ヨルシカ、音楽を辞めた「青年」の物語を描く1stフルアルバム『だから僕は音楽を辞めた』。その物語の背景をn-bunaとsuisのふたりに訊いた

ヨルシカ、音楽を辞めた「青年」の物語を描く1stフルアルバム『だから僕は音楽を辞めた』。その物語の背景をn-bunaとsuisのふたりに訊いた

“パレード”の《君の指先の中にはたぶん神様が住んでいる》ってところとか、これすごいなって思って(suis)


──だから手触りとしてはとても生々しい楽曲になってるんですね。“詩書きとコーヒー”なんて、《最低限の生活で小さな部屋の六畳で》とか、すごく日常が描かれていますよね。

n-buna そうなんですよね。実際6畳の部屋に住んでましたからね(笑)。バイト代6万から家賃の5万6000円を引くと残りが4000円でっていう。ほんとにリアルなんですけど、だからこそ「エルマ」への気持ちが、どこまでも現実的に見えるんじゃないかと。聴く人にも理解してもらえると思います。

──suisさんは、今作でのn-bunaさんの歌詞の変化をどう捉えていましたか?

suis リアルという意味では、やはりn-buna君自身のことを書いているのかなあとすごく感じた部分はありましたね。でも自分で歌っていくうちにすぐに感情移入できたし、共感できる部分がたくさんあって。あとやっぱりロマンチックですよね。“踊ろうぜ”が一番ロマンチックだと思うんですけど、“パレード”の《君の指先の中にはたぶん神様が住んでいる》っていうところとかも、これすごいなって思って。

n-buna ありがとう(笑)。

suis 私自身、友人にはギターを弾く人、イラストを描く人、ものをつくる界隈にいる方が多いんですよね。それでこの曲を歌う時に、この1行に関しては、いろんな人の顔が浮かんできて、実際にその人たちが私の中の「エルマ」となって、レコーディングの時もここらへん(自分の肩の後ろのほうを指しながら)にいましたね。その人たちの指先もここらへんにあるっていう感じがして。

──今回、サウンド面でもバンドアンサンブルが非常に豊かになっていて、ギターサウンドがより強く押し出されているように感じました。

n-buna そうですね。ギターは好きに暴れられて、楽しかったです。ギターロックをやりつつ、でも今回一本通したかったのはピアノなんです。“藍二乗”からピアノががんがん鳴ってるロックだし、アルバム全編通してピアノサウンドを通したいなっていうのがあって。で、はっちゃん(平畑徹也)さんに今回はレコーディングに入ってもらって制作に臨みました。

──サウンドの洗練をすごく感じられて、制作を経るごとにバンド感も強くなってる気がしますね。

n-buna 今作はsuisさんも含めて、1〜2作目のミニアルバムのレコーディングを経て、メンバーともだいぶ意思疎通ができるようになってきたっていう感じです。僕のディレクション慣れというのもあると思うんですけど、僕のやりたいことをすごく理解してくれて、サウンドクオリティへの熱量がかなり上がったと思います。もう、キタニタツヤ(B)さんとMasack(Dr)さんのリズムトラックからしびれっぱなしでした。ロック曲でのキタニさんのピッキングの強さがMasackさんのドラムと重なってすごく流れるようなグルーヴを生むんですよね。そこに下鶴(光康/G)さんのギターと、はっちゃんさんのピアノが乗って。

いまもう(次作の)制作に入っています。詳しいことはまだ言えないんですが、次作は『エルマ』というタイトルになると思います(n-buna)


──ヨルシカとしての制作を楽しんでいる感じは、音からも伝わってきます。

n-buna 下鶴さんのギターも今回ほんと素晴らしいフレーズをいっぱい入れてくれて。“だから僕は音楽を辞めた”の3番、2サビ後の間奏が終わった後あたりから入るディレイギターとか、それこそ“踊ろうぜ”の2番で入るワウギターとか、すごく好きですね。はっちゃんさんのピアノもほんとに素晴らしくて、“六月は雨上がりの街を書く”なんかは、デモ段階ではピアノの音は入ってなかったんですよ。それでほぼ自由に弾いてもらって……すごかったですね。一気に雨の匂いがするなあって。はっちゃんさんの感性、すごく好きです。

suis “だから僕は音楽を辞めた”では、《辞めた筈のピアノ、机を弾く癖が抜けない》っていうところで入るはっちゃんさんのピアノがあるんですけど──。

n-buna いや、ほんとこれいいフレーズで。

suis 私はみなさんの演奏が最終的にできあがったものを聴きながら歌を録るので、本当にギターにしろ、ピアノにしろ、リズム隊にしろ、この熱量のRECでこの音が入ってなければ、この歌のニュアンスにはならなかっただろうなっていうところが、今回は本当にたくさんあります。特にこの《机を弾く癖が》のところのピアノは、このフレーズがあるからこの歌詞を歌えたんだって思いますね。

──こうしてお話を聞いていても、ヨルシカの制作が素晴らしい充実期に突入しているのを感じます。それもあって、n-bunaさんは今はソロ名義のものよりもヨルシカの制作のほうに比重が置かれているのかなと思うのですが。

n-buna まあ、ヨルシカの制作スケジュールがあったので、そこに注力してたということなんですけどね。あと、基本的には自分が今作りたいものを作るっていう感じなので。個人で言えば書き下ろしの提供曲とかとは別にして、ボーカロイドの曲は、今いいものが作れないなっていう時期にあるというだけで。でも好きな時に曲を作って好きな時に発信できるっていうのは、ボカロのいいところだから、今まで通り、いい曲ができたら上げようかなと思ってます。そういう気軽さこそがボカロのいいところですから。うん。これは言っておかなきゃなとは思ってました。

──ところで、これほどの熱量の1stアルバムができあがったばかりですが、すでに2ndアルバムの構想も固まりつつあると聞きました。

n-buna はい。いまもう制作に入っています。詳しいことはまだ言えないんですが、次作は『エルマ』というタイトルになると思います。

suis カタカナで『エルマ』?

n-buna そう。今作『だから僕は音楽を辞めた』と、対になるようなアルバムを作りたいと思っていたんです。1〜2作目のミニアルバムでは、“雲と幽霊”という楽曲と“言って。”という楽曲で、この2作のコンセプトがつながっていることを表現したんですけど、曲間でのつながりだけでなく、今回はアルバム単位でそれをやりたいという思いがありまして。

──それを現在制作中なんですね。

n-buna はい。夏頃には出せそうかなと思っているので、楽しみにしていてください。

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