2016年、カバーミニアルバム『chouchou』のリリース後、「歌」を通して表現するアーテイストとしての活動も続けている上白石萌音。2017年のオリジナルアルバム『and…』から約2年ぶりとなる新作『i』(アイ)が完成した。今作は「恋愛」をテーマに制作され、5曲それぞれ「思わせぶりな恋」「終わった恋」「幸せな恋」「誰にも言えぬ恋」「片想いの恋」と、楽曲ごとにさらに深いテーマ性を持たせたコンセプトアルバムとなった。21歳の上白石萌音が、等身大で「恋」というテーマに全力で向き合ったこの作品には、彼女の表現力の成長と追求心を存分に感じる。制作を通じて向き合った「恋」というテーマと、「歌」への純粋な思いについて、今思うことのすべてを語ってもらった。
インタビュー=杉浦美恵
恋だけに執着せずに書いてみようと。日常的な片想い『こう思ってるんだけど言えないなあ』っていうこととか。これは、私なりのラブソングです
──2年ぶりのミニアルバムですね。5曲それぞれで様々な恋愛を描く楽曲が揃った、ひとつひとつ短編小説を読んでいるような気持ちになる作品です。前作からまたさらに多彩になった「表現」がつまっているようにも感じましたが、今回「恋愛」をテーマに作品を作り上げるというアイデアはどこから出てきたんですか?
「まず、映画『L♡DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』の主題歌として制作した“ハッピーエンド”(※正式タイトルは“ハッピーエンド/上白石萌音×内澤崇仁(androp)”)という楽曲が先にあって、それが入る作品だということは決まっていたので、もうこれだ!という感じで、テーマはすんなり決まりました。そこまでは決まるのが早かったんですけど、そのあと『恋ってなんだ?』って、すごく考えてしまいました」
──「恋愛」というテーマから、特に「片想い」というところへと絞られていったようにも思うのですが、それはなぜ?
「特別『片想い』に絞ろうというのはあまりなかったんですけど、でも、片想いしてる時が一番楽しいじゃん!みたいな感じ、ありませんか? 一番気持ちが揺れるし、ドラマチックだし、自分の気持ちがすごく忙しいですよね、片想いしてる時って。だから曲になるんだろうなって思います」
──すごくフレッシュだし、等身大の上白石さんの歌でもあるなと感じました。この作品に『i』と名付けたのも上白石さん自身ですよね。
「はい。曲が全部出揃って、すごく悩んで決めたんですけど、一言で伝わるもので、かつ、いろいろ広がりのあるシンプルなものがいいなと思ってこの文字を選んで。その後もどう読んでもらうかでずっと悩んでいて、『アイ』と読んで、『愛』の歌というイメージもあるし、ローマ数字の『Ⅰ』にも見えるから、『ひとりきり』とか『あなたひとりだけ』っていう意味にもつながるかなとか、もちろん『私』ということでもあるし。あとは個人的にこの『i』という字が、人がすとんと立っているようにも見えて。この作品のどの曲も聴く人とか観る人にとっての『何か』になればいいなという思いで、シンプルにドンとつけてみました」
──「恋」というテーマに向き合う中で、上白石さんは今回、初めて恋愛についての歌詞を書きましたよね。前作でも3曲の作詞を手がけていますが、その時は純粋に恋愛を描いた楽曲ではありませんでした。今回の“ひとりごと”の作詞(田中秀典との共作)は「難産だった」とうかがっていますが。
「前作で3曲書いた時も、ほんとに大変だったんですけど、今回は特に大変でした。『片想い』というテーマが決まっていたこともあるけれど、恋愛の歌詞なんて書いたことなかったし、最初は自分なりに物語の主人公を立てて、その子が恋をしている感じで書いていったんです。でもそうしたら、なんだかすごく気持ち悪い感じになってしまって(笑)。くさいっていうか、くどいっていうか。変に詩的にギラギラ飾って、ドラマチックにロマンチックに書いていたんですよね。それがなんか気持ち悪いなって思ったので、一度全部白紙に戻して書き直しました」
──なるほど。最初は完全にフィクションで書いてみようと試みたんですね。
「そうなんです。それでなんだか恥ずかしくなってしまって。もう『やめようやめよう』ってなって、恋だけに執着せずに書いてみようと。日常的な片想いっていうか、生きていると、人と接する中で『こう思ってるんだけど言えないなあ』っていうことが、やっぱり多々あるじゃないですか。後から『こう言えばよかった』とか、私もすごくよくあるので、トータルでそういう歌にしちゃえと思って。だからこれは、私なりのラブソングですね」
