天下 届くまで》とか《天上天下 響くまで》が、すごく凛々しいです。

「歌詞は共同で書いたんですけど、その部分は自分で書いたんです。コンサートとかで、ぜひみんなにシャウトしてほしいです。海外の人は漢字が好きですから、この曲の歌詞にも反応していただけるかもしれないですよね。そういう点も楽しみなんです」

――漢字がプリントされたTシャツを着ていたり、漢字のタトゥーを入れていたりする欧米人は、時々、東京の街中でも見かけますよね。

「『そのタトゥー、残っちゃっていいんですか?』っていうのもありますけど。『麻婆豆腐』って入れている人を見たことがあります(笑)」

――(笑)漢字、ひらがな、片仮名を使う日本語に興味を持つ外国人がいるというのは、嬉しいことですけどね。

「自分も、今回の歌詞を書いて勉強になったんです。日本語は普段から書いているんですけど、現代ではあまり使わなくなっている言葉の美しさを改めて知ることができました。文字を見て感じられる美しさというのも日本語にはあるんですよね。日本語の歌詞って、字としての魅力もすごくあると思います」

――“ウツシヨノユメ”のMVは、そこも感じてもらえますね。

「はい。敢えて文字を入れたものにしたんです。音だけではなくて、目でも何かを感じて欲しかったので」

小さい頃から、普通の人だったらあまり好まないようなことに快感を覚えるところがあったのかもしれないですね


――“ウツシヨノユメ”が、まさにそうですけど、今回のシングルは、ナノさんが様々な音楽のエッセンスを採り入れているということを示している1枚だと思います。カップリングの“Gloria”も、壮大なストリングスのサウンドですし。これは舞台『大正浪漫探偵譚-六つのマリア像-』の主題歌でしたっけ?

「はい。あの舞台はドラマチックな作品だったので、こういうサウンドにしました。『教会の中で響いたらいいな』っていうイメージもありました」

――時々飛び出す巻き舌もナノさんの歌の魅力ですけど、この曲の《滅んでしまっても》には痺れました。

「ここ、つい出ちゃいました(笑)。前もって計画を立てているわけではないんですけど、レコーディングでのっていると、つい出ちゃうんですよ。たまに出過ぎてNGを出しまくる時もあるんですけど、この《滅んでしまっても》は、いい感じで出た巻き舌だったので残してもらえました。巻き舌ができるようになると英語の発音も上達すると思うので、カラオケとかで練習するのはオススメです(笑)」

――(笑)この曲は舞台で流れたわけですけど、いつかミュージカルとかに出演したいという気持ちはあります?

「演技力が関係ないのであれば出てみたいですね。小さい頃は、舞台をやったこともあったんです。ロックシンガーの役とか、英語で何かを叫ぶ通りすがりの役とかがあったらぜひ(笑)。やっぱり、新しいチャレンジはどんどんやっていきたいんですよ。そういえば、舞台をやっていた時は、やりたい役のオーディションを受けるシステムだったんですけど、みんながキラキラした王様とかお姫様を選ぶ中、自分はおじいさん役を選んだことがありました。自分は小さい頃から、普通の人だったらあまり好まないようなことに快感を覚えるところがあったのかもしれないですね」

――おじいさん役に惹かれた理由って?

「セリフ量が多かったけど、唯一笑いをとる役だったんですよ。その役の方がお客さんの印象に残るんじゃないかなと。王道よりも自分にしかできないものをやりたがるのが、自分の性格なんだろうなと思います」

――「これだ!」と思うものを見つけたら果敢にチャレンジする人だからこそ、アメリカから日本に来てシンガーを目指したとも言えるんじゃないでしょうか。

「そうかもしれないですね。その決断がぶっ飛んだ行動のマックスな状態だったので、それ以降は『来るものは来い!』ってなっているんだと思います」

――先程「炎のシンガー」と申し上げましたが、「ファイター」でもありますね。

「ありがとうございます(笑)。そういうのが歌詞に出ちゃうんですかね」

デビューしてから激しいロックも歌うようになっていったので、“A Thousand words”でもとに戻ったような感覚があります


――そういうナノさんにとって、“A Thousand words”は、珍しいタイプの曲ではないでしょうか。

「そうですね。曲を作ってもらったWEST GROUNDに『今回はしっとりしたバラードが欲しいです』とお願いをしたんです。じっくり聴いていただきたいタイプの曲です。歌詞の面でも日常のリアリティのようなものを出したいと思っていました」

