タイトル曲“Star light, Star bright”を筆頭として、今回のシングルにはナノの人生観が様々な形で反映されているのを感じる。体験した出来事、出会った人々、眺めた風景などから生まれた想いを歌声にまっすぐ託し、リスナーに無数のイメージ、ストーリー、視点を届ける作品となっている。じっくりと耳を傾けることによって、たくさんの新鮮な世界へと到達できるのが、ナノの音楽の大きな魅力だ。今作の各曲について語ってくれた言葉からも、そういう部分が伝わるのではないだろうか。
インタビュー=田中大
歌っている時は、『聴いてくれる人がいるって楽しい』というのを、何よりも感じるんですよね。人に届けて一体感を楽しむというのが、自分にとっての歌なんです
――“Star light, Star bright”は、TVアニメ『CONCEPTION』のオープニングテーマとして書き下ろしたんですか?
「はい。タイアップのお話をいただいて、そこから曲の制作が始まったんです。5年ほど前に『CONCEPTION』のゲーム版でもコラボレーションしていて、よく知っている作品だからこそ表現できるものがある曲にしたいと思っていました。ゲームの時の曲だった“Destiny 〜12回目の奇跡〜”と今回の両方を聴いていただけると、『ここは、あのオマージュなんだ』とか気づいていただける部分もあると思います」
――作曲と編曲のクレジットが「WEST GROUND/堀江晶太」なのが目を引きます。ナノさんの代表曲のひとつである“No pain, No game”を手掛けたのが堀江さん(塚本けむ名義)ですからね。
「そうなんです。『CONCEPTION』の曲は久しぶりですし、“No pain, No game”を作っていただいた堀江さんですし、過去の自分とまた繋がった作品にもなりました」
――ナノさんの歌が持っている、力強い部分がすごく出ている曲でもあると思います。
「ありがとうございます。ストレートな曲になりました」
――ナノさんの歌声って、すごくパンチ力がありますよね。
「パンチ力しかないかもしれないです。癒しをもっと求められるのかもしれないですけど(笑)。でも、こうやって歌うのが好きなんですよね」
――歌っていると、強くなったような感覚にもなります?
「はい。歌っている時は、普段の自分ではあり得ないようなエネルギーや体力も出てきますし、楽しさがあるんです。そして、『聴いてくれる人がいるって楽しい』というのを、何よりも感じるんですよね。人に届けて一体感を楽しむというのが、自分にとっての歌なんです」
――この曲は、ライブでそういうものを存分に感じられる曲でしょうね。ピアノの旋律も心地いいです。
「以前、堀江さんが作ってくださった“Crossroad”のオマージュが、この曲のピアノなんです。リスナーさんは、こういうのに敏感ですし、いい耳を持っているので、いろいろ発見してもらえると思います」
――歌詞が日本語から英語に切り替わって空気感が変化するドラマチックさも、すごく際立っていると思います。ギアが切り替わるようなこういうスタイル、お好きですよね?
「好きです。マニュアルの車のギアが切り替わるような感覚は、自分自身でもあります。自分の中でも日本語で歌っている時と英語で歌っている時、それぞれで差があるんですよ。『そういう差は、ないほうがいいのかな?』って悩んだ時期もあったんですけど、自分はアメリカで生まれ育ったから、どうしても差が出ちゃうんです。だから『こういう差を自分らしいものにできたらいいな』と思うようになりました」
――どうしても滲み出ちゃう部分を武器にするということですね。
「はい。日本語と英語を無理して融合させたりするより、差があるこういうスタイルを押し通して、『いつものナノが来た』っていう部分を、みなさんに聴いていただきたいと思うようになりました。音楽をやればやるほど、『自分はどういうシンガーなのか?』というのがわかってくるし、自分の気持ちいいところもわかってきたんです。あと、聴いてくれるみなさんの反応を感じることによって、やりやすくもなってきました。活動を重ねる中で何が一番変わったかといえば、音楽が本当に楽しくなったということなんですよね」
境界線ってないんですよ。国は違うし、言葉も違いますけど、楽しむためにライブ会場に来ているのはどこも同じですから
――少し遡った話になりますけど、デビューした頃は、どういうシンガーになりたいと思っていました?
「何も知らない状態での手探りだったんですけど、とにかく、ひとりでも多くの人に『背中を押される』とか『インスピレーションをもらえる』とか感じてほしいということは思っていました。自信もなかったですし、どうやったらそういうことが成し遂げられるかはわかっていなかったですけど、とにかくそれだけはありました」
――リスナー、お客さんの存在が、ナノさんにとって何よりもの道しるべだったということでしょうか?
