これっていうのが一言で言えないのがアイデンティティだと思っているフシもあるんで、感覚ピエロは(横山)
――と言いながら、たとえば“疑問疑答”のあとに“A BANANA”が来たりすると、どっちなんだって思ったりもするんだけど(笑)。
秋月 曲順も、最初はアルバムとして曲順考えようかなとも思ったんですよ。それでパーッと並べてみたんですけど、でも僕らってこういうことなんですよね。“疑問疑答”みたいなシリアスな、ソリッドな曲を出したと思いきや、次に“A BANANA”みたいなのを出すっていう。そこはそのままの順番でいきたいなって。この曲順どおり聴いてもらえたらわかると思う。ひねくれてんやろなって思いますけどね。
――そうなんですよね。だから1枚通して聴くとよくわかるっていうか、ますますわからなくなるというか(笑)。こいつら何者なんだ?っていう。
アキレス ふふふふ。
――新しい名刺をもらったはずなのに、混乱するところもある(笑)。
秋月 でもそれは嬉しいんです、じつは。“ありあまるフェイク”の最後の歌詞で《「てめぇで考えろボケ」》っていうのがあるんですけど、そういうことなんで、言いたいことって。僕らって「“O・P・P・A・I”のバンドですよね」とか、「“拝啓〜”のあのバンドですよね」とかじゃなく、エロとエモとかでもなく、聴く人によって全然変わるんで。僕らも薄いもの作っている気はないし、「感覚ピエロって一言で何?」と聞かれても説明しようがないですしね。
――だから、16曲だと物足りない。やっぱりこれ聴いたら69曲聴きたくなる(笑)。それがこのアルバムの役割なんだろうなと。
秋月 うん。
――そういう意味じゃ『全裸』と言ってるけど全然全裸じゃないのかもしれないなと思います。
秋月 まあ、でも結構さらけ出してる気はしてますよ。でも案外出切ってないのかもしれない。というか、弄んでるのかも、ピエロっぽく。
横山 これっていうのが一言で言えないのがアイデンティティだと思っているフシもあるんで、感覚ピエロは。
――そのアイデンティティはちゃんと出していると。それは確かにそうですけど、よくそれで6年戦ってきましたよね(笑)。それがこのバンドのすごさだと思う。
横山 確かに、いちばんややこしい戦いかたしてると思うんですよ。だって「○○好き必聴」ってついたほうがわかりやすいですもん、当たり前に。そこにはめられないってことは、僕らの入り口にたどり着くまでに結構時間がかかると思うんですよ。でも入り口まで来て扉を開いてしまえば、その人にとってのオンリーワンの存在になれると思う。その入り口まで来てくださいよっていうアルバムにできたのはよかったかな。
――これがこういうベストアルバムになったこと自体が、感覚ピエロの戦いが続いていることの証明ですよね。少なくとも4人にとってはまだ「知ってもらうフェーズ」が続いているんだなっていう。
秋月 もっとコアなベストにもできましたからね。でもそこは違う。
滝口 時が経てばそういうものもあるかもしれないですけどね、望まれるのであれば。
秋月 まだ全然足りない。満足はしないのでね、基本的に。どんだけいきゃあ足りるのかわかんないですけど、たぶん一生思わない。
滾る方向というのは変わってきてます。悪ふざけでおちょくってやろうぜってところから、「俺、こう思ってるんだよね」っていう方向に(横山)
――そんななかでも、ここまでの歩みというのは自分たち的にはどういう感触なんですか? いい感じで来てるなっていうことなのか、なんだかんだありながらどうにかたどり着いたなっていう感じなのか。
秋月 後者ですね。選択肢むっちゃあるなかで引いてきた結果なので。思惑どおりいっているところもあるし、全然真逆なところもあるし。
横山 まだ全然道の途中で汗かいてる途中なんで。がむしゃらに走ってますね。
――最近の曲聴いていると、もちろん初期とは違うかもしれないけど、滾る感じとか衝動性が、また出てきている感じもするし。
横山 バンドが5、6年歳取ったってことはそれぞれの人間も同じだけ歳取っているので、滾る方向というのは変わってきてますけどね。“O・P・P・A・I”みたいな悪ふざけでおちょくってやろうぜってところから、今は向かうべきところが「俺、こう思ってるんだよね」っていう方向に変わってきてる。
――それは曲を書いていて自然に出てくるものですか?
