FLOWER FLOWERの3rdアルバム『ターゲット』は、そもそも抜群のプレイヤビリティを持つ4人のミュージシャンが健全に進化し、これまでなかったような振り切れた遊び心を持って、自由に音楽と戯れている作品だ。YUI時代も含めて初めてのデュエット曲があり、バチバチのセッションが発展した曲があり、母性が漲る美しいピアノバラードがあり、全12曲本当にバラエティ豊かで濃密。yuiのソングライターとしての進化と、バンドの進化ががっつり共鳴し、どこまでも成長する生き物のように可能性が追究されている。
インタビュー=小松香里
「できるかな?」って言ったことができたアルバムなんです。結構奇跡が詰まってますね(yui)
――2年ぶりのアルバム『ターゲット』、すごく自由でバラエティに富んだアルバムですね。まず驚いたのが、odolのミゾベリョウさんをフィーチャリングした曲が2曲あって。デュエットは初めてですよね。
yui(Vo・G) そうですね。YUI時代からも初めてです。
mura☆jun(Key) 急に「デュエットにしたい」って言ってたよね?
mafumafu(B) はじめ「歌える?」って訊かれて。
mura☆jun そう、mafumafuが。
mafumafu 「歌ってみて! 『あ~!』って言ってみて」って言われて、「あ~!」って言ったら、「ふーん」みたいなこと言われて(笑)。
mura☆jun オーディションに落ちた(笑)。
mafumafu こりゃ違うなみたいな。
yui 結構探したんですよ(笑)。ちょっと低めで、ちょっとダンディーで、洋楽っぽいメロディ歌える人いないかなって思って、いろんな人の声聞いたりして。
――ミゾベさんは、相鉄線都心直通のCMムービーでコラボしたのがきっかけですか?
yui そうなんです。その時はお会いしてなくて。今回「いい声の人いないかな?」って思った時に、相鉄線の曲を思い出して、「来てくれないかな?」って言ってたら来てくれることになって。
──デュエットの発想が出てきたのはどうしてだったんですか?
yui 特に洋楽で、フィーチャリングの曲で好きな曲が多くて。チェインスモーカーズの曲で男性と女性の声が混じったすごい好きな曲があって。それがすごくきれいだなって。で、こういうことやってみたいなっていうのがずっと頭の片隅にあって。「できるかな?」って言ったら、「できるかも」ってなって。今回、「できるかな?」って言ったことが結構できたアルバムなんですよね。最後マスタリングを「テッド・ジェンセンにお願いできるかな?」って言ったらできることになって。結構奇跡が詰まってますね。
sacchan(Dr) 〆切が結構やばかったんですけど。
yui うん。あと一週間みたいなところでできたので。これ以上ないんじゃないかっていうぐらいで。
mura☆jun 最初“ふたり”をデュエットイメージがあるって言ってて、デモで男性パートを入れて。
yui それで1曲だけだともったいないなって。せっかくだから2曲歌ってほしいなって思って。“ふたり”の方は声が目立つというよりは馴染むって感じだったので、“熱いアイツ”はもう少し声の特性を活かしたようなイメージにしましたね。
sacchan 全然違う2曲だもんね。
yui うん。アルバムのレパートリーの色が増えた感じがしますね。
(“熱いアイツ”は)セッションですぐできちゃって、でも2年くらい寝かせてて。前のアルバムの時にはできてたんですけど、今回のアルバムに入ることですごく化けた(mafumafu)
――“ふたり”の歌詞は割とストレートな男女のラブソングのデュエット曲という印象です。
yui 初めてレコーディングでボーカルディレクションみたいなことをやったので緊張しました。ミゾベさんは2曲を1日で歌ってくれたので疲れたんじゃないかな(笑)。人にディレクションするのはやっぱ難しいんだなって。なんて言ったらいいんだろうとか悩みましたね。私は歌で「ラララ」で、「こういう感じ」とか伝えられたからいいんですけど、歌わない人は大変だろうなとか(笑)。
――音楽性は、艶っぽいエレクトロソウルみたいな。
sacchan そうですよね。俺は勝手にUKソウルみたいなイメージでやってて。ひんやりしたところがありつつ、情熱的なところをリズムで狙えればなって思って打ち込みを入れてみたりしたんですけど。
──一方、“熱いアイツ”はファンキーなギターカッティングから中華っぽいテイストもあるファンク。どんなアイツなのかと思ったら、小籠包がものすごく食べたいという曲で(笑)。
