東京カランコロンが『Melodrive』で作り上げた新たなポップミュージックの方法論


いちろーさんが持ってくるメロディや歌詞はぶれないという確証があるからこそ挑戦できた(せんせい)


――今作『Melodrive』は「『東京カランコロン01』と『わすれものグルービィ』である程度やりたいことをやったし、新しい街に行ってみようかな」というテンション感や空気感がある作品だと感じました。この作風にたどり着くまでにどういう経緯があったのでしょうか?

せんせい 『わすれものグルービィ』がすごく力の抜けたやわらかい作品になったので、メンバー間でも「じゃあ次はどういう方向に行く?」という話がやっぱりあって。これまで東京カランコロンはいろんな曲を作ってきたんですけど、聴いてる人をハッとさせたいとか、ドキッとさせたいというか、緊張感を与えたいみたいなやり方が多かったので、ずっと同じリズムやフレーズが続いていくようなアプローチをしたことがなくて。「生活によりもっと溶け込むような音楽を作ってみたいね」という話になったんです。

――「今までにやったことがないことをやろう」という発想と結びついたのが、今おっしゃったような音楽性だったということですね。

いちろー このミニアルバムに入っている曲を作る前に作っていた曲に対して、メンバー間で「今までとあまり変わらないよね」「もうじゃあ根本的に作り方を変えよう」という話になったんです。“テルミーワイ”以外は全曲その話し合いの後に新しく作っていて、“テルミーワイ”もせんせいが言っていたようなサウンドのテーマに沿ってアレンジを組みなおしました。それが今年の春過ぎぐらいなので、結構短い期間で作った曲ばかり入ってますね。

せんせい 常に進化し続けたい、前に進んでいたいという気持ちがあって。今年の始めに、バンドとアコースティックのツーステージのワンマンライブをやってみたり、いちろーとせんせいの活動も増やしてみたのも同じというか。どんな音楽をやっても、いちろーさんが持ってくるメロディや歌詞はぶれないという確証があるからこそ挑戦できたんだと思います。新しいことをやってもカランコロンの良さは失われない、絶対に揺るがないというものを自分たちで見つけているからなんにでも挑戦できる、可能性をもっと広げたいみたいな感じですね。

――では制作方法もいままでとはだいぶ変わるのでしょうか?

いちろー スタジオワークで音を作ることにこだわってやってきたので、今まではスタジオでセッションで作ることが主だったんですけど、今回はメンバーから「こういうリズムワークの曲を作りたい」「こういうバンドのこういうビートのものを作りたい」というオーダーを俺がもらって、それに合わせてデモを作っていて。

せんせい そのあとにいちろーさんの家に5人で集まってその場で録りながら、1個1個を組み立てていきました。そういう作り方をするとメンバーそれぞれが自分のフレーズをじっくり考えるようになったし、フレーズ1個に対して全員が意見をするようにもなるので、「なるほど、こうしたら自分じゃない人たち、周りはいいと思うんだ」という気付きもあって。

――バンドでの制作の観点が今までとまったく違う作品なんですね。

せんせい 全然違います。やったことないことばっかりかもしれない。でもある意味、なんにも変わってないんですけどね。音楽に対する姿勢とか、伝えたいものとか、歌いたいこととか。そういう根本は全然変わってないです。

歌謡曲テイストからは離れてるけど、いちばんツインボーカルしてるような気がしてるんですよね(いちろー)


――となると、卓上ならではの音作りができたところも、音色の幅を広げる要因にもなっていますよね。

いちろー そうですね。セッションだとその人が急に違う種類のギターに持ち替えることはできないじゃないですか。そういう制限がない制作ができたのはバンドにとっては大きいことでしたね。引き算が突き詰められたのもそれが理由だと思います。どうしてもスタジオで作ると、皆が「スタジオでできることしかできない」という頭になってしまう。それはライブ感とかバンドらしさになっていくと思うんですけど……今回は受け取る人がフレッシュに受け取ってくれればいいなって気持ちですね。

――これまでにない引き出しでのデモ作りはいちろーさんにとっていかがでしたか?