横山 曲を書いているときよりもステージに立っているときのほうが思いますね。お客さんに対して言葉を投げかけているときに――昔だったら乱暴なこと言ってライブを終わってりゃよかったけど、今はちゃんとお客さんに「ありがとう」ということを伝えたいし。そういう変化は曲書くときも、こうして取材を受けているときも、影響は出ていると思いますね。
――うん。そういう意味でも、感覚ピエロがこうして進んでくるなかで、いちばん変わったのは横山くんだと思うんですよね。フロントマンとしての佇まいとか、発信するものとか。
横山 ああ、よく言われます。結成当初は大学生だったのが、今は27で。大学生のときにやってたときのお客さんよりも、今のお客さんは歳下が増えてくるわけじゃないですか。そこに対して自分が何を見せなきゃいけないのかなっていうのはよく考えるし、そういう意味では変わってるのかな。フロントマンとしてやるべきことだったり。
――そうやって横山くんが覚醒することでバンドも変わっていったと思うんですよね。それがこのベスト盤に出ている変化のひとつの要因なんじゃないかなと。
秋月 それはあるんじゃないですかね。やっぱりボーカルが引っ張っていってもらいたいので、ライブとかは。MCも基本的に今は横ちゃんに任せますし、いちばんのバンドの「口」なので。
横山 でもこの5、6年でいちばん変わったのはアキレスでしょ。名前変わってるし(笑)。
滝口 ははははは!
秋月 でも健ちゃんはいちばん変わってないよ。
アキレス 濃くなってるだけ。
秋月 そうそう。沈んでたものが浮き上がっただけ、流木みたいに(笑)。
アキレス 意地でも変わらないつもりなんで、僕は。それを濃くしていくのみなんで、絶対曲げないです。
――だいぶ濃くはなってますよね。
秋月 いろんな意味で(笑)。
アキレス だから、ボーカルが強ければ強いほど、俺はそれに勝とうとしている。
横山 『少年ジャンプ』方式でしょ?
アキレス いちばんの敵、ライバルはここにいる。
秋月 根本的に全員目立ちたがり屋なんですよ。ボーカル食いにいくぐらいの楽器陣なんで。そこで横ちゃんが結成当時より全然勝ってくれてる。昔はめっちゃ言われてたんで、「ボーカルいちばん引っ込むね」って。
――変な言い方ですけど、この個性的なメンツで、脱退とかメンバーチェンジもなくやってこれたというのもすばらしいですよね。
横山 なんとか……。
アキレス ギリギリよな(笑)。
秋月 干渉しないのが秘訣ですかね。もっと言いたいことはあるけど、言っても聞かないので言わないっすよね。
――それは信頼じゃなくて諦め?(笑)。
秋月 諦めですね。信頼は別のところでありますけど、このメンバーと付き合ってくなら、諦めることも大事だなって(笑)。そもそも友達でも幼馴染でもないですし、ぶっちゃけどんな人生歩んできたか知らないし。
――それは逆にいえば感覚ピエロじゃないとなし得ないこと、感覚ピエロだからこそできることっていうのがあるから一緒に続けているんですよね。
横山 それしかないんじゃないですか。無理でしょ、このバンド以外で。
アキレス 信頼というよりリスペクトなんかな。
――やっぱりそれまでやってたバンドとは違う?
横山 ぜーんぜん、違う! それはいい悪いとかいう話じゃないですよ。そうあるべきだし、そうあることが喜びなんだと思うし。でも全然違います。
秋月 このバンドはおもしろいよね。変わってるよ、ほんと。