──その結果、すごくいろいろな感情を受け取ることができる曲になったと思います。切なさもあり、愛おしさもあり。
「あまりにも飾らずに書いてしまったので、今となっては逆に恥ずかしいですね(笑)。全部筒抜けな感じがして。でも、どうやって表現しようかなと考えること自体が、すごく尊いことだなって思いました。スピードがめちゃめちゃ早い社会にいる中で、立ち止まれる時間はすごく大事だなって思えて。だからうじうじしているように見える自分がいたとしても、その部分を少し肯定してあげられるような、そんな歌になればいいなって思って書きました」
──誰かのことを思ったり、考えたりする、その柔らかい時間の流れを感じるような曲だなと思いました。
「前は誰かに向けて書いていたんですよ。友達とか憧れてた先輩とか。だけど今回は、自分に向けてというか、自分のことを言っている曲にしようと思ったんです。だから逆に難しくて。自分自身が何を考えているのかがわからなくて」
──なるほど。まずは自分が何を考えているんだろうっていうところに向き合う作業だったわけですね。
「そうですね。そんなこと考えなくても日々は送れるじゃないですか。だけど、そこでがっつり考えてみたら意外と自分のことは自分でもわからなくて、そこを掘っていくのが一番難しかったです。何を考えてる? 私は何を考えてるんだ?って。その答えは絶えず流動していくものだと思ったから、この“ひとりごと”は、頭を抱えて書いていた深夜2時くらいの、その時の私の思考が密閉されてるんだと思います」
恋愛って、すごく正直な自分が出てきますよね。5曲それぞれ、いろんなカラーがありつつも、魂の歌というか。改めて恋愛は純度が高いものなんだなって
──自分が何を考えているんだろうと改めて向き合う作業は、まさにこの作品で「恋って何だろう」「愛って何だろう」って考えるプロセスに欠かせないものですよね。その過程でつかんだものって何かありますか?
「恋愛って、すごく正直な自分が出てきますよね。恋をすると、一人になった時にすごく考えるじゃないですか。すごく深く。『どうやったらこっちを見てくれるんだろう』とか、ほんと自分の内面と対話する時間が増えるような気がして。そんな時の自分はめちゃめちゃ素直だし正直だし、ピュアだよなっていうのはすごく思いましたね。だから5曲それぞれ、いろんなカラーがありつつも、魂の歌というか。ほんと誰にも言えない恥ずかしいことを歌っている曲ばかりで、改めて恋愛は純度が高いものなんだなって思いました。まだ弱冠21歳の意見ですけど(笑)」
──先ほども言っていたように、今回のアルバムの出発点は“ハッピーエンド”にあったわけですが、この楽曲はもともと前作アルバムの制作時に内澤さん(内澤崇仁/androp)が作っていたそうですね。その時は別の楽曲(“ストーリーボード”)が採用されたという経緯があって。その後、映画の主題歌としてレコーディングするに至ったわけですが。
「私は、役を演じる時に、勝手にその子のテーマソングを決めたりするんですね。『L♡DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』の葵を演じる時もテーマ曲を決めてたんですけど、それとは別に、いつも頭で鳴っていたのが、内澤さんが前作で書いてくださった、まだデモ段階でしかなかったあの曲でした。その後、主題歌を私が歌わせていただくことになって、『もうあの曲しかない!』って思って、『あの曲が今どうなっているのか、内澤さんに聞いてください』とスタッフにお願いしました。もう誰かが歌ってしまっているかもしれないと思って。そしたら、まだそのまま取っておいてくださってて。それが“ハッピーエンド”という形になったんですが、とにかく嬉しくて、それこそ恋が成就したような気分でした(笑)」
──だから片思いの曲ではありながらも、幸せな気持ちが全面に出てるような曲になってるのかもしれないですね。
「もうほんと、歌いながらニヤニヤしちゃう曲です(笑)。大好きな曲を形にできて、本当に嬉しかったですね。内澤さんも、この曲は私のために書いた曲だったので、ついに形にできる嬉しさがあったとおっしゃってくださっていて、なんだかテレパシーみたいに通じていたんだなって」