「本当にその通りですね。そういうみなさんが国内だけではなくて海外にも存在するのがありがたいことですし、境界線がどんどんなくなってきているのが楽しいです」
――海外公演も普通にやるようになっていますからね。
「今、海外公演のほうが多いんじゃないかっていうくらいです(笑)。でも、実際、境界線ってないんですよ。国は違うし、言葉も違いますけど、楽しむためにライブ会場に来ているのはどこも同じですから。そういう楽しみの原動力となるために、自分はステージに立っているんですよね」
――アメリカで育ったというナノさんの背景も、国境を越える活動にいろいろ活かせる部分があるでしょうね。
「はい。アメリカで育ったことで、いろんなことに対してオープンになれているというのも感じます。『こうじゃなきゃいけない!』っていう固い考えは、あまりないので」
――日本の文化内に漂う雰囲気について、何か感じることはあります? 型にはめる傾向があると一般的に言われている気もするんですけど、日本人は新しいもの好きだし、いろいろ自分たち流にアレンジするのも得意だから、結構柔軟性はあると思うんですよ。
「外から見て感じるのは、日本は『すごく進化をする国』ということです。アメリカは自由だけど、進化とか変化ってあまりなくて、ファッションも食べ物も、何十年も同じものが好きなんですよね。でも、日本人は流行、進化、変化に敏感で、この数十年ですごく変わったじゃないですか。それは好奇心とハングリー精神を秘めているからなんだと思います。日本人は固い部分がたしかにありますけど、『受け入れる』ということに関しては、意外とすごくするほうですよ。ただ、シャイなだけなんでしょうね」
――今おっしゃったことにも表れていると思うんですが、いろんな視点から多様な文化を捉えて、吸収してきている点も、ナノさんの強みになっていますよね?
「はい。こういう部分は、大事にしていきたいです。音楽を通して、そういう視点みたいなことも聴いてくれる人に体験してもらえたらいいですね。あと、英語や海外の文化に対する関心も持ってもらえたら嬉しいです。それだけでもひとつの扉が開かれるわけですから。音楽はエンタテインメントの要素ももちろん大事ですけど、自分は精神的要素を大事にしているということですね。だから歌詞には力を入れています」
(“Blue Jay”は)恩人に捧げている曲です。その人のこと“Blue Jay”って呼んでいたんですよ。
――“Star light, Star bright”の歌詞に関して個人的に興味深かったのは、イメージされる星空が東京とかのものではなかったという点です。英語の歌詞が喚起したものももちろんあるんでしょうけど、アメリカの中西部辺りの豊かな自然の中で見る星空が思い浮かぶんですよ。
「歌詞を書いて表れる風景って、小さい頃に見ていたものなんだと思います。見たことがないものは描けないですからね。アメリカを車で横断して、1ヶ月間キャンプをし続けた体験もあるんですけど、内陸は本当に何もないんですよ。でも、その何もなさが『アメリカだな』という感じなんです。ひたすらジャガイモ畑が続いたりしますから」
――この歌詞、そういう中で見た風景が反映されていますよね?
「はい。草原に寝っ転がってキャンプしながら眺めた綺麗な星空のことが思い浮かんじゃいますね。星に向かって願い事もしていましたけど、『叶ったらいいな』という感じではなくて、『本気でお願いします!』という感じでした(笑)」
――(笑)。どんなお願いをしていました?
「『音楽をやっていきたい』ということでしたね」
――その夢、叶ったじゃないですか。
「はい。振り返ってみると、本気で願ったことは、結構叶っています。だから、『祈る』っていうことは、ものすごい力があるのかなとも思います。『祈る』っていうのは、自分の想いを認識できる行動なんですよ。そのことによって、『叶えたい』という気持ちもさらに増すし、勇気も湧くんです。だから『願い』って奇跡を待つということじゃなくて、意外と自分自身のためになるんです」
――いろんな物事の捉え方ができるから、ナノさんの曲には多彩なイメージやメッセージが凝縮されているのかもしれないですね。例えば、今回のシングルのカップリングの“Blue Jay”(ナノ盤に収録)も、今はこの世にいない大切な人への呼びかけている姿を、まざまざと思い浮かべることができる曲です。
「“Blue Jay”って、日本にはいない『アオカケス』という鳥なんですけど、恩人に捧げている曲です。その人のこと“Blue Jay”って呼んでいたんですよ。ここまでパーソナルな曲を世に送り出したことは、あまりないです。そういう曲の作詞作曲をできたというのがすごく嬉しいですし、どこか自分自身のために書いたところもありますね」
――Blue Jayって、どんな人だったんですか?
「小さい頃の私にいろんなストーリーを教えてくれて、夢のある人でした。その人のおかげで自分の想像力が育てられた気がしていて、今の自分に繋がる恩人なんです。この“Blue Jay”、ライブで歌いながら涙腺が崩壊するかもしれません(笑)。普段はそういうことはないんですけど、やはり、これはパーソナルな曲ですから」
――どこかから見守っているのかもしれないBlue Jayのことを思い浮かべながら歌うことになるでしょうね。
「はい。ライブでやる機会があったら、会場に降りてきてほしいです」
――宗教的な意味ではなく、亡くなった人の想いが身近にいてくれる感覚って、やっぱりありますよね?