いちろー 「なんでもいいから曲作って」と言われるよりラクですね。「なんか面白いこと言って」って言われたら一番つらいじゃないですか(笑)。

――あははは、確かに丸投げは困っちゃいますね。

いちろー だからどっちかっていうと僕は作りやすかったです。自分はなかった新しいものを取り入れてみて。“もっとLucky”はデモの段階から最近のエレクトロな音楽とか、ビートを引っ張ってきたりして。

せんせい “もっとLucky”はほとんどいちろーさんが初めに持ってきてくれたデモの形を残してて。初めて聴いた時「この曲はなんなの?」みたいなすごい不思議な気持ちになって(笑)。でもそこが絶対いいし、面白いところだなと思いました。

いちろー “ALL OVER”も、ちょっとポストロックっぽいダブステップっぽいものを取り入れてみて。サビくると思ったら歌こないみたいな(笑)。

――“ALL OVER”なんてまさしく曲の構成がダンスミュージックですよね。だからかもしれないですが、今回はツインボーカルも歌ものというよりは音色寄りな印象もあります。それもカランコロンには新しいのでは。

いちろー 響きが綺麗かどうかでジャッジしながら入れていったので、全体的に歌謡曲っぽさはあんまないですよね。カラオケで歌っても面白くないと思います。

せんせい めっちゃ否定するやん(笑)。

いちろー (笑)。聴いていると気持ちいいけど、カラオケで歌うと面白くない音楽ってあるじゃないですか。でもある意味、今回がいちばんツインボーカルしてるなと思ってるんですよね。

――ああ、それわかります。もともといちろーさんとせんせいのハーモニーやツインボーカルって、絵の具みたいだなと思うんですよね。ふたつ合わさることで新しい色ができるし、混ぜ具合によって色が変わる。そこが突き詰められていると思います。

いちろー 特に今回は僕が声を張り上げる曲が本当にないし、わりとふたりとも歌ってるんだけど、曲ごとに違うキャラクターが出せたのは、今までやってるようでできてなかったと思うので、歌謡曲テイストからは離れてるけど、いちばんツインボーカルしてるような気がしてるんですよね。


絶対的な自信があるから挑戦は怖くなかったし、絶対良くなる自信しかなかった(せんせい)


――一般的な流れとは真逆の方向性に進んで独自の音楽の方法論を開拓している。やっぱり、相変わらずめちゃくちゃひねくれてるバンドだし、オルタナティブだなと。けど着地点は絶対にポップなんですよね。

せんせい うん。どんな曲を作ってもポップに落とし込めるっていうのはカランコロンの強みだし、そこに絶対的な自信があるからこそ挑戦することが怖くなかったし、挑戦しても絶対良くなる自信しかなかった。作り方を変えることも、制作の脳みそがいちろーさんだけじゃなく他の4人にも委ねられていることも、まったく怖くなかったんですよね。メンバー5人が東京カランコロンのことを充分知ってるから。

――いつの時代も抗いというか、意地にも似た強い意志がないとできないことばかりやってらっしゃるなと思うんです。だからこうやって今もバンドが続いているんだろうなと。

せんせい みんないい曲作るし、いい歌を歌うし、演奏も完璧な人たちばっかりじゃないですか。やっぱりそういうなかで活動していくことはとても怖いことでもあり……実はきっとすごい単純で、簡単で、何も考えなくてもいいのかもしれない。唯一はっきりしていることは、「自分たちを信じてとにかく前に進むしかない」ということなんですよね。「ここでちょっと10年バンドの底力見せたろう!」みたいな気持ちもあったし(笑)、「やっぱカランコロンは違うね、いい音楽作ってるね」とは常に思ってもらえるようにしたいから。

――今は少しずつ日本のバンドシーンも変わってきていますが、そのなかでも『Melodrive』は前衛的だと思います。こういう作品を出すバンドがいるからこそ、文化は衰退せずにいられるのだろうなと。

せんせい 同じぐらいのキャリアの人たちがどんどん「もうやめよっか」とか「一旦止まろっか」となってるのは寂しいし、一緒にずっと頑張ってきたから……。いろんな理由はあると思うけど、いい音楽を作ってきた人たちを「辞めようか」「止まろうか」と思わせてしまった世の中ぁ~!! ……という気持ちはありますね(笑)。だからこそ余計がんばったる! 絶対がんばろうと思ったし。みんなこんなにいい音楽作ってるのにどうして?って悔しい気持ちはすごく大きくて。

――そうですよね。その心意気が表に出すぎないで、でもしっかり伝わってくるところが音楽的だと思います。

いちろー 今回は歌詞の面でいうと意識的に抑制してますね。言いたいことを言うほうがラクだし、直接的に言わないで伝えるのは面倒くさいじゃないですか。でも今回のサウンド的に味が濃くなっちゃうと聴き心地に影響が出ちゃうなとは思ったので、意識的に抑制しています。

――特に“リトルミスサンシャイン”の《揺れて》はシンボリックだと思うんですよね。「揺れる」とはゆりかごや乗り物、ビートに乗るのように心地よいものでもあり、地震や気持ちが揺れるのように不安定で怖いものにもなったりすると思うんです。その両方の良さを孕んでる言葉は、東京カランコロンの音楽性やメンタリティによく合っている。