yui (笑)。「おもしろい歌詞書きたいんだよね」って結構前から言ってて。「小籠包のこと書いたらいいんじゃないか」って言ったら、sacchanが「『じゃあ生姜がない』と『しょうがない』をかけたらいいんじゃない?」って。それを完全に使わせてもらってます(笑)。《小籠包食べたい》っていう歌詞以外は、恋人との曲なのかなって思ったりもするし。
sacchan 僕はそう思った。心の中で僕はラブソングじゃないじゃないのかなって勝手に思ってて。
──3rdアルバムにして、こういう遊び心に振り切った曲が聴けたことにもすごくワクワクしました。
mafumafu これもセッションですぐできちゃって、でも2年くらい寝かせてて。前のアルバムの時にはできてたんですけど、今回のアルバムに入ることですごく化けたというか。
yui ミゾベさんのバンドのodolの曲はかっこいい曲調だったので、「この曲歌ってくれるかな」って心配したんですけど。歌詞は完全に私のいたずら心で。ミゾベさんにこんな言葉を歌わせたいっていう気持ちが強くて(笑)。いい意味で裏切られた感というか。それまでいい歌詞があったはずなのに、なんでサビで小籠包なの?みたいな感じとか。ミゾベさんとはすごく話しやすくて。福岡の同郷なので、福岡話で盛り上がったりしましたね。
(“浄化”は)腱鞘炎まっしぐらみたいな(笑)。でも、こういう呆気にとられるような曲があってもおもしろいかなって(mafumafu)
──皆さんのプレイヤビリティが思いきり炸裂してるのが“浄化”。ドラマティックな鍵盤からゴリゴリのアンサンブルに突入するんですが、どうやってできていったんですか?
mafumafu これも結構昔にセッションの流れでできた曲なんですけど、今回のアルバムに入れるにあたって、テンポをバカみたいに上げてみようって。ギター入ってなくてピアノトリオ編成なんですけど。
mura☆jun マラソンみたいなことやりました(笑)。
mafumafu それで限界が見えて「ここでやめよう」みたいな。
yui 演奏がみんなかなり速いよね。スラッシュ。
mura☆jun スラップ(笑)。
yui スラップ(笑)。
mafumafu 全員が速い(笑)。息できないみたいな。
yui だからこの曲と“時計”とかを続けて演奏すれば、mafumafuは完全に腕が痛いです(笑)。
mafumafu 腱鞘炎まっしぐらみたいな(笑)。でも、こういう呆気にとられるような曲があってもおもしろいかなって。
──歌詞では、《誰の為だとか自分の為だとか/戦う必要あるのかな》《目の前にある/小さな幸せ/気付かずに過ごしてる》と。戦わない選択肢もある中で、どう心を強く持って前進できるかということが歌われていて。大人だからこその問題の向き合い方というか。
yui この曲は仮タイトルを“ガンダム”ってつけてたんですけど(笑)。私は『攻殻機動隊』のアニメのイメージがあって。歌詞を書いていく中で、平和を願うというか。昔『プライベート・ライアン』とか観た時に、かなり衝撃ですごく悲しかったりして。あと、10代の時に読んだ小説で、海外の女の人が、悲しいことが起きたところに行って怪我の処置をする話があって。その人の言葉がすごく胸に残ってて。《一雫》って歌詞にも入ってるんですけど、「一雫何もしないと本当に何も起きない。でも少しでも誰かが手をあげたとしたら、それが何かに関連していくかもしれない。広がっていくかもしれない。それはやってみないとわからない」っていうようなことが最後に書かれてて、ずっと残ってたんです。そのことと、戦いがない世界になったらいいなっていう思いが合わさって歌詞ができていきましたね。
ポップなのにみんなの変態性がちゃんと出てる。これがナチュラルにできるようになってきてるのがすごい(yui)
──セッションというところでいうと、“ベン”はジャズセッション的な曲で。レコーディング現場でのyuiさんの発言や、犬の鳴き真似みたいな声もそのまま入ってて。
yui これもすごいおもしろかったんだよね。冒頭の「わんわん」って声は最初入ってなかったんですけど、隠しトラックにしてたのをmura☆junに見つかって。
mura☆jun それを1曲の中に入れて、みんなに聴かせたら「ええやん」みたいな。
yui それでこんな感じで吹っ切れてしまいました(笑)。“熱いアイツ”でかなり遊んでるので。
mura☆jun うん、もう1曲くらいはこういう方の力抜けてる曲があった方がいいかなって。でも、バンドは楽器で戦ったりしてるっていう曲があった方が聴き応えがあるなって思って。
yui ポップなのにみんなの変態性がちゃんと出てるよね。これがナチュラルにできるようになってきてるのがすごいなって思いました。
──なんでベンだったんですか?