「そうですよね。魂がどうこうということじゃなくて、『その人の想い』っていうのは永遠ですし、この世を去ったとしても『死』ではないところがある気がします。自分は無駄な命はなくて、必ず何かをこの世に遺して去っていくんだと思っています。そして、遺されたものを大事にしていくのは、この世にいる者の使命なんですよね」
――ナノさんにとって、ある意味、Blue Jayは今も生きているということですね。
「はい。亡くなった気がしないんですよ。この曲によって生き返ったような気もしています」
『ナノは人間を信じています』って、字面で見ると変かもしれないですけど(笑)。人間はとてつもない力を秘めていて、何のツールを持っていなかったとしてもパワフルなんです
――カップリングからもナノさんの人生観が様々な形で感じられるのが、今回のシングルということかもしれないですね。“ Artificial Hero”(アニメ盤に収録)も、そういう部分がありますから。
「“Artificial Hero”は、今までのナノのイメージに近い曲だと思いますけど、アコースティックギターのサウンドが入っているところが新しいと思います」
――“Artificial Hero=人工的ヒーロー”というタイトルが印象的です。
「思い描く正義とかヒーローというものは人それぞれで、時には周りが見えなくなったり、求められた自分に一生懸命なろうとしたり、自分が本当にやりたいことを見失ってしまう場合もあるんです。そういうことを常に思い出さないと、後悔することになるんじゃないでしょうか。『自分が生きたいように生きるのはとても大事である』というのを再認識できる歌詞だと思います」
――《The artificial hero is there in you》が、終盤で《Be the human hero in you》になるというコントラストは、この曲を解釈する上で注目すべきポイントのひとつでしょうね。
「そこをピックアップしていただけて嬉しいです。この曲は『DArk Rebellion』というアプリゲームの主題歌なんですけど、登場するキャラクターのひとりひとりが、いろんな葛藤を抱えながら戦っていくんですよ。だからその葛藤をこの曲で表現したいと思っていました」
――このシングルにも表れていますが、ナノさんの世界はどんどん広がり続けていますね。先程もお話した通り、海外ライブの機会も増えていますし。生まれた街のNY公演も実現したじゃないですか。
「デビュー前からNYでやりたいと言っていましたからね。まだイベントでの出演ですけど、NYでのワンマンライブへの第一歩として夢が叶いました。ワンマンライブであるかのような期待感を持って来てくれるお客さんもいると思いますので、ワンマンをやるくらいの気持ちで臨みたいです」
――ナノさんの活動は、一貫して力強さに満ちていますね。表現している音楽からも、道を切り拓くことができる人間の力をすごく信じている姿が伝わってきます。
「『ナノは人間を信じています』って、字面で見ると変かもしれないですけど(笑)。でも、本当にそう思っているんですよ。人間はとてつもない力を秘めていて、何のツールを持っていなかったとしてもパワフルなんです。そういうことを忘れないで生きていきたいです」
“Star light, Star bright” Music Video (Short ver. )
リリース情報
『Star light, Star bright』2018年11月21日(水)発売【ナノ盤】VTCL-35291 \1,300+tax
【アニメ盤】VTCL-35292 \1,300+tax
〈収録内容〉
◆ナノ盤
1.Star light, Star bright
TVアニメ『CONCEPTION』オープニングテーマ
2.Blue Jay
3.Star light, Star bright Instrumental ver.
4.Blue Jay Instrumental ver.
◆アニメ盤
1.Star light, Star bright
2. Artificial Hero
アプリゲーム『DArk Rebellion』主題歌
3. Star light, Star bright Instrumental ver.
4. Artificial Hero Instrumental ver.
ライブ情報
ナノ ワンマンライブ「A Thousand Stars」日時:2018年12月22日(土)
開場 15:00/開演 16:00
会場:AiiA Theater Tokyo(〒150-0041 東京都渋谷区神南2-1-1 国立代々木競技場)
http://aiia-theater.com/access/
料金:5,000円(税込・全席指定)
詳しくはオフィシャルホームページへ
https://nanonano.me/
C3AFA Singapore 2018
日程:2018 年 11 月 30 日(金)/ 12 月 1 日(土)/ 2 日(日)
会場:Suntec Singapore Convention & Exhibition Centre
※ナノの出演日は12月2日となります
フライングドッグ10周年記念LIVE -犬フェス!-
日程:2019年2月2日(土)
開場 14:30/開演 16:00
会場:武蔵野の森 総合スポーツプラザ メインアリーナ
ANIMAX MUSIX 2019 OSAKA supported byひかりTV
日程:2019年1月19日(土)
開場13:00/開演14:00(予定)
会場:大阪城ホール
提供:フライングドッグ
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部