いちろー ……それいいですね。僕が言ったことにしたい(笑)。

――不安を抱えながらも楽しいやうれしいことも感じられる。人間ってそういう曖昧で面倒な生き物だと思うんです。そういう感覚が音楽としてクリアに出てる曲が多いからこそ、日常にも寄り添えるんだろうなと。

いちろー ありがとうございます。アルバムの最後の曲の“Blues Driver”のアウトロにノイズが入っているんですけど、それは最初の“リトルミスサンシャイン”の頭の音とつながるように作っているんです。“Blues Driver”は全体を閉める終わりの役割のある曲なんですけど、でも歌っている内容は続いていくという意味を感じ取ってもらいたかったんですよね。あと“Blues Driver”には《詩が囁く》という歌詞があるんですけど。

進んでいくってことって、終わりに向かっていくことだとも思うんですよ(いちろー)


――ありますね。サビに《目覚めて、またたいて、また走って/意味があるかは詩が囁く》と。

いちろー 本当はこの曲には2番もあって、そこでは《死が囁く》と書いていたんですよね。結局不評で削ったんですけど(笑)。でも「死が囁く」というのも、僕のなかで一理あるんですよ。自分たちの生き様は自分たちが発するものに出てくる。その意味があるかっていうのは、本当に死ぬ時にならないとわからないよなって。

――たしかに、「あの時ああしておいて良かったな」や「あの時ああしたことにはこんな意味が生まれたな」と思うタイミングって、それからだいぶ時間が経ってからだったりしますよね。わたしも10年くらい前の出来事をそう思うことがよくあります。

いちろー 中年でもなく若くもない僕らの世代としては、何かすごいことを成し遂げたわけでもないけれど、これから何ができるかもわからない……というのが素直な気持ちだったりもするじゃないですか。それって結局、死ぬときにならないとわからない。進んでいくってことって、終わりに向かっていくことだとも思うんですよ。

――うんうん。よく知っている人が亡くなることも、自分たちが成人した時代に生まれた方々が第一線で活躍することも増えてきました。「もうすぐ人生折り返し地点」という言葉は少なからず頭をよぎりますし、いち個人としては終わりを意識せざるを得ない時期には来ていますよね。

いちろー だから“Blues Driver”は自分のなかで、ちょっと終わりのイメージがあるんですよね。終わりに向かって進んでいくのは気付くことだとも思う……って前向きな気持ちもあるんですけど。

――そうですね。最初に語っていただいた「前に向かっていこう」というバンドの意志ともつながってきます。

せんせい いちろーさんの気持ちはわかるけど、全曲とも断定したくなくて。聴いてくれる人に「これってこういう意味があるのかな?」と考えてもらえたらな、その先を委ねたいな、という気持ちがあったんです。さっき言っていたように、いちろーさんの歌詞は意志がはっきりわかるし押しが強い。でもそうしなくても充分気持ちは伝わるから。いちろーさんの考えてることも1曲1曲ちゃんと入ってるし、もうそれで充分か、みたいな。

――いちろーさんのロマンチストな部分も出てますからね。

せんせい もう全部しっかり出てますね!(笑)

いちろー (笑)。“リトルミスサンシャイン”で「行ったれ行ったれ!」「海にいくぞ!」みたいなマインドを示しつつ、“Blues Driver”で終わりに向かっていく――でもそれが同時にまた「じゃあまた行くか」という始まりにつながっていくという意味合いを持たせられました。

――そういうメッセージや想いがすべて音になっている。これまでの積み重ねすべてで生まれた作品ですね。

せんせい そうですね。意外とみんな根性あるし(笑)、そういうものを持っているからこそ、こうやって前を向いた活動ができているんだと思います。

“リトルミスサンシャイン”

ミニアルバム『Melodrive』2019年9月4日(水)
TLTO 017
 1,800円(税込)

〈収録曲〉
01.リトルミスサンシャイン
02.もっとLucky
03.テルミーワイ
04.見えるHorizon
05.ALL OVER
06.Blues Driver

ライブ情報

ミニアルバム「Melodrive」リリース記念 ワンマ んツアー2019
ミニアルバム「Melodrive」リリース記念 ワンマ んツアー2019
一般発売:発売中

10月5日(土) 福岡Queblick
10月6日(日) 広島BACK BEAT
10月12日(土) 新潟 GOLDEN PIGS BLACK
10月26日(土) 名古屋CLUB ROCKNROLL
10月27日(日) 大阪 LIVE SQUARE 2nd LINE
11月4日(祝・月) 仙台enn3nd
11月17日(日) 渋谷eggman

提供:TALTO/murffin discs
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部