――「近くにいてくれたからこそ、あの人に気持ちをちゃんと伝えられなかった」という内容ですが、こういう後悔は、現実の生活の中で度々起こりますからね。

「恋愛に限らず、親子や友人関係とかでも起こることですよね。一方は言葉にあまり頼らないで表現したいタイプなのに、もう一方は言葉にするのが好きで、言葉で何でも伝えたいタイプだと、すれ違いが生まれますから。自分はアメリカで育ちましたけど、あの国の人たちは、不満があっても、いいことがあっても全部口にするんです。でも、日本はどちらかというとあまり言葉にしなくて、不言実行みたいなところがありますよね。『空気を読んでください』というような。それぞれの良さがあるし、弱点もあるなと感じています」

――言葉にするかどうかはともかく、やっぱり一番大事なのは想いですよね。

「はい。強い想いさえあれば、最終的に伝わるんじゃないかなと思いますし、想いがなかったらどんなに言葉で飾っても伝わらないですからね」

――“A Thousand words”に登場するふたりは、想いはお互いにあったのに、すれ違ってしまったようですね。

「こういうことって起こりますよね」

――《「今夜は少し肌寒いから、くっついてあるいてもいいかな」》という部分がありますが、この頃は言葉にしなくても気持ちがちゃんと伝わっていたんでしょうね。

「そうですね。言葉が要らない温もり、絆っていうものもありますから。こういう歌詞の曲は、丁寧に歌って丁寧に表現したいです」

――ナノさんはパワフルに歌うのもとても似合いますけど、こういう方向性の曲も得意ですよね?

「本当はこういう曲も好きなんですよ。自分のもともとのルーツは、アコースティックのロックで、そういう曲をよく歌っていたんです。デビューしてから激しいロックも歌うようになっていったので、“A Thousand words”でもとに戻ったような感覚があります」

――キャリアを重ねるというのは、新境地と原点の両方がどんどん深まっていくということでもあるんじゃないでしょうか。

「そうなんだと思います。数学と違って音楽の答えはひとつじゃないので、今の自分じゃ想像できないものがこれからも生まれるでしょうし、吸収した何かによって新しいケミストリーが起こるんだと思います。それを自分でも楽しみにしています。アーティストって自由人だと思うので、自由な発想で新しいものを生み出していくのを、これからも大事にしていきたいです」

――ナノさんは、ライブの活動エリアもどんどん広げていますし、今後、さらにいろんな可能性を手にするんじゃないかなと思っています。

「ありがとうございます。今年の5月に、初めてアメリカでのライブをやったのも、いい経験でした。カリフォルニアのサンノゼだったんですけど、3千人近くが入れる会場を満員にできたんですよ。ネットを通じて自分の曲を聴いてくれていて、思っていた以上にお客さんが一緒に歌ってくれました。言葉に関しては困らないというのは自分の強みなので、これからもそれを活かしながらどんどんパワフルなミュージシャンになっていきたいです。いい意味で怪物になりたい。ナノしか持っていないものを自分で磨いて、みんなに楽しんでもらえるものにしていきたいです」

“ウツシヨノユメ” MV


“A Thousand words” Lyrics Video


リリース情報

『ウツシヨノユメ』2018年8月22日(水)発売
ナノ盤
アニメ盤

【ナノ盤】VTCL-35286 \1,300+tax
1. ウツシヨノユメ(TVアニメ『かくりよの宿飯』新オープニングテーマ)
作詞:ナノ・ZAI-ON 作曲/編曲:WEST GROUND
2. Gloria(舞台『大正浪漫探偵譚 –六つのマリア像-』主題歌)
作詞:ナノ 作曲/編曲:WEST GROUND
3. ウツシヨノユメ Instrumental
4. Gloria Instrumental

【アニメ盤】VTCL-35287 \1,300+tax
1. ウツシヨノユメ
作詞:ナノ・ZAI-ON 作曲/編曲:WEST GROUND
2. A Thousand words
作詞:ナノ 作曲/編曲:WEST GROUND
3. ウツシヨノユメ Instrumental
4. A Thousand words Instrumental

ライブ・イベント情報

ナノ ワンマンライブ「A Thousand Stars」
日時:2018年12月22日(土) 開場 15:00 開演 16:00

会場:AiiA Theater Tokyo(〒150-0041 東京都渋谷区神南2-1-1 国立代々木競技場)
http://aiia-theater.com/access/

料金:5,000円(税込・全席指定)

チケット発売情報:
・CD封入先行 8月21日(火)10:00~9月2日(日)23:59
・プレイガイド先行 9月14日(金)12:00~9月16日(日)23:59
・一般販売 9月22日(土)10:00~

詳しくはオフィシャルホームページへ
https://nanonano.me/

提供:フライングドッグ
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部