大塚 愛、彼女のクリエイティブの源とは? デビューから出産を経て今に至る15年間の振り返りインタビュー 

(娘とは)ひとりの人間との出会いだなと思っています。彼女は私にないものをいっぱい持っているんですよ


――あと弾き語りセクションで、“プラネタリウム”の時は蝉が鳴いていたんですが、次の“金魚花火”になった途端に鈴虫が鳴き始めて、それがとてもロマンチックで印象に残っています。

「えっ!? 誰か野音の虫たち調教してた!?(笑)」

――(笑)。デビューのエピソードといい、一気にトップアーティストに上り詰められたことといい、お子さんを授かったタイミングといい、挙げればきりがないですが、愛さんは「持ってる」人なんだなとあの瞬間に痛感したんです。

「私、その日は本当に持ってたんですよね。ここ数年ゲリラ豪雨がひどいから、まあ降るんだろうなと思っていたけれど、見事に東京だけ晴れて、『お~きてるきてる! 天が味方してる!』って(笑)。この季節の野音は毎年虫も多いんですけど、今年は一切飛んでこなかったし……『虫も木々もお天気もみんなそれぞれ立ち位置いいよ~! 素晴らしい!』と思いました。なによりお客さんが素晴らしかった」

――お客さんのリアクションで印象的なシーンはありますか?

「復帰後に出した“私”が、盛り上がる曲でもないのに、昔の盛り上がる曲とは違う一体感を作り出していたところですね。昔の曲で盛り上がることは予想がついていたんですけど、それでもどの曲にも盛り上がっていない人はいて。だけど“私”だけはみんなが手を挙げていて、それを見たときに『すごい!』と思って……あの日いちばん感動しましたね。でも『この曲そんなに売れてないけどな? みんなサクラ?』と一瞬思ったりもして(笑)」

――なんてネガティブな!(笑)

「これまでずっとマイナスがマイナスでマイナスすぎてプラスになることしかないくらいネガティブなんですよ!(笑)。でも娘は私と正反対で、すごくポジティブな人なんですよね。私が『ママはもうだめだ!』と言っていると必ず『ママはだめじゃないよ。まったくだめじゃない』と返してくれる。彼女はけっこう物事をはっきり言うタイプなので、曲作りをしている時に『今の曲いいと思うよ!』と言ってくれたときはそれを提出しています(笑)」

――娘さんのことを「あの子」ではなく「人」や「彼女」と言うところからも、愛さんは娘さんのことをひとりの対等な人間として思ってらっしゃるんですね。

「そうですね。ひとりの人間との出会いだなと思っています。彼女は私にないものをいっぱい持っているんですよ。『ママはなんでいつもそんなふうに考えるの? 大丈夫だよ! ママは今そんなに売れてないけどさ!』って……おいおいもうちょっとオブラートに包もうか!?って(笑)」

――7歳の子とは思えない堂々とした立ち振る舞い(笑)。

「『彼女には神が入っているのかな?』と思うくらい子どもに見えなくて。私のほうが年下に見える時もあるんです。彼女は私の仕事のことも考えて、なんの文句も言わずに家事もしてくれるし、いろんなことを受け入れて我慢してくれる。あと、一緒に寝ていると、彼女が私に腕枕をして、私が彼女に抱きついていて、彼女が私の頭をなでなでしていることもあったりして(笑)」

――間違いなく娘さんは愛さんを救うために、支えるために現れたんでしょうね。

「本当にそう思います。36歳にもなるとある程度なんでも見たことがあるし、なんでもやったことがある分、若い時の気持ちで曲を書くのは難しいんですけど、彼女の目線で物事を見ることができてきたことで、彼女の初めての体験とともに若い気持ちを過ごしている感覚があるんです。彼女の細かい仕草や表情から彼女のなかに入って、『登校の時の気持ちはこんな感じかな』『たしかに学校ってそういう場所だよね』と思ったりして。きっとこれから彼女の目線で若い恋愛をして『そうそう、こんなことでドキドキするんだよね』と感じられるのかな……と思っていますね」

『感情が安定したまともな人になると芸術ができない。でも芸術に特化すると大人としての振る舞いができない』ということに気付いちゃって……どうしよう!?と思っているところで(笑)


――野音のアンコールのMCで「懐かしみながら前を進んでいく」とおっしゃっていたのもとても印象的でした。

「昨日までの自分がだめすぎるので、振り返ると『よし、わたしイケてる!』『いいぞいいぞ!』と思えるんですよ(笑)。『この時の私は可愛かったな……』なんて思ったことが一度もなくて。過去には戻りたくないし、いつも今がいちばんいいなと思っていますね。ドライフラワーは枯れているからこそのかっこよさがありますよね。それと同じように、その時にしか出せないもの、成せないものが必ずあると思うんです」

――そうですね。野音では過去の曲から新しい印象を感じたり、あらためて気づいた楽曲の特色などがたくさんありました。デビュー15周年を迎えた愛さんだからこそのパフォーマンスだったと思います。

「15年活動してきて、今は音楽家としても分岐点に立っていると思うんですよね。『いつまで“さくらんぼ”を歌うのかな?』と考えることもあるし、作曲家として若い子たちに楽曲を提供することも選択肢としてありだなとも思う。もしかしたら役者になるかもしれない。ずっと自分を今の位置に縛り付けるのも違うと思うので、いろんなところに動けるように準備はしたいなって。最近は英語を習っていて、そのうち着付けを習おうと思って……老後の準備もしてますね(笑)」

――愛さんはデビュー前からずっと石橋を叩いて渡っているなと(笑)。

「どこに落とし穴があるかわかりませんからね!(笑)。最近『感情が安定したまともな人になると芸術ができない。でも芸術に特化すると大人としての振る舞いができない』ということに気付いちゃって……どうしよう!?と思っているところで(笑)。はちゃめちゃな母親を見た子どもはどう思うだろう? どこまで子どもの前でブレーキをかけたらいいんだろう?というのはよく考えています。でも彼女のなかで『あ、この人はちょっとおかしいな』と理解してきてはいるみたいですけど(笑)」

――はははは。30代は本当の意味で「大人」というものに向き合わなければいけないタイミングでもありますよね。

「よりよい40、50代になるために、いろんなことを蓄えたり、準備をするのが30代なのかなと思っているんです。今はいろんなところに行ったり、いろんな作品を見たり、いろんな人の世界観に触れたりして自分の世界を広げたいな、というモードですね。だからブイブイ言わせられるのは40、50に待っているのかなって(笑)」

――ブイブイ言わせた愛さんがどんな音楽を作るのか気になりますね。ブイブイ言わせた愛さんが歌う“さくらんぼ”も聴いてみたいです。

「あははは! これからの経験がまた曲や表現にできたらうれしいですね」

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