yui ベン・フォールズ・ファイヴのベンですね。この前、mura☆junが海外行った時に、WEEZERのレコード買って来てくれて。それで、私、10代、20代の時にべン・フォールズとかレッチリとかWEEZERを聴いてたんで、青春だなって話になって。その時にみんな「ベン・フォールズ聴いてた」って言ってて。
sacchan ファースト出た時衝撃だったもん。
mura☆jun そういえば“ベン”って、初めて仮タイトルがそのまま本タイトルに昇格した曲だね。
yui そうか。ピアノの弾き方も衝撃で。眼鏡が鼻のあたりまで落ちてて汗だくなのに、こうやってメガネの上から覗きこむように見てるんですよ。すいません、マニアックで(笑)。
──(笑)。《歌詞なんか/読まない/意味なんて/知らない/けど残っている》と。それこそ音楽ってそういうものなのかなと。
mura☆jun まさに。
yui ちょっと少女が歌ってるイメージで書いていったんです。「意味は知らない、でも聴いてる」みたいな。でもずっと残り続けてるってことには意味があるって思います。
──演奏面での進化と、伸び伸びと遊んでる感じが自然と混在してるのが、大きな変化だと思いました。
mura☆jun 確かに、「いい曲たくさん並べよう!」みたいな気張った感じがあまり感じられないですもんね。
yui 今までで一番みんな肩の力が抜けて、なおかつちゃんと意志の強さが込められた気がします。
――バンドの活動期間も7年位になってきて。そもそもyuiさんがFLOWER FLOWERを結成した当初の「自由に音楽に取り組みたい」という気持ちが、どんどん達成できているんじゃないでしょうか?
yui そういう意味では、結成の時に、私sacchanに電話して「ファンクやれる?」って訊いたらしいんですけど。いつかsacchanに「そう言われたんだよ?」って言われて。でも私は覚えてないから「え、ファンクって何?」って(笑)。でも今回やっと“熱いアイツ”で、私が言ったであろうファンクをやっと達成できたかなって。
sacchan 電話で「Fのファンクだよね?」って何度か確認して(笑)。それで最初のうち、割とヘビーなファンクをmafumafuと演奏していたら、「私ファンクわからない……」と(笑)。
yui・mura☆jun・mafumafu (笑)。
sacchan そう言われて、いいバンドだなって僕は思いました(笑)。
──でも、みんながどう出るかわからないのもこのバンドのおもしろさだと思うので(笑)。
mafumafu ああ、そうだと思います。
yui 私が「ファンクわからない」って言った時、sacchan、「yuiちゃんが言ったんだよ?(笑)」ってめっちゃ笑ってましたけどね。「あ、そうだったんだ」って。よくこの私と一緒にやってくれてるなってほんと思います(笑)。
mura☆jun・mafumafu・sacchan (笑)。
“夢" Short ver.
“浄化” short ver.
ニューアルバム『ターゲット』発売中
初回生産限定盤(CD+Blu-ray) 7,100円+税
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通常盤(CD) 3,000円+税
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〈収録内容〉
DISC 1(CD)
01. 蜜
02. 夢
03. Sunday
04. 人魚
05. 熱いアイツ feat.ミゾベリョウ(odol)
06. 愛のうた
07. 浄化
08. 砂浜
09. ベン
10. 旅の途中
11. ふたり feat.ミゾベリョウ(odol)
12. 朝
DISC2(Blu-ray) ※初回生産限定盤のみ収録
『インコのhave a nice dayツアー2019 Live on 10.20 Zepp DiverCity』
月/時計/素晴らしい世界/とうめいなうた/席を立つ/命/コーヒー/灯火/秋/炎/蜜/神様/Rolling star/パワフル/踊り/バイバイ/スタートライン/ひかり
ライブ情報
「インコのhave a nice dayツアー2020」詳細はオフィシャルHPにて
http://www.flowerflower-net.jp/
提供:ソニー・ミュージックレーベルズ
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部