2018年9月にデビュー15周年を迎えた大塚 愛が、2019年1月1日にオールタイムベストアルバム『愛 am BEST, too』をリリースする。2枚組で構成された同作は、ヒット曲や新旧織り交ぜたシングル曲、過去のオリジナルアルバム収録曲、そして新曲“Dear, you”まで全31曲を収録。大塚 愛がジャンルや枠組みにとらわれずに楽曲制作を行ってきたことが感じられる、バラエティに富んだ楽曲群――まさに彼女が提示してきた「コンビニエンスMUSiC」の実態を体感できるオールタイムベストが完成した。
インタビュー=沖さやこ
すごく身近に感じられて、使い勝手がいい……そういう存在に近いのかな?と思って、『コンビニエンスMUSiC』と題したんですよね
――今回のオールタイムベスト『愛 am BEST, too』には、ヒットソングだけでなくアルバム曲も収録されています。愛さんは以前シングル曲のことを「なんとなく私が感じる世の中にウケそうな曲や、自分が好きかどうかより人に好かれそうなものを作ることに100%振り切っていた」とおっしゃっていましたが、多くの人が好きになってくれたことで新しい価値が生まれた面もあるのでは?
「まさしく。本当にそうだと思います。たとえば、“さくらんぼ”は自分でも『これはいいな』って思ってるんですけど、“プラネタリウム”はそうではなくて。ただ、この世界に来る前から人気はありました。自分では『なんでだろう?』って思いながら、まあ気に入ってもらえるなら良かったなって。あと、私がデビューした当時は、女性で型破りな楽曲を歌う人があまりいなかったのかなという気がしていて」
――愛さんのヒットソングは、言葉もサウンドもフックがある曲が多いですからね。
「今となっては“黒毛和牛上塩タン焼680円”みたいなタイトルも珍しくはないですけど、当時はまじめなタイトルが多かったので、『えっ? なんだこの人!? しかも女!?』って感じで、女性シンガーの中でもピッと浮いたんだと思うんです。それを面白がってもらったおかげで、私の持ち味だとみんな思ったんじゃないかな」
――でも実際は、愛さんの作っていたバラエティ豊かな楽曲群のうちのほんの一部だった。となると冒頭でおっしゃっていたとおり、これまでいろんな面を持っていたんだよって示せるオールタイムベストというアイテムは非常に有効だと思います。
「うんうん。そうですね。『この曲懐かしいよね!』って思い出の曲だけ聴くのではなく、ちゃんと流れで聴いてもらえるとありがたいですね。自分の曲はどうしたってハイブランド系ではない、でもすごく身近に感じられて、使い勝手がいい……そういう存在に近いのかな?と思って、『コンビニエンスMUSiC』と題したんですよね。すぐ近くにあって、どんなものも揃っているコンビニっぽいなと思ったんです。それで24時間営業のイメージから、DISC 1の1曲目が朝、DISC 2の最後にまた朝に戻るというイメージで曲を並べていったんですよね」
――“私”で始まり、“ドラセナ”のあと“Re:NAME”で締めくくられます。
「私にとって“ドラセナ”はすべての終わり、終焉、卒業のイメージがあるんです。でも、私はいつもアルバムの最後を『始まり』で締めくくりたい。だから最後を、朝のイメージで生まれるという意味が強い“Re:NAME”にしました。24時間寄り添える、だれもひとりにならないアルバムにできたら……と思ったんです。時が経ち、若い世代が現れるなかで、自分のことを知らない世代に向けてノックして、自己紹介をすることも必要かなって、素直な気持ちでベストアルバムを出せますね」
親もとんでもない名前を付けてくれたもんですよね(笑)
――クレジットが、2012年に「愛」から「aio」に変更なさっていますが、これはなぜだったのでしょう?
「『大塚 愛』という字面が好きじゃないから『愛』という名義にしていたんですけど、『愛』という字が重すぎるなと、ふと思ったんです。手紙とかで最後に名前を書くけれど、『愛』だと名前なのか言葉なのかわかりづらいし、書いてきたすべてが『愛』に集約されてしまうから、使うのが難しい言葉であり名前なんですよね。だから作詞作曲の欄に『愛』とあるのも、『愛という気持ちで作っている』という見え方もできるから微妙だなと思ってきてしまって」
――愛さんはお名前が「愛」ですし、アルバムのタイトルには必ず「LOVE」という言葉が入っているので、愛という言葉とともに15年間音楽を作り続けてきた人だと思っているんですけど、愛は誰もがそれぞれ違う形で持っている壮大なテーマでもあるので、それを掲げて生きていくというのは、私にはなかなか計り知れなくて。
「親もとんでもない名前を付けてくれたもんですよね(笑)。私はいろんな出来事があって、親に愛を抱けなくなってしまって。そんな自分に『なんて愛のない人間なんだろう』『もしかして私は人を愛せない人間なんじゃないか?』と感じるようになって。その時に自分が一番足りないものを名前にされたのかな、これを学びなさいと言われたのかなと思った」
――与えられた試練というか。
「宿題のような感覚でした。でも今後も自分は人を愛せないし、愛されてもいないんだろうなって思っていて……その愛というものを教えてくれたのが娘だった。『愛のない人間なんかじゃないよ』と言ってもらえた気がして、その時に『これが愛だ!』というのをまざまざと感じたというか。“ドラセナ”と“Re:NAME”の2曲はほかの恋愛の曲とは違って『本当の愛を知った人が書いた曲だな』というのが色濃く出たとは思っています」
――“ドラセナ”と“Re:NAME”を聴いた時に、愛さんが15年間で導き出した愛というものがひとつ結実した曲なのかなと思ったんです。15年続けてこなければ、ここには辿り着けなかっただろうなと。
「15年続けてこれたのは、間違いなく周りのスタッフやお客さんのおかげです。15年生きてこれたことが奇跡だなと思う。15周年というよりは、21歳から36歳までの人生だなと思うんです。音楽に人生すべてゆだねることは絶対にないなと思っていたけど、過去の曲を聴いていて『あ、自分は音楽のために生きてきたっぽい』と思って。意外と音楽人みたいです(笑)。1回音楽をやめられるタイミングはあったのに、なんでやめなかったんだろう? やめ時逃したなと思ったんですよ。あそこでやめちゃえば美しかったとも思う。でもまだ届いていないなと思ったんですよね」
――届いていない、とは?
「自分が100点だなと思えるものが作れたら終わりだなと思うんですけど、自分の目指す100点がまだまだ遠すぎちゃって、自分は全然足りない、全然ピースが揃っていない人だなと思う。産休に入る前の『LOVE LETTER』というアルバムは広がりを出すことができたけど、自分の声を活かし切れているかというとそうではなかったし、自分の好きな音楽を突き詰められていない、具現化できていない。そんなピースが足りない状態で、『引退します』とは言えなかった。道すがら『大塚 愛さんですよね?』と言われて『はい、そうです!』と自信もって言えるようになった時に辞めようと思っているので、まだまだ辞められなさそうで